【巻頭言】
「新政権に期待する労働新施策」 弁護士 岡芹 健夫
「今、思うこと」
・・・・・・有限責任監査法人トーマツ パートナー 飯島 誠一 様
「400年前からグローバルだった焼物の世界」
・・・・・・公益社団法人全国求人情報協会 総務部長兼業務部長 佐藤 日出男 様
「日本企業がパフォーマンス改善プランに関心をもつ事情」
・・・・・・株式会社ヘイ コンサルティング グループ代表取締役社長 高野 研一 様
【労働法と労務管理の基礎(第9回)】
「いじめとパワハラ」 弁護士 髙井 伸夫
【北京だより(32)】
「中国インフレ雑感」中瑞岳華会計師事務所 高級経理 薄井 義之 様
【上海だより(33)】
「上海歯科事情 その4」 日本東京都歯生会上海恒佳歯科診療所 劉 佳 様
【事務所行事報告】
・ 入所ご挨拶(弁護士 高 亮)
・ 髙井・岡芹法律事務所編『現代型問題社員対策の手引(第四版)』のご案内
・ 第13回、第14回 人事・労務実務セミナーのご報告
・ メールマガジン『Management Law Letter Online』のご案内
・ キャリア権研究会
・ 上海代表処活動報告
・ 北京代表処活動報告
<同封物一覧>
(1)改訂版刊行のご案内(兼申込書)
『現代型問題社員対策の手引〔第四版〕―生産性向上のための人事措置の実務―』
(2)M&A・行政書士のご案内
(3)NPO法人「キャリア権推進ネットワーク」入会のご案内
(4)海外視察旅行のご案内
(5)AIMSの活動ご支援のお願い
(6)2012年年末講演会 講演録
(7)同講演会 会長髙井伸夫ご挨拶
(8)中国情報№62
経営法務情報「Management Law Letter」は、顧問会社及び弊所のお客様に無料にて配布しております。ご質問等ございましたら、下記までご連絡下さいますようお願い申し上げます。
問合わせ先担当:門脇、梅澤 tel 03-3230-2331
【巻頭言】「新政権に期待する労働新施策」 弁護士 岡芹 健夫
1 案外、好成績であった野田政権
昨年11月16日、野田佳彦首相が衆議院を解散、約3年ぶりの総選挙を迎えることとなった。この巻頭言が各位に届けられる頃には、総選挙の結果は出ているであろうが、今回の選挙では民主党の劣勢が伝えられていた。何せ、11月14日に野田首相が解散を言明するや、何と駆け込み的に民主党より離党者が続出し、選挙を待たずに過半数割れを起こすという状態であったのである。
実のところ、個人的には、約3年の民主党政権全体は別として、約1年にしかならない野田政権における数々の業績、すなわち、社会保障と税の一体改革(消費税導入)、公務員給与引き下げ、原発再稼働、定数削減の言質、議員歳費引き下げ等の施策については、高く評価したいと思っている。付言すれば、当事務所の顧客(その多くは経営層もしくは企業の管理層である)も、当然というべきか、小職と同様の感想をお持ちの方が多いようである。
2 硬直的であった民主党における労働施策
しかし、民主党政権下における労働施策は、その支持母体の影響があるにしても、あまりに硬直的かつ目先の労働者保護に偏ったものであり、この点は、野田首相政権下でも修正され得なかった(これは人ではなく党の限界というべきか)。昨今の民主党の施策は、労働者派遣法改正、労働契約法改正、高年齢者雇用安定法改正と、ことごとく既存の労働者の保護にはしったものであり、それゆえに不利益を受ける、これから労働者になる者(いわば若年者、未来の労働者)の就業の機会については、実質的にはほとんど何の考慮もされなかった。むろん、企業にとっても労働人件費の硬直化を招き、事業の海外移転や事業自体の縮小・閉鎖への圧力が強化されることとなり、それが、さらに、未来の労働者の不利益につながるのである。
3 新政権に期待する
これまでも述べてきたが、直接かつ単純に既存の労働者を保護するという施策は、現在の日本の国際的な高賃金、企業・人材競争力の低下(平準化とも言いうる)といった条件下では、すでに不可能である。むしろ、産業構造の転換を助けるべく、旧事業・業種から新事業・業種への労働力移動を容易にし、また、企業の新事業立ち上げ(つまりは冒険、チャレンジ)に有利な条件、環境を整えることによる新事業発展・雇用創出以外に浮かぶ瀬は無い。
