【人事労務の時言時論(第11回)】
「『打切補償』の形骸化」 弁護士 小池啓介
【エッセイ】
「企業ブランドは社員が決める」・・・株式会社新規開拓 代表取締役社長 朝倉千恵子様
「南米旅行への旅のおすすめ」・・・・・・池谷光代様
【連載エッセイ】
「【重慶通信】反日デモは『まだら模様』」四川外語学院(重慶)福田繁様
【労働法と労務管理の基礎(第10回)】
「人的資本の価値を高めるキャリア権」 弁護士 髙井伸夫
【ティータイム】
弁護士 渡辺雪彦
【北京だより(33)】
「海外高校生による日本語スピーチコンテスト」
・・・・NPO法人エデュケーション ガーディアンシップ グループ JSA中国事務局 佐久間徹様
【上海だより(34)】
「上海凱阿の呟き その1」 滋慶投資諮洵(上海)有限公司特別顧問 上海和僑会顧問 浅地安雄様
【事務所行事報告】
・ 『会社分割の理論・実務と書式〔第6版〕』のご案内
・ 平成25年 事務所年末講演会のご案内
・ 第15回 人事・労務実務セミナーのご報告
・ NPO法人キャリア権推進ネットワーク
・ 上海代表処活動報告
・ 北京代表処活動報告
・ 皆様のご趣味をお寄せください
<同封物一覧>
(1) 『会社分割の理論・実務と書式〔第6版〕』改訂版刊行のご案内(兼申込書)
(2)判例・事例から見えてくる労務対策セミナー(1)「労働基準法41条の管理監督者の要件について」のご案内(兼申込書)
(3)M&A・行政書士のご案内
(4)オンラインサービスのご案内
(5)中国情報№63
経営法務情報「Management Law Letter」は、顧問会社及び弊所のお客様に無料にて配布しております。ご質問等ございましたら、下記までご連絡下さいますようお願い申し上げます。
問合わせ先担当:梅澤 tel 03-3230-2331
【巻頭言】「労働法制の改正と社会的背景」 弁護士 岡芹 健夫
1 平成24年度の労働法制の改正
私は平成6年4月に弁護士登録をして、この事務所報が出る際には満19年となる。我ながら驚くべき年期を経たものであるが、その19年の弁護士人生の中でも、前年(平成24年)度は、あまり覚えのないほどに、労働法制の改正が重なった年度であった。具体的にいえば、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律改正、労働契約法改正(有期労働契約の法制の改正)、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律改正、といったものである(以下、順に「派遣法」、「労契法」、「高年法」という。)。
2 労働法制改正の法効果
右の3つの法改正は、いずれも、これまでの裁判例により確立された法理を確認するだけのもののみならず(その一例が労契法19条である)、新たに法効果、それも労使間の私法上の法効果を創出するものを含んでいる。その一例が、労契法18条であり、これを簡単にいえば、複数の有期労働契約の通算期間が5年を超過すれば、原則として、労働者から使用者への、無期労働契約への転換権を創出しようというものである。したがって、実務的影響が大きく、かつ、その法効果は、おおむね、使用者の負担のもとに、労働者の雇用保障を強化する方向のものとなっている。
3 法改正の社会的背景
民主国家においては、いかなる法改正も、それを必要とする社会経済的な背景と、それを基礎とする国民の一定のコンセンサスがあって行われるものであるが、前述の3つの法改正も、要するに、グローバル競争の進展と少子高齢化によるわが国経済の低迷により、特に若年層において、労働条件の低い非正規雇用が広まったことに対処する必要があったこと、財政状態の悪化により高年齢者への年金支給を削減する必要があったことが背景にある。
しかし、本来の国家的施策は、こうした社会的背景及びその原因を所与の前提としたうえで、その弥縫策に終始するのではなく、そうした社会経済的背景および原因を修正、改善することにも重きをおかねばならない。ましてや、その社会的背景が好ましからざるものであればなおさらである。この点、わが国のグローバル競争力の低下、少子高齢化といった背景に対し、わが国の既存の労働法制が寄与してしまっている部分がないであろうか。
このような議論が、少なくとも公の場であまりみられないのは、労働実務に携わる一国民として、残念に思っているところである。
以上
【人事労務の時言時論(第11回)】「『打切補償』の形骸化」 弁護士 小池啓介
1 一般的な就業規則
従業員が業務上の傷病により療養している間、使用者は従業員を解雇することはできません(労働基準法〔以下、「労基法」といいます〕19条1項)。しかし、同条項但書は、そのような従業員であっても、使用者が労基法81条の規定によって打切補償を支払った場合は、解雇することができる旨を規定しています。
労基法81条 第75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
労基法第75条1項 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
