【巻頭言】
「企業活動のみならず若年層の希望を断ちかねない現在の労働法制」
 髙井・岡芹法律事務所 所長弁護士 岡芹健夫

 【人事労務の時言時論(第4回)】「『パワハラ』の広がり」 弁護士 小池啓介

 【エッセイ】
・「現代病に挑む『コンピューター病』」
・「レストラン事業の今後」
・「労働参加率の高い社会をめざして」

 【労働法と労務管理の基礎(第5回)】「無用の用」会長弁護士 高井伸夫

【ティータイム】弁護士 米倉圭一郎

【北京だより(24)】「経済交流は最大の安全保障」

【上海だより(26)】「上海での22年を振り返り」

【事務所行事報告】
・入所ご挨拶
・第3回・第4回人事・労務実務セミナーのご報告
・上海代表処活動報告
・北京代表処活動報告

<同封物一覧>
(1)2010年 年末講演会講演録
(2)2010年 年末講演会のご報告
(3)中国情報№54

経営法務情報「Management Law Letter」は、顧問会社及び弊所のお客様に無料にて配布しております。ご質問等ございましたら、下記までご連絡下さいますようお願い申し上げます。
問合わせ先担当:門脇、梅澤 tel 03-3230-2331

 

【巻頭言】企業活動のみならず若年層の希望を断ちかねない現在の労働法制」
 髙井・岡芹法律事務所 所長弁護士 岡芹健夫

1.「失われた20年」

バブル崩壊以降、日本経済は長期的な低迷に入り、そろそろ20年が経とうとしている。以前は、バブル崩壊(平成2~4年)以降の10年間のことが「失われた10年」などと言われたが、いつの間にか「失われた20年」になろうとしている。この20年間は、わが国にとって経済の低迷のみならず、外には国際社会における地位の低下等、内には若年層の就職難・貧困化等といった、国民・市民にとって憂鬱になる事象が重畳的に生じている。

2.時代にそぐわなくなった労働法制

昨今の新興国の成長ぶりは目を見張るばかりであり、韓国・台湾といった旧中進国にしても同様である。その多くは、低廉な人件費によっていることは疑いを入れないが、換言すれば、日本国民の費用対効果が低いということである。

戦後以来、日本はそのほとんどの時代において、他国(特に欧米)よりも低廉な人件費という前提があり、日本よりも低廉な人件費をもつ諸外国(中国、インド等)は、事実上、生産設備、技術をもたず、日本と競合する関係には立たなかった。また、産業構造も、技術革新のスピードは現在よりも大幅に遅かった。こうした時代においては、社会全般に見て、中長期的視野に立てば、企業は大量・画一的生産・サービス提供を行えば、多くの場合、おのずと利潤を得ることができ、後は、労働者の雇用上および労働条件上の地位を法制によって保護すればすんだ(労働者保護法制)。今日の労働法制は、実はそうした諸条件を前提にのみ合致するものであったのである。

3.雇用の創出を妨げ若年層の貧困化・少子化を招いている現在の労働法制

たとえば、インフレ下での安易な賃金ダウンは労働者側の犠牲が大きいため、強度の制約が必要であるが、現在のデフレ局面では、賃金を維持するだけでも、実質的な賃金負担の上昇を意味する。このような環境下に、雇用の創出元である企業が長く止まることを強いるのは無理がある。

何より、経済発展段階では中長期的に雇用需要が自動的に拡充するので、既存の労働者の既得権を保護しつつ新たに労働市場に出現する世代の雇用を創出することができたが、現在のような経済の成熟段階では、両者のバランスをとることが肝要である。端的に言えば、既存の労働者の既得権に人件費原資をとられるため新規世代の雇用および処遇にしわ寄せが行き、若年層の貧困化、ひいては若年層の生活不安による少子化・国力の長期的衰退への原因ともなっている。

4.時代が変われば法制も

無論、現在の日本の労働法制も、前述の条件下においては、国、社会の発展に大きく寄与したことは、企業活動の利潤の適正な配分の点を措いても、購買力の拡充といった点からも明白であり、そうした利点を安易に軽視すべきではないが、「強い者が生き残るのではなく、変化に対応できるものが生き残るのである」とのダーウィンのものとされる言葉は、耳に痛いものがある。

【人事労務の時言時論(第4回)】「『パワハラ』の広がり」 弁護士 小池啓介

「パワーハラスメント」(以下「パワハラ」)という用語は、平成14年頃から各種メディアにより広く用いられるようになりましたが、現在では「セクシュアルハラスメント」(以下「セクハラ」)と同じように、職場環境の問題点の一つとして使用者・労働者に広く認識されるようになりました。

「パワハラ」の意義については、たとえば東京地裁平成20年10月21日判決において、「組織・上司が職務権限を使って、職務とは関係ない事項あるいは職務上であっても適正な範囲を超えて、部下に対し、有形無形に継続的な圧力を加え、受ける側がそれを精神的負担と感じたときに成立するものをいう」と定義され、一般的には、上司から部下に対する行為と認識されていることが多いと思います。