現在の労働施策は、本来、勤勉で努力家である日本の労働者を、あえて沈みゆく事業に縛り付けると同時に、これからの日本を担っていくべき未来の労働者の、その能力発揮の機会を狭めているものとしか思えず、民主党の労働施策はこれを強化したものというほかない。
次期政権には、企業のみならず、未来の労働者にも活躍と機会を与える労働法制の建設を期待したい。
【人事労務の時言時論(第10回)】
「メンタルヘルス蔓延の時代における従業員の健康管理~医師の診断~」 弁護士 安倍 嘉一
1 はじめに
従業員に、うつ病などに代表されるいわゆる精神疾患が発症した場合の問題は近年非常にクローズアップされており、最近ではどの会社でも必ずといってよいほどこうしたメンタルヘルスに問題のある社員を抱えています。当事務所でも、メンタルヘルスの問題について、対応に頭を悩ませているというご相談をよく受けます。そこで今回は、メンタルヘルスの問題のうち、医師の診断と健康管理の問題にスポットを当ててみたいと思います。
2 メンタルヘルスと医師の診断
すでによくご理解されていると思いますが、精神疾患の症状は、素人の目には一見して判断が難しく、その内容は専門家である医師の診断に頼らざるを得ません。こうした診断については、従業員が自ら診察を受け、診断書を企業に提出することが多いと思いますが、中には自分では精神疾患であることを認識していないケースもみられます。この点について、最近興味深い判決が出ました(日本ヒューレット・パッカード事件・最判平成24・4・27)。
この事件は、ある従業員が、「加害者集団」が当該従業員の日常生活を監視し、また他の従業員を使って嫌がらせをしているといった被害妄想に陥り、会社に調査を求めたが納得できる報告が得られず、休職を求めたものの会社に拒否されたため、欠勤を継続し、会社から諭旨退職されたという事案です。これについて裁判所は、「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者である上告人としては、・・・精神科医による健康診断を実施するなどした上で・・・その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであ」るとし、諭旨退職処分を無効と判断しました。この判旨を敷衍すれば、メンタルヘルスに異常があると考えられる従業員については、まず医師の診断を勧め、休職等の措置を検討しなければならないということになります。もっとも、例えば通常よりもやや落ち込んでいるといった程度で医師の診断を受けるよう勧めるべきかどうか判断することは、実際問題としてなかなか難しい面もあるのではないかと考えられます。
3 従業員への受診命令
次に、精神的に不調と判断される従業員に医師の診察を勧める場合、本人が素直に応じてくれればよいのですが、他方で精神科・心療内科を受診することが恥ずかしいことと考え、容易に医師の診察を受けようとしない従業員もいると思います。
このような場合には、就業規則に医師への受診を命じることができるとの規定があれば、業務命令として医師への受診を指示することができるとされています(電電公社帯広電報電話局事件・最判昭和61・3・13)。しかし、仮にこうした規定があったとしても、病気の症状というプライバシー性の強い問題について、会社が当該従業員の意思に反して医師の診断をどこまで強制できるか(さらに、命令に違反したとして懲戒処分の対象とするか)ということを考えると、規定を根拠に受診を強く勧める、という程度が現実的な対応ではないかと考えます。
4 おわりに
現代のストレス社会では、メンタルヘルスの問題は今後も増加していくでしょうし、日本ヒューレット・パッカード事件のように、会社の従業員に対する健康管理の責任もますます大きくなることが想定されます。皆様におかれましても、是非とも慎重な対応をお願いしたいと思います。
【エッセイ】「今、思うこと」
有限責任監査法人トーマツ パートナー 飯島 誠一 様
日経平均株価は、小泉純一郎政権時の1万6000円台から、最近は9000円前後の状況です。日本では、上場会社における粉飾の問題や経営者の問題が少なからず報道されています。この問題が企業の信頼を低下させ、株価低落の原因の一つであるといわれています。