このような規定を受けて、一般的な就業規則には、以下のような規定が設けられています。
第●条 従業員が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。
第●号 業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、従業員が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打切補償を支払ったときを含む。)
(厚生労働省「モデル就業規則」より)
このような規定からは、使用者は打切補償を支払うことによって、業務上の傷病のため3年以上療養している従業員を解雇することができるように思えます。しかし、平成24年9月28日東京地方裁判所判決(S大学事件)は、使用者が、業務上の傷病により5年以上欠勤・療養している従業員に対し、法定の打切補償(約1630万円)を支払って解雇したという事案について使用者の行った解雇を無効と判断しました。
2 打切補償を支払っても解雇できない
裁判所が右判断において示した理由の要旨は以下のとおりです。まず労基法19条但書が打切補償を支払うことによって解雇を認めている趣旨は、使用者が、自らの負担で、従業員に対して療養補償を支払っている場合(使用者が労基法75条・81条に基づいて療養補償を支払っている場合)に、療養補償の支払いが長期化することによる使用者の負担を軽減する点にある。しかし、従業員に対する療養補償が労災保険から支払われている場合は、使用者は労災保険料を納付する義務を負うのみであるから、使用者の負担軽減を考慮する必要はない。したがって、療養補償が労災保険から支払われている場合は、使用者が打切補償を支払ったとしても、それは労基法81条の規定によって打切補償を支払ったものとは認められず、労基法19条1項の原則どおり、解雇は許されない、というものです。
このような理由・結論は、以前から学説としては存在していましたが、明確に判決の形で示されたことはこれまでなかったようです。従業員が業務上の傷病によって療養している場合、労災保険から療養補償が支給されることは、むしろ通常のことですので、右記判決の結論に従えば、使用者が打切補償を支払って従業員を解雇することができるケースは例外的、ということになります。
3 解雇前にご相談下さい
使用者としては、解雇無効のリスクと支払った打切補償を回収するリスクの双方を負う事態は避けなければなりません。
規定に形式的にのっとって処理していても、それが常に有効とは限りませんので、問題ないと思われる場合でも、解雇等重大な処分を行う場合には、事前に当事務所にご相談いただければ幸いです。
以上
【エッセイ】「企業ブランドは社員が決める」
株式会社新規開拓 代表取締役社長 朝倉千恵子様
1 「飽きさせない」から「商い」
景気が安定しているとき、あるいは右肩上がりのとき、人はさほど猜疑心を持たずにモノを買います。ところが、景気が悪くなると、一転して「本当にこれでいいのか」「絶対に損をしたくない」と、すべてを疑ってかかるようになります。人・物・金、情報、システム・・・経営資源すべてを試され、取捨選択されていきます。
起業の起の字は「己が走る」と書きます。言葉を選ばずにいうと、起業は誰でもできますが、「人を止める」と書く企業はそうはいきません。事実、「中小企業白書2011」(経済産業省)の統計結果によると、仮に一万社起業したとして、次の年に残っているのは50%。さらに10年続く企業ともなると、3%しかないといいます。業種・業界問わず、すべての経営トップは皆、必死で企業存続のためにどうあるべきか、どうすべきかを考えています。
その鍵は「信頼」。企業にとって最強の武器になるのが「信頼関係」の構築なのです。
経済が安定しない状況下、お客様は一時的に消費を控えるかもしれませんが、不安心理が強い分、「ここだったら安心だ」という信頼をおけるところには、必ず財布を開いてくれるものです。「あそこは別格」「あの人から買いたい」、さらには「あの人がいないのなら今日は買わない」とまで言われるようになれば、この時代に克ったも同然なのです。
では、信頼関係を築くためにはどうすればいいのでしょうか。その要素はいろいろあると思いますが、主に次の「営業的」要素が鍵を握っていると思います。
第一に、最後まであきらめずやり続ける責任感と執着心、中途半端は何もしないよりなお悪い、やると決めたらとことんやる、一度決めたことを簡単に放棄せず最後までやりきろうとする気構えと心構えが大事です。しかしながら、第二に「何が何でもとことんやる」には、自分の利益だけを追い求めていては、長続きしません。営業の「営」は「いとなむ」と読みますが、怠ることなく励み、継続されている状態を表します。自分よし、相手よし、更には世間よしの「三方よし」の関係が成り立っていない限り、続かないものなのです。第三に、「飽きさせない」ことです。お客様を飽きさせない話題・会話、雰囲気、サービス。つまりは商品以外のモノ、付加価値を提供できるか否か次第なのです。なぜなら「商い」は「飽きさせない」からこそ成り立つのですから。
2 「3Sで行け!」おそい、とろい、のろいは誰でもできる!