しかし、同僚間のいじめや嫌がらせ行為についても、使用者が責任を負う場合がありますので、今回は、この点に関する裁判例をご紹介します。

事案は、ある従業員が、自分が精神障害に罹患した原因は、同僚等によるいじめ、および、それに対する適切な措置が会社においてとられなかった点にあると主張して、労働基準監督署長に対して、労働者災害保険補償保険法に基づく療養補償給付を申請したところ、労働基準監督署長が平成18年5月9日付で不支給決定を行ったため、当該従業員が裁判所に対して不支給決定の取り消しを求めたというものです。

この事案において、大阪地裁平成22年6月23日判決は、当該従業員が行われたと主張するいじめ行為のうち、一部が実際に行われたことを認定し、同僚間のいじめ行為とともに、使用者がそれらに対して何らの防止措置もとらなかったことから、従業員が精神障害を発症したもの(業務に内在する危険が顕在化したもの)として、精神障害と業務との相当因果関係を認めました。

すなわち、判決が認定したいじめ行為のほとんどは、同僚間で交わされた当該従業員に対する悪口であり、判決も「他の人が余り気づかないような陰湿な態様でなされていた」と述べていますが、他方、当該従業員が上司(判決文からは、直属の上司か否かは不明)に対して、同僚から悪口を言われている旨、および、同僚から離れるために配置転換をしてほしい旨を申し入れたこと等があったにもかかわらず、上司らは何らの防止策をとらなかったこと、当該従業員が意を決して上司等と相談した後も会社による何らの対応ないし原告に対する支援策がとられなかったために失望感を深めたことがうかがわれることを指摘して、当該従業員の精神障害と業務との因果関係を認めました。

この判決は、直接に会社の責任を認めたものではありませんが、精神障害と業務との因果関係が認定された場合には、従業員からの、会社の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求等、会社に対する責任追及のおそれが高まることは避けられません。

上記労働基準監督署長による不支給決定後の平成21年4月6日、精神障害等にかかる労災認定に用いられている「心理的負担による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の一部が改正され、「職場におけるひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の項目が「心理的負荷強度Ⅲ」にあたるものとされました。

この項目は、従来「上司とトラブルがあった」との項目でしたが、「上司」との文言が削除され、代わりに「職場」との文言が使用されていることからも、同僚による嫌がらせ、いじめをも心理的負荷として評価する点に主眼があるものと思われます。

管理職が同僚間のいじめ等をすべて把握することは困難ですが、従業員からいじめを受けている旨の相談があった場合には、事実関係の確認、問題のある状況の改善等、適切な対応をとる必要があることを示す例として参考になるものと思います。

 【エッセイ】

・「現代病に挑む『コンピューター病』」

・「レストラン事業の今後」

・「労働参加率の高い社会をめざして」

【労働法と労務管理の基礎(第5回)】「無用の用」会長弁護士 高井伸夫

本欄第3回でも取り上げたように、私はよく「石にも目がある」という話をするが、これは恩師 孫田秀春先生(1886~1976・東京商科大学〔現一橋大学〕教授等を経て弁護士)からお聞きした話である。

先日、久方ぶりに先生のご著書『学説・判例批判わが国労働法の問題点』(1965年)をひもといたところ、はしがきで、先生が小山竜太郎『真説・日本剣豪伝』で塚原卜伝の剣の修行の話を読まれ、「石の目」の逸話を紹介されている経緯を知った。

このはしがきで、先生は「石にも目がある」という誰にでもわかる言葉から説き起こされ、さらには中国の寓話も引用されながら、労働法の目は「労働の人格性」であるというご自身の専門分野における主張に、読者を自然に導かれている。まさに「無用の用」をわがものとされた碩学による、自在な文章の運びである。

ことほどさように、人間関係を深めるには、「無用の用」が重要である。特に、専門家が一般の人を相手に専門の話ばかりしていては、決して共感は得られない。それゆえ、スペシャリストであればあるほど、専門外の世界に浸る時間をも意識的につくることが、人間の幅を広げることにつながる。自分の好きなことであれば、どの分野でもよい。まずは少しでも触れる時間を作ることだ。

私は美術、特に日本画が好きで、洋画や陶器にも些か親しんだ。素人なりの感想であっても、例えば、社長の応接室に通されたときに、そこにある絵画について自分の言葉で語ることができれば、社長は喜ばれ、親しさがますのが普通である。