昨今の粉飾は、匿名組合の利用、取引先との共謀やアドバイザーの介在など複雑多岐にわたっており、会計監査人(公認会計士)がいかなる努力をしても防止できない事例が少なくありません。不適切な経営者に対して日本の文化や法律が甘いという問題があると思います。不適切な処理で多数の投資家に多額の損害を与えた経営者は、ほとんど有罪になります。このような経営者の責任を厳しく追及し、社会から排除して、善良な投資家の保護を優先するべきだと思います。
石原慎太郎前東京都知事が、退任にあたり、国と自治体に複式簿記の採用と発生主義による会計制度の適用を提案しました。現在の公会計は単式簿記であり現金主義を採用しています。
公会計では、「出納閉鎖期間」を設定しています。3月末までに実施した事業のうち、3月末までに支払いが終わらないものは、5月末まで帳簿を閉鎖しないで待っています。5月末までの支払いが、予算の消化として処理されます。
スピーディーにプロジェクトの実態を把握し決算の分析をするには、発生主義システムを導入して、支払いベースでなく発生ベースで管理し分析するべきです。予算の単年度主義は長期プロジェクトの立案を阻害することになります。発生主義の思考やシステムは、2年以上にわたる予算の管理を容易にすると考えます。
国と地方自治体の連結貸借対照表の作成は、国全体の負債総額を明らかにし国と自治体の深刻な財務内容を国民の前に一目瞭然にします。1000兆円といわれる借財が明らかになり、国と自治体のおかれた深刻な現実が明確になるのです。複式簿記と発生主義の採用は、国および自治体の意識改革とマネジメントのレベルアップに寄与するものと考えます。
最近話題になる自治体に長野県・下條村があります。私の故郷です。下條村は出生率を1・80人から2・04人に改善した「日本の未来が見える村」として日経ビジネス(2009年)に載りました。下條村の伊藤喜平村長は、就任後、村役場の職員をホームセンターの店頭に立たせて仕事への意識改革を図りました。
また、村役場の職員を51人から34人にし、国からの補助金をもらえる公共下水を導入せず、村の負担の少ない合併処理浄化槽を全戸に設置しました。生活道路は、砂利やコンクリートを村が負担し、村民自身が作業を行います。
村営住宅も、最初は国の補助金を活用したものの、入居者は抽選・低所得者優先・家賃設定も自由にできないなどの制約があるうえに入居者が地域のコミュニティーに溶けこまず失敗に終わりました。そこで、二棟目からは村の自主財源で建てることに決め、消防団や村の行事への参加を条件として若い夫婦を優先入居させ出生率が改善されました。村営住宅は二台分の駐車場付きで3万6000円。保育料を値下げし、医療費は高校生まで無料です。図書館は子ども向けを中心に6万1000冊を擁しています。
このような取組みの結果、ピーク時の6500人から4000人を割り込んだ人口が平成24年11月現在4100人を超えるまで増加しました。
下條村の2011年度の実質公債費比率はマイナス3・5%で、全国第4位でした。第一位は鹿児島県十島村、次いで江戸川区、杉並区の順ですから、過疎の村でありながら効率的な投資をする模範的な財政となっています。
文中、意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。
【エッセイ】「400年前からグローバルだった焼物の世界」
公益社団法人全国求人情報協会 総務部長兼業務部長 佐藤 日出男 様
『プロサッカーチームのホームゲームでの飲食販売(男女)』
仕事がら各地の求人情報誌や折込求人紙に目を通すことが多いのですが、その広告がふと目に付いたのは、募集職種名の長さからでした。
それにしても、プロの、サッカーチームの、ホームゲーム・・・これだけでも贔屓チームを応援する大勢のファンやサポーターたちの盛り上がり、鳴り物やコールが包むスタジアム、試合開始前やハーフタイムに、席に急ぐお客様から的確に注文を聞き、手早く調理して、品物を間違いなく提供し、きちんと代金を受け取る。「飲食販売」と書いてあるだけでは伝わらない、仕事の風景や音、緊張感が想像できるようです。
すると、「一番長い職業名は何なのか」そんなことが気になりました。