とはいえ、企業存続の鍵となる「信頼関係」も一瞬で壊れてしまうものです。それもその多くが小さなミスの放置から・・・。小さなミスを放置するとやがて大きなミスにつながります。だからこそ社員(部下)には、繰り返し繰り返し、物事の重要性を伝えていく必要があります。まさに「言って、言って、言って、言って、言え!」というほどの「本気」と「根気」が必要です。上司が冷めていて、部下に“熱くなれ!”では無責任であり、「妥協」「怠惰」「無責任」は企業を崩壊させる最大の近道となるのです。
だからこその人財育成です。「いかにして社員(部下)をお客様に信頼される=愛される社員にしていくのか」、そのような人間教育と道徳教育がこれからの企業を繁栄させる大きな要となるのではないでしょうか。
そのためにもまず3S(スピーディー・すごい・さすが)でいくことが肝心です。おそい、とろい、のろいは誰でもできます。人生そのものが自分を売るという点において、すべての人に営業は不可欠であり、人が、社員が企業にとって最大の財産なのです。
商品力、会社ブランドに頼った時代から、いよいよ、本物が問われる時代、“人で勝負!”の時代が到来しました。今こそ「人間力」で仕事をする最大のチャンスです。「まさに、事業は人にあり」、企業ブランドは社員が決めるのですから・・・。
以上
【エッセイ】「南米への旅のおすすめ」 池谷光代様
“南米”と聞くと何を思うでしょう?どんな場所か想像してみてください。明るく陽気な人たちが住んでいる土地、大自然が豊富な土地、気候が温暖な土地等、大体の方がこんなイメージをまず持たれるのではないでしょうか?きっと、南米大陸の南に行けば氷河もあり、雪が降る地域もあることを最初にイメージする人は、少ないでしょう。
メディア等が発信する一部の国や地域の情報が、“南米”という大きな大陸にもかかわらず、限られたイメージをつくり出してしまっているようです。それは、日本から一番遠い場所であり、まだまだ知られていない未知の世界がたくさんあるからだと思います。この大陸には、12の国々があり、すべて文化も習慣も違う人々が暮らしているのです。日本を含むアジア諸国だって、それぞれ文化・習慣や考え方が違います。南米も同じです。それぞれ、違った顔があります。
今回は、南米の中でも私が10年間過ごしたアルゼンチンの話をさせていただきます。アルゼンチンは日本の7.5倍の国土をもつ大きな国です。北はインカの文化の影響を大きく受けた土地で、巨大サボテンが広がる遺跡や、七色の渓谷などの自然美が楽しめ、北東には、世界三大瀑布の一つとして有名なイグアスの滝やジャングル地帯、南にはアンデス山脈から氷河が湖に流れ落ち、青く光る氷河群や、鯨やペンギンが生息していたり、西にはアンデス山脈と真っ青な湖と緑の美しい森林地帯、東側には、首都であるブエノスアイレスといった多くの顔をもっています。ブエノスアイレスは、ヨーロッパ風の建造物が並ぶ大都市です。またユネスコのデザインシティにも登録されています。
アルゼンチンは親日家の国で知られていますが、ブエノスアイレスの地下鉄A線には、赤く塗装された東京の丸の内線旧車両、D線には名古屋の東山線の旧車両が走っています。日本で初めて地下鉄がつくられた際には、日本からブエノスアイレスに視察団が派遣されています。現在の日本のテクノロジーから考えると嘘みたいな話ですが、その時代の世界の最先端にいたのではないかと想像できるぐらい、今も洗練された雰囲気の街です。