根は今も昔も変わらず、会話の幅を広げる。藤沢周平の小説には煌めきを放つ名言が随所に登場するが、彼は心に残った言葉を書き留めて、自身の表現力を磨いたのではあるまいか(因みに、彼の『隠し剣秋風抄』には、前述の卜伝のことではないが、石割りの秘剣として「石にも筋目がある」というくだりがある)。また、山本一力『峠越え』は久能山詣を題材にした小説だが、私はこの本がきっかけで、「小才は縁に出会って縁に気づかず、中才は縁に気づいて生かせず、大才は袖すりあう縁も生かす」という柳生家の家訓を知ることになった。私が、占いをする女性にこの家訓を紹介したところ、その方は「大難を中難にし、中難を小難にし、小難を無難にする」という言葉を教えてくださった。そこで私は、この言葉を私の専門分野=人事・労務問題における危機管理のキーワードとして用いている。趣味の時代小説から得た知識が相手の共感を呼び、思いがけず、私は自分の仕事にも関わる新たな言葉を授かったのである。

実用、有用ばかりを追い求めていては、よい人間関係を育むことはできない。それは結局、自分の専門家としての能力を貧弱なものにしてしまう。よきプロフェッショナルはよき人間性のうえにあることを、私は特に若い諸君に伝えたいと思う。

【ティータイム】弁護士 米倉圭一郎

 甘いものは人を幸せにします。
 最近ではスイーツと呼ばれ、いろいろなスイーツが世に出てくるようになりましたが、私がこれまでに食べたスイーツの中で一番衝撃を受けたのは「マカロン」です。
 マカロンはブームが過ぎ去りましたが、ブームのおかげでマカロンはいたるところで販売されるようになりました。うれしい限りです。
 さて、私が衝撃を受けた「マカロン」は、といいますと、「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」の平成15年のものです。崩れそうでいて崩れない堅さや甘さが抜群でした。今でも同店ではマカロンを販売していますが、別の商品になってしまったようです。
 また新しいものを探す楽しみが増えたと思っています。2番目以降はまたの機会に。

【北京だより(24)】「経済交流は最大の安全保障」

【上海だより(26)】「上海での22年を振り返り」

【事務所行事報告】

・入所ご挨拶 

弁護士 村田浩一 

 はじめまして、このたび髙井・岡芹法律事務所で勤務することになりました村田浩一と申します。
 出会いに恵まれ、多くの方に応援していただき、弁護士として勤務できることに感謝いたします。多くの方のお話も聞きながら、バランスの良い解決を模索・提案できるよう、謙虚に、誠実に、日々努力していく所存です。
 何卒皆様のご指導ご鞭撻を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

弁護士 渡辺雪彦 

 私こと渡辺雪彦は、このたび、髙井・岡芹法律事務所において、弁護士としての第一歩を踏み出すことにいたしました。
 この人に仕事をお願いしたいと思っていただけるような弁護士となることを目標としております。
 もとより未熟者ではございますが、一日も早く皆様から信頼していただけるような弁護士となれますよう、努力していく所存でございます。何卒、皆様のご指導ご鞭撻を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

・第3回・第4回人事・労務実務セミナーのご報告 

 第3回人事・労務 実務セミナーが平成22年9月29日(水)、同第4回が11月24日(水)、いずれもアルカディア市ヶ谷にて開催されました。
 第3回は、当事務所上海代表処首席代表弁護士が「実例から学ぶ 対中ビジネスの落とし穴~3つの処方箋~」というタイトルで講演させていただきました。
 また、第4回は第1回・第2回にて大変ご好評をいただきました「メンタル・ヘルスと就業規則」につき、ご参加頂けなかったお客様からのご希望に応え、そのダイジェスト版として所長弁護士の岡芹健夫が講演させて頂きました。
 いずれの回も多数のお申し込みをいただきまして、誠にありがとうございました。第5回以降も様々なテーマでお話させていただく予定でございます。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

・上海代表処活動報告 

 11月29日(月)、沖縄県産業振興公社主催のセミナーにおいて、「中国ビジネスにおける契約書作成のツボ」と題する講演を、12月6日(月)には、東京経営者協会五支部合同例会において「実例から学ぶ対中ビジネスの落とし穴」と題する講演をそれぞれ行いました。
 また、当代表処顧問の兪浪瓊律師は、12月1日(水)に上海において、12月3日(金)に北京において、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社駐中国総代表処が主催するセミナーにおいて、「弁護士との上手い付き合い方・活用術―日本人の中国法制度、契約交渉における勘違い」と題して、中国法制度上の問題点、弁護士活用上の留意点および日本人が陥りやすいトラブル等について事例を交えて講演を行いました。
 いずれの講演も多数の方にご参加いただき、盛況裡に終えることができました。

・北京代表処活動報告 

 昨年は、東京事務所中国室、上海代表処との組織的協働活動を強化した効果が表れ、当代表処での案件が増えてまいりました。今年も一層協働関係を強化して、北京及び北京以外の関係先の訪問を活発化したいと思います。

経営法務情報「Management Law Letter」は、顧問会社及び弊所のお客様に無料にて配布しております。
ご質問等ございましたら、下記までご連絡下さいますようお願い申し上げます。

問合わせ先担当:齊木(さいき)
tel 03-3230-2331