総務省統計局の日本標準職業分類は、大中小の階層で小分類は329項目。厚生労働省職業分類は索引に載っているもので1万7200余り。この職業名索引をみてみると、第1位は『フランチャイズチェーン・スーパーバイザー(20文字)』を押さえて『ファインセラミックス製品製造設備オペレーター(22文字)※』でした。さて、この職業、求人はあるのでしょうか。再度、インターネットで検索すると、なんと郷里の佐賀県有田町にある企業の求人が出てきました。
約400年前、国内での磁器生産はまだ行われておらず、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に現在の韓国に位置する地方から、肥前領主の鍋島直茂が連れ帰った陶工である李参平が、磁器の原料となる良質の白磁鉱を発見し、そこで釜を開いたのが日本初の磁器となる有田焼の始まりとされています(有田町ホームページより)。以来、白磁に呉須と呼ばれる絵具で図柄を描いた初期伊万里、乳白色の生地に赤絵を施した柿右衛門様式、江戸時代に海外に輸出された古伊万里など、世界的にも有名な有田ブランドが生まれました。昭和になると、食器だけでなく電線を絶縁するためのガイシや建築用タイル、ファインセラミックスなどの分野にも広がりを見せ、現在に至ります。
有田焼の租となるものは、漢の時代から窯業が盛んだった景徳鎮窯で、青花と呼ばれる白磁に呉須の図柄や青磁は、有田焼に大いに影響を与え、後年も絵画的な絵付けなどは互いに刺激し合って、良品を多く生産したようです。現在、日本、韓国、中国は、全面的に良好な関係であるとはいえない面がありますが、それでも人々の交流が活発であれば、お互いの理解も進むと信じたいものです。
さて、冒頭の長い職種名に戻りますが、求人広告の場合は、どんな仕事をするのか広告を見ただけで分からないと応募反響につながりません。手前味噌になりますが、文字数やスペースに制限がある中で、よりたくさんの情報を伝えようと工夫を重ねている業界です。いきおい、「○○を○○する○○職・・・」といった長い募集職種名になるのですが、この伝えようとする努力を長きにわたって続けることが、国際社会でも実を結ぶのではないでしょうか。
長いと言えば、今年は巳年。巳は、胎児の姿を表し、十二支では次の生命が作られ始める時期であるとか。また、ヘビは、洋の東西を問わず古くから信仰の対象とされ、豊穣や生命力を象徴するものとされています。願わくば、2013年が皆様方に実りの多い年となり、よりよい日本に向けた第一歩となりますように。
※ほかに、長いものの例としては『クライアント・サーバシステム運用管理者』、『自動車用ワイヤーハーネス経路設計技術者』、『データベースアプリケーション開発技術者』『電気通信機器制御システム評価試験技術員』などがあります。意外にも、カタカナの職業ばかりではないことがわかりました。
なお、『カイロプラクティック・アロマセラピー等従事人』などのように、二つを一つに区分しているものや『他に分類されない○○』と名称の上に注釈があるもの、カッコ書きが付いている職業名は除外して文字数を比較しました。
【エッセイ】「日本企業がパフォーマンス改善プランに関心をもつ事情」
株式会社ヘイ コンサルティング グループ代表取締役社長 高野 研一 様
外資系企業にはパフォーマンス改善プランという制度をもつところが多い。これは、期待された役割を果たせない社員に対して適用されるもので、期待役割と実際の貢献度のギャップを示したうえで、一定期間内に改善を促す仕組みである。パフォーマンスが改善したかどうかを判定するための条件を具体的に特定し、それが満たされなければ降格させたり、退職を勧奨することをあらかじめ通告することになる。パフォーマンス改善プランを適用された社員は、期待される役割を果たせるよう努力するか、あるいは別のキャリアを求めて職探しを始めることが多い。
このように書くと、外資系企業には人を大切にしない会社が多いように受け止められるかもしれない。ただ、雇用が流動的な海外では、会社と社員との関係は家族ではなく、対等な契約関係と考えられている。企業が経済原理の中で動いている限り、パフォーマンスと報酬とは連動させる必要がある。それを受け入れることが自立した個人の責任として求められるのだ。
実際にパフォーマンス改善プランの対象となる社員は数%程度であるが、こうしたしくみの存在が、組織の新陳代謝と規律の維持を可能にしている面がある。外資系の企業では、こうしたしくみが日本においても適用されている。これに対して、日本企業の場合、終身雇用制を良しとしてきたことから、パフォーマンス改善プランを導入している企業はほとんどない。ところが、最近になってこのパフォーマンス改善プランの導入を真剣に検討する日本企業が出てきている。その背景には右肩下がりの国内経済と逆ピラミッド型の組織構造がある。