その街の中心にあり、世界三大劇場の一つであるコロン劇場では、素晴らしい音楽やオペラが楽しめ、1858年にオープンした老舗のカフェでは、大理石の柱が歴史を感じさせつつ優雅な雰囲気を生み出し、ウェイターは全員ブラックタイをした年配の男性と、そのプロフェッショナリズムな感じ一つとっても、洗練された街の雰囲気をつくり出しています。また、若い人たちはとてもエネルギッシュ。10年程前から若いデザイナー達が古い家をカフェ・レストラン・店舗などにリフォームし、元々ある石畳の道路とのコンビネーションもさらに手伝って、スタイリッシュな雰囲気の地区をつくり出しました。そのパレルモ・ビエホと呼ばれる地区は、昼間はショッピングやお茶を楽しむ人々で賑わい、夜は活気あふれる若者が集うエリアとなっています。
アルゼンチンの夜はとても長いです。レストランの夜の営業は20時オープン、しかし満席になるのは21時や22時になってから。結婚式などのパーティも夜に行われ、披露宴の21時開始は当たり前。朝八時にクロワッサンとカフェオレが出てきてお開きになるといった具合です。しかし、こんな夜型の生活なのに、ビジネスアワーは日本と全く一緒。大都会にはシエスタの習慣もありません。
さて、私の話をここまで聞いて、“南米”のイメージが少しずつ変わってきましたか?少し、変わってきたって思う方。えっ?話の途中でいきなりもう終わり?って思う方。実際に行って、話の続きを体験してきてください。今までにはなかった新しい発見、大きな驚き、体験にきっと出会えるはずです。
Buen Viaje!
以上
【連載エッセイ】「【重慶通信】反日デモは『まだら模様』」四川外語学院(重慶)福田繁様
春です。桃の花が満開です。女子学生寮のベランダでは洗濯物がそよ風に揺れています。色とりどりの下着が目にまぶしい、うっとりするような眺めです。
あ、申し遅れました。わたしは中国でビジネス日本語を教えている者です。81の爺です。南京、西安、青島、蘭州、長春そして今は重慶の各大学で教えています。もう16年になります。
サラリーマンの現役時代、中国とは全く縁のなかった私が、定年後の人生をこうして中国で送ることになろうとは、まったく「想定外」でした。定年直前、香港の合弁会社に出向、そこで中華世界の混沌に出会い、その魑魅魍魎(チミモウリョウ)に魅せられて、63のとき中国に語学留学、2年後、何とか日常生活が送れるようになったころ、中国人先生に、「今度は学生たちに教えてみないか」と言われて、ホイホイ乗ったのが運の尽きでした(笑)。
さて、尖閣問題ですが、昨年秋の反日デモはひどかったですね。ただ、ここ重慶はほとんど影響がありませんでした。キャンパスの中にはビラひとつなく、授業も平常どおり、市内でもデモはほとんどありませんでした。重慶はご承知の薄熙来のお膝元です。事件の後を引き継いだ張徳江は、今度のチャイナセブンのナンバー3になった人ですが、昇格を前にして、ひたすら穏便安定を心がけたのかもしれません。とにかく穏やかでしたね。
日本のメデイアでは中国全土でデモが荒れ狂ったような印象を受けますが、実は各地方でかなり「まだら模様」だったのです。ちょうど政権交代を目前にひかえ、激しい権力闘争が繰り広げられていました。各地方の首長さんの政治的立ち位置によってデモの度合いが異なっていた、という見方もできますね。つまりデモは「官製度」が高かった、ということでしょうか。
ビジネスへの影響ですが、昨年暮れ、あるパーテイーで進出日系企業の幹部の方たちとお会いしましたが、トヨタや資生堂など、「日本」が表に出るところはかなり大変のようでした。しかし、部品や精密機器の分野では「ほとんど影響なし」という方が圧倒的でしたね。また成都のヨーカ堂やセブンイレブン、重慶のローソンなども、すぐに回復したということでした。庶民の日常の買物には政治なんて「カンケーないよ」ということでしょうか。
先日お会いした地元のある上場会社の社長は、「日本にはまだまだ学ぶことが多いですよ。丹羽元大使が、『中国の中にもう日本に学ぶことはないという意見があるようだがそれは傲慢だ』、とたしなめられたそうですが、全く同感です」と言っていました。彼は技術を持つ日本の中小企業と提携するために毎年日本を訪問するそうですが、その拠点として今度銀座に4億円でオフィス兼用のマンションを買ったそうです。