日本の人口は2006年以降減少を始めている。それに伴い、多くの業界で国内市場が右肩下がりのトレンドに移ってきている。組織の拡大が止まる一方で、年功的な昇格運用を変えられないことから、高資格者の数が膨らむ逆ピラミッド構造が顕在化している。その結果、管理職層に上がりながらポストに就けない人が増えたり、若手の昇格機会が失われたりしている。それが社内の不満や、被害者意識につながり、真剣に仕事に取り組まない社員を増やしている。そのような社員の存在は、社内に不公平感を蔓延させ、規律を低下させる。会社としては人件費負担が上昇する一方で、モラールが下がるのではたまったものではない。このため、過去の既得権を払拭し、パフォーマンスの上がらない社員を降格させ、組織内の規律を取り戻そうとしているのだ。
しかし、日本企業がパフォーマンス改善プランを実施しようとすると、いくつかの壁に直面することになる。まず、現場の管理職が部下を降格させた経験がないことがネックになる。外資系の企業では、社員を採用するのも評価するのも退職勧奨するのもライン長の仕事である。ところが、日本企業では社員の採用は人事部が一括して行ってきた。評価も、ライン長は一次評価が主な役割で、最終評価は人事部が決定する会社が少なくない。ましてや降格を実施した経験のある管理職はほとんどいないといっていいだろう。
次に、期待役割と実際の貢献度のギャップを文章で書き分ける訓練を受けた管理職も少ない。改善したかどうかを判定するための条件を具体的に記述できる人はさらに少なくなるだろう。通常の評価制度における目標設定すら苦労する管理職が多いのだ。そもそもパフォーマンスの上がらない人に厳格に対処することが、管理者の役割として認識されていないこともある。日本の企業ではライン長が人件費の管理責任を負っていないことが多いからだ。
日本企業がパフォーマンス改善プランを運用できるようになるためには、まずこうした課題を解決する必要がある。そのためには、管理者の評価能力と指導力を高め、期待される役割を部下に対して明確に示せるようにすることが不可欠となろう。
【労働法と労務管理の基礎(第9回)】 「いじめとパワハラ」弁護士 髙井 伸夫
動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)が改正され(平成25年9月1日施行)、生後間もない犬猫の販売が規制されるようになるという。親や兄弟姉妹から早く引き離された犬猫は適切な社会化がされず、特に犬は噛み癖・吠え癖等の問題行動を起こす可能性が高まるとの指摘があるらしい。
動物の問題をそのまま人間にあてはめるのは短兵急だが、私はこの話を聞いたとき、他者への過剰な攻撃という意味で、学校でのいじめ問題を連想した。
悪質ないじめ事件の頻発が社会問題化している状況を受け、文部科学省は対策に乗り出している。
しかし、私の実感としては、文科省と非力な教育委員会の対応では、いじめは沈静化しないと思う。
若月秀夫先生が教育委員会教育長を務められている東京都品川区は、教育委員会として、学校教育法35条に基づき、いじめを繰り返す児童・生徒を「出席停止」にする制度を積極的に運用するとの毅然とした方針を決めたが、これが日本全体に波及する動きはない。
また、現実にもいじめは永遠になくならないだろう。長い不況を反映して人間が内向きになっているし、厳しい競争社会でもあるから、他者への思いやりや互助・連帯等の意識は稀薄化している。
さらに、日本の貧困化に伴い夫婦共働きで一人っ子の世帯が増え、幼少期に親からの愛情や社会化の素地づくりがままならない子どもが増えるなら、いじめが昔よりひどくなるのは当然であろう。
いじめに遭った子どもを集めても、その集団で必ずいじめっ子が出てくる。現に、同じ子どもがいじめる側にもいじめられる側にもなるケースが多いというアンケート結果がある(国立教育政策研究所「生徒指導リーフいじめアンケート」)。まさに、「世にいじめっ子の種は尽きまじ」というところか。
先日読んだ軽い小説には、「いじめられっ子、世にはばかる」というフレーズまで登場し、驚いたほどである。これが今の社会の一般的な風潮なのだろう。
企業や組織でのいじめ問題もまた、同様に顕在化している。
都道府県労働局に寄せられる民事上の個別労働紛争に係る相談件数の推移をみると、「解雇」が減少傾向であるのに対して、「いじめ・嫌がらせ」(パワーハラスメント問題を含む)は、平成14年度の6627件(全体の5.8%)から、平成23年度には4万5939件(同15.1%)となり、増加の一途をたどっている。こうした実態を受け、厚生労働省は「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を出し、また、職場のパワハラに関する初めての実態調査の結果である「職場のパワハラに関する実態調査報告書」を発表した(民間企業に勤める人の4人に1人がパワハラ被害を受けている等々)。
企業は労働者に対して本来的に保護義務を負っており、この点、労働契約法5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定める。
「男はタフでなくては生きて行けない。優しくなくては生きている資格はない」という有名な台詞があるが、パワハラ問題について、企業は労働者への保護義務を果たす優しさを持ちながら、同時に規律の維持に注力するタフネスをも発揮しなければならないのである。
【北京だより(32)】「中国インフレ雑感」
中瑞岳華会計師事務所 高級経理 薄井 義之 様
明けましておめでとうございます。北京に住んでいる日本人にはお正月が二度来ることはご存知でしょうか?一度目は12月31日の夜、東京から電波に乗って来る紅白歌合戦を家族団らんあるいは独り身の辛さを仲間と分かち合いながら、テレビ鑑賞をした後の除夜の鐘を心静かに聞いて迎える新年。そして、二度目のお正月は派手な爆竹と花火が乱舞する春節、いわゆる旧正月です。
さて、新年にあたって「中国インフレ雑感」と称し、報告させていただきます。
現在住んでいるマンションの家賃が引き上げられるので、先日、物件を見て回ったのですが、投資を目的とするマンションの多さに驚きました。私が見学した三里屯周辺(大使館も多く外国人が多く住むエリア)のマンションは投資目的の物件が数多く点在し、規模が大きめのマンションであっても入居率が低く、購入後何年も家具を置いていない物件が多数ありました。このような背景には、リーマンショックの時に四兆元を超える貨幣を増刷し、市場に供給したことによりインフレが起こり、さらにインフレ率が預金利率を上回ったため、不動産投資に拍車がかかってしまったことが影響しているのでしょう。
緩やかなインフレは、国民生活を豊かにするものですが、急激なインフレはスタグフレーション(物価は上がっているが経済活動は停滞している)を呼び起こし、国民生活を苦しめることになります。中国政府もインフレ対策に躍起のようであり、2012年10月1日から牛、羊、鶏肉の卸売り並びに小売に対して増値税を免除しています。今後もさまざまな対策を講じてアジアで、そして世界で一番住み良い国になってもらいたいものです。
【上海だより(33)】「上海歯科事情 その4」
日本東京都歯生会上海恒佳歯科診療所 劉 佳 様
インプラント治療とは、上海において歯を失った人が最も選択する治療法であり、今後も増加傾向にあると思われます。約10年前から、さまざまな優れた材料、形態、技法および器材が導入され、昨年のインプラント治療の年間件数は一昨年と比べ、約50パーセント増加しました。各インプラント関連器材(たとえば口腔用CT、個性のある技工制作、コンピュータの設計製作(CAD/CAM)、歯科医師と患者との交流用ソフトウェア等)の採用により、効果的に歯科医師の技術レベルを向上させることができ、また、患者の口腔衛生への意識を高め、医療の進歩を向上させることもでき、なおかつ業界内での管理の標準化を促進してきました。
2010年、口腔インプラントの一元管理を実行するため、政府行政管理機構の上海市衛生局が上海市口腔医学会と連携し、行政管理と専門監査を組み合わせて特殊技術導入制度を強化し、業界内の技術標準化管理を促進しました。
口腔疾患の種類の変化、治療技術の開発および人々が口腔ケアにかける費用の変化等は、すべて人々のライフスタイルと生活への要求の変化を反映しています。上海では、拡大する口腔ケアに対するニーズに合わせ、新しい歯科医院も設立されつつあります。医療市場における歯科ケア用品も増加傾向にあり、これらの管理や改善は重大な課題です。