また暮れに某大手商社のトップが重慶市長を訪問したとき、市長が「島の問題」はそっちのけで、日系企業の進出を何度も何度も促し、時間を大幅に超過したという話を聞きました。重慶は「両江開発区」という内陸部唯一最大の保税加工区を建設中ですが、例の薄熙来事件の影響で外資の進出の足が止まっているという事情があるのでしょう。とにかく地方の首長さんにとっては地元の経済成長が何よりも大事、たとえGDP至上主義などと批判されても、「政績」、つまり中央の評価は「GDP成長率」で決まるところが大ですから。
それにしても中国は広い。十把ひとからげに「中国は」とか「中国人は」とか言うことの空しさを感じます。これからの日中関係は「低気圧ときどき嵐」という状況が続くでしょうが、各地方それぞれの「政治背景」を含めた細かい分析が、これまで以上に大事になってくるような気がしますね。
以上
【労働法と労務管理の基礎(第10回)】
「人的資本の価値を高めるキャリア権」 弁護士 髙井伸夫
日本の国力の劣化を社会資本という切り口からも私に意識させたのは、「このまま何もしなければ、東京オリンピック開催50周年の14年は、同時に『日本の社会資本崩壊元年』になる恐れがある」(根本祐二氏)というコメントであった(『エコノミスト』2011年7月号)。
この記事を読み、人事・労務問題を専門とする弁護士として直感したのは、社会資本と並び国力を支えるもう一方の柱であるヒトの仕事の能力の問題であった。どれほど優秀な人材でも本気で勉強し続けなければ力が落ちるのは当然だが、能力の劣化は、建造物や道路等の劣化よりも外観からはわかりにくい。
これより前、私は、諏訪康雄先生(中央労働委員会会長)が大学院で教鞭を執られていた07年7月に、先生が予てより提唱されていたキャリア権概念の存在を直接ご教授いただく光栄に浴し、この考え方を勉強して社会に広め立法化することをめざし、キャリア権研究会(座長・諏訪先生)を主宰した(08年4月~10年5月)。そして、研究会の成果は「報告書」にまとめ刊行した。
キャリア権概念とは、法的議論はおき、要は働く者が自らの能力を高め、個人も企業・組織も共に発展することにより、社会全体の力を高めようとする考え方である。自らの能力とキャリアの向上のために努力する個人へのバックアップを、国をあげて行う必要があるとするこの新しい概念は、当然に国力向上に資する。ただ、いくら高邁な理想でも社会に浸透しなければ意味がない。本研究会を契機にこの4月にNPO法人キャリア権推進ネットワークが設立されたが(本紙八頁)、キャリア権を社会に普及するには、企業も含む万人が納得する大義名分が必要である。
この点、本や資料を乱読し模索していたところ、「日本が豊かさを維持するためには、いかに人的資本を増やすか、そのことにかかっている」という一文に、発想のヒントを得た(日経新聞「あすへの話題」青柳正規氏「国の豊かさ」)。日本は水以外の天然資源に恵まれないため、社会的に生み出した成果、いわば社会資源を富ます以外に豊かさは得られない。社会資源には、物的な社会インフラ等である社会資本と、教育や労働力等の人の価値の総和としての人的資本があるだろう。日本の人口は減少し続け、2100年には今の半分以下、5000万人足らずになるという予測もある。単純に考えても、人的資本の価値を倍増させなければ日本は今の豊かさを維持できないのだ。
人的資本の価値を高め、国としての豊かさを保つための重要な方途として、まさにキャリア権概念は位置づけられるべきなのである。こうした大きな思想のなかでキャリア権を捉えてこそ、初めて、社会一般にも企業や政治家にも受け入れられる素地ができる。多くの人・組織・団体がこの考え方に関心を持ち、NPO法人の活動に参加してくださることを願っている。
以上
【ティータイム】 弁護士 渡辺雪彦
私のストレス解消法の一つは、美味しいご飯を食べることです。仕事の関係で頻繁に出かけることはできませんが、時間があるときにはミシュランガイドやインターネットなどで調べて食べに行っています。
最近では、イル・テアトリーノ・ダ・サローネ(イタリアン・広尾)、スパイスカフェ(カレーライス・押上)というお店に行きましたが、どちらも本当に美味しかったです。今後は、いし橋(すき焼き・末広町)、小笠原伯爵邸(スペイン料理・新宿)、金竜山(焼肉・白金高輪)に行く計画をしています。
グルメ弁護士と称してブログでも始めてみようかなと思いつつも、味に関するボキャブラリーが「本当に美味しい」、「普通に美味しい」、「普通」の三種類しかない私では、感動をうまくお伝えするのがなかなか難しいです。
以上
【北京だより(33)】「海外高校生による日本語スピーチコンテスト」
NPO法人エデュケーション ガーディアンシップ グループ
JSA中国事務局 佐久間徹様
毎年7月に当法人主催で、「海外高校生による日本語スピーチコンテスト」を開催している。高校の第一外国語といえば、やはり英語ではないだろうか。私自身も高校時代は英語を勉強したし、読者の多くのみなさんも同様のことだと思う。しかし、中には私たちの母語である日本語を勉強している高校生たちもいるのである。
それでは、中国ではどのぐらいの高校生たちが日本語を勉強しているのだろうか。現在の正確な数字はわからないが、2009年の国際交流基金の調査ではおよそ5万9000人(中学生も含む)である。
私は以前中国の中・高一貫校で日本語を教えていたこともあり、こうした日本語を勉強している生徒と直接かかわりをもったことがある。そこで感じたことは、彼らはある意味私以上の“日本好き”であるということだった。あるクラスでは日本語の授業で使うニックネームをみんなもっていた。そこには、「ドラえもん」をはじめ、多くの日本のサブカルチャーで登場するキャラクターの名前があった。何の名前なのかわからず、聞いたことが多々あったものである。彼らの興味はまたサブカルチャーだけではなかった。漢字の差異や方言のおもしろさなど幅広い範囲にまで及んでおり、彼らのその視点に私自身が驚かされた記憶がある。
こうした彼らの“日本好き”は私たち日本人にとって将来の希望であり、宝だ、と私は思っている。
最後にある学生が詠んだ俳句を紹介して、本稿の結びとしたい。ここには日中国交正常化40周年を迎えた両国に対する平和への願いが込められている。
せせらぎに 氷は溶けて 春となり
以上
【上海だより(34)】「上海凱阿の呟き その1」
滋慶投資諮詢(上海)有限公司特別顧問 上海和僑会顧問 浅地安雄様
私が中国本土に初めて足を踏み入れたのは1999年である。前年、某民生機器メーカーY社で5年半にわたる欧州駐在から日本に帰任し、社内ではちょうど中国市場戦略の再構築議論をスタートしていた時期で、当時中国は江沢民・朱鎔基政権が2001年のWTO加盟に向け「国退民進」政策の下、経済構造改革を必死に進めていた時である。
私は長年Y社で海外マーケティングに携わり、最初のカナダ(トロント6年半)駐在時、80年代の「自動車・半導体・農産物で日米貿易摩擦に揺れる北米市場」を体験した。その後一九九三年より、ベルリンの壁崩壊を契機として冷戦体制崩壊後に生まれた統一ドイツやEU、東欧、ロシアなどの市場を体験することができた。歴史的な感慨も含め、誠に貴重な経験であった。
さて、当時中国はたとえるなら、ロケット2段目ブースに点火された状態で、WTO加盟時名目GDPは1.3兆ドル、世界第2位となった2010年5.8兆ドル、昨年2012年8.3兆ドル(推計)と、今や米国の半分、日本の1.4倍という規模に瞬く間になったのである。