ここ10年間、上海の私立歯科医院の発展、医療業界全般における市場の変化および口腔ケアに対する意識の向上等の要素から見ると、市場経済のルールに対して、政府、企業、専門医療業界の認識と認可を得てきたことがうかがえます。市場消費ニーズは社会発展の核心的動力であり、技術、器材、専門人員の技能、業界内の政策と企業管理のレベルは共に絶えず発展、進歩していくでしょう。
【事務所行事報告】
・ 入所ご挨拶(弁護士 高 亮)
私、高亮は、この度、髙井・岡芹法律事務所におきまして、弁護士としてのスタートを切らせていただくこととなりました。依頼者の皆様の期待に的確に応えられるような弁護士となることを目標としております。
むろん、まだまだ未熟者でありますゆえ、今後とも謙虚に多くの方々のお話をうかがい、自己の研鑽を怠らず、不断に努力していく所存です。
何卒皆様のご指導・ご鞭撻を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
弁護士 高 亮
・ 髙井・岡芹法律事務所編『現代型問題社員対策の手引(第四版)』のご案内
平成24年10月29日に、髙井・岡芹法律事務所編『現代型問題社員対策の手引(第四版)―生産性向上のための人事措置の実務―』(民事法研究会、本体価格3700円(税別))を上梓いたしました。平成24年に改正された派遣法、労契法、高年法にも対応し、第三版から大幅にリニューアルされております。同封物①「改訂版刊行のご案内(兼申込書)」で、特別割引価格にてお申込みいただけます。
・第13回、第14回 人事・労務実務セミナーのご報告
同セミナーが平成24年9月2日、11月28日に開催されました。9月は弊所北京代表処萩原大吾弁護士が「中国労働法に関する基礎知識」、そして11月は弊所岡芹健夫弁護士が「管理職に対するコンプライアンス意識の重要性」、そして共催させていただいた株式会社エス・ピー・ネットワーク・芳賀恒人様より「暴力団排除の実務」と題したご講演をいただきました。
・メールマガジン『Management Law Letter Online』のご案内
平成24年9月より、メールマガジン『Management Law Letter Online』の配信を始めました。当事務所の活動の近況報告や所属弁護士による執筆・講演・セミナーのご案内、人事労務に関する最新情報をお伝えするとともに、事務所報に掲載した論稿等を数回に分けて配信します。配信をご希望の方は、ホームページよりご登録ください。
・キャリア権研究会
平成24年11月20日18時30分より、第五回定例会が開催されました。NPO法人キャリア権推進ネットワークの設立認証申請が受理され、本年四月より活動開始となること等が報告されました。会員募集については同封物③をご参照ください。同法人のキックオフイベントは、本年4月16日(火)開催予定です。
・上海代表処活動報告
14年前に上海代表処が設立されて以来、昨年9月11日の尖閣諸島国有化問題の影響は政治的にも業務的に最もインパクトのある出来事でした。幸いなことに弊処および従業員は特段の事件に巻き込まれることもなく、大過なく過ごすことができました。両国にとり誠に残念な事件ではありましたが、人生浮き沈みがあるように国との関係も浮き沈みがあるとの思いを定め、人間万事塞翁が馬、腹を括って今後の経緯を見守りたいと思います。
・北京代表処活動報告
平成24年12月7日(金)、萩原大吾首席代表と上海代表処東城聡首席代表は東京で「中国法上の重要論点に関するケーススタディ」と題して講演を行いました。先般の反日デモにもかかわらず、引き続き中国市場に熱い期待を持つ企業が多く、時宜を得たテーマで好評のうちに終了しました。両首席代表による初めての共同セミナーでしたが、参加者の好評を得たこともあり、業務帰国の機会を利用し、今後も随時開催したく考えています。
以上
経営法務情報「Management Law Letter」は、顧問会社及び弊所のお客様に無料にて配布しております。
ご質問等ございましたら、下記までご連絡下さいますようお願い申し上げます。
問合わせ先担当:齊木(さいき)
tel 03-3230-2331