現実の数値を把握、正視することが、市場を正しく認識・観察・予測する出発点である。中国への愚かでない現実的スタンスは、右脳で政治的な突発リスクを十分に感知しながら、左脳で中国市場の育成・発展・熟成に積極的にかかわり確実に実を採っていく、ということに尽きる。
今後少し大きな視点から、マーケティングのキモである「成長・競合・分配」に関する中国の諸事象や世界の中の将来の中国の立ち位置等を皆様にお伝えできたら幸いである。
以上
【事務所行事報告】
・「会社分割の理論・実務と書式〔第6版〕」のご案内
本年1月14日に、『会社分割の理論・実務と書式〔第6版〕―労働契約承継、会計・税務、登記・担保実務まで―』(民事法研究会、定価 本体5600円(税別))が刊行されました。同封物①「改訂版刊行のご案内(兼申込書)」で、特別割引価格にてお申込みいただけます。
・ 平成25年 事務所年末講演会のご案内
本年も、当事務所恒例の年末講演会を、12月6日(金)午後6時からホテルグランドパレスにて開催します。コンサートの部では、大槻健太郎様にコントラバス演奏(ピアノ伴奏 小泉耕平様)を、講演の部では、帯津三敬病院名誉院長・帯津良一先生にご登壇いただき、司会は株式会社クレース・プランナーズ代表取締役・正門律子様に務めていただく予定です。詳細は10月発行の「涼秋号」にてお知らせいたしますが、ぜひご予定おきくださいますようお願いいたします。
・第15回 人事・労務実務セミナーのご報告
第15回人事・労務 実務セミナーが本年1月29日(火)に開催され、特別編として安倍嘉一弁護士が「企業の情報管理対策について」と題して講演させていただきました。
次回から3ヶ月に一度、所長岡芹健夫弁護士を講師として開催させていただく予定でございます。今後とも何卒よろしくお願いいたします。
・NPO法人キャリア権推進ネットワーク
2013年4月16日(火)18時30分より、アルカディア市ヶ谷にて、NPO設立記念「キックオフミーティング」が開催され、多くの方々にご出席いただきました。これより、本格的な活動を開始すること等が報告されました。会員募集については、「NPO法人キャリア権推進ネットワーク」ホームページ(http://www.career-ken.org/index.html)をご覧ください。
・上海代表処活動報告
東城聡弁護士が上海代表処の首席代表として赴任してから一年が経過しました。この間、尖閣諸島の問題など平穏な一年とはいきませんでしたが、今年になって中国のビジネスとそれに伴う法律上の相談案件はだいぶ復調してきました。今年は、日中平和友好条約締結35周年であり、昨年の日中国交回復40周年の残念な結果が劇的に好転することを祈ってやみません。弊処では3月22日(金)、高井伸夫会長にも参加を願い、東城聡弁護士が、上海晶儀管理諮詢公司の岩崎昌子氏と共同で「中国従業員とのトラブル対応」と題して講演会を開催しました。
・北京代表処活動報告
今年も、年に一度の北京司法局の年度検査が始まりました。現在書類の準備などを進めているところです。
2月13日(水)、萩原大吾首席代表は如水会館にて行われた東京経営者協会主催のセミナーに、「中国労働問題の現状と今後~中国進出企業の留意点」と題して出講、昨今の中国進出の諸問題が話題になっている中、50名以上の出席を得て、誠に時宜を得た内容であり、大変有意義でわかりやすい話だったと好評を得ました。3月19日(火)には、一年半振りに東京より高井伸夫会長が来燕、顧問先を含め、大いに意義のある訪問となりました。
以上
経営法務情報「Management Law Letter」は、顧問会社及び弊所のお客様に無料にて配布しております。
ご質問等ございましたら、下記までご連絡下さいますようお願い申し上げます。
問合わせ先担当:齊木(さいき)
tel 03-3230-2331