【巻頭言】
「弁護士人口の増加と弁護士の競争力」 髙井・岡芹法律事務所 所長弁護士 岡芹健夫

 【エッセイ】
・「英語自転車論」
・「いつの世でもリーダーはかくあるべき」
・「『米国十大絶景を歩く』ツアー参加記」 高井・岡芹法律事務所 総務担当 中村六彌

 【労働法と労務管理の基礎(第4回)】「スピード経営時代の『筋目と金目』」会長弁護士 高井伸夫

【ティータイム】弁護士 秋月良子

【北京だより(23)】「思いやる心で、ストを回避」

【上海だより(25)】「昔の夕涼み」

【事務所行事報告】
・第2回人事・労務実務セミナーのご報告
・上海代表処活動報告
・北京代表処活動報告

<同封物一覧>
(1)年末講演会のご案内・会場地図
(2)第19回中国セミナーのご案内
(3)第4回「人事・労務実務セミナー」ご案内
(4)中国情報NO.53

経営法務情報「Management Law Letter」は、顧問会社及び弊所のお客様に無料にて配布しております。ご質問等ございましたら、下記までご連絡下さいますようお願い申し上げます。
問合わせ先担当:門脇、梅澤 tel 03-3230-2331

 

【巻頭言】「弁護士人口の増加と弁護士の競争力」
 髙井・岡芹法律事務所 所長弁護士 岡芹健夫

1.状況

昨今、若手弁護士の苦境と共に弁護士人口の増加が新聞等のメディアを賑わしている。これは数値からも容易に裏付けられる。年度別の司法試験の合格者(概数)は、昭和39年より平成2年までの約30年の間、500名で推移していたが、平成11年には1000名と倍増し、平成19年には2000人に至った。弁護士人口を見ても、10年前(平成12年)には約1・7万人であったが、1年前(平成21年)では約2・7万人である(約10年の間に60パーセント増)。しかも、増加分は全て経験10年未満の若手である。若しこれが国であれば、「人口爆発」といった状況である。

2.弁護士増加の目的~競争力欠如の克服

では、政府は、何故にかような弁護士増に踏み切ったのかと言えば、地方の弁護士過疎等の問題もあるにせよ、私見では日本の弁護士に(小職も含め)グローバルな競争力が無いことが大きい。日本の弁護士は、海外に比較すると、遙かに、実社会(企業活動、行政等)への関与、影響力が少なく、社会の複雑化・国際化に対応できる弁護士の数も少ない。かような日本の弁護士の実情が、ひいては国益を損なう(殊に、日本の企業活動の多くが外国の弁護士にイニシアチブをとられるような状況になってしまう恐れなど)と政府が考えたとしても不思議は無い。現に、労働事件の専門事務所とされる当事務所にしても、後追い的に既存の労働判例に沿って個々の案件を処理することはできても、率先して今後の労働判例を現在の日本の実情に沿ったものに変えて行くべく、裁判外の活動も含めて尽力するような陣容が揃っているとは言い難く、外国事務にしても、漸く中国の一部(上海と北京)を射程に入れているに過ぎない。小職としても、内心忸怩たる思いである。

3.現在の実績

では、現在の弁護士人口の増加は、現在の日本の弁護士の欠点である競争力の低さに対する処方箋になっているかと言えば、残念ながら、効果は今のところ期待できない状況である。理由は簡単で、弁護士の数の増加に質の維持・向上が伴っていないのである。ここで「質」というのは、昨今、指摘される若手弁護士の素養不足を言うのではない。既存の法律事務所に入所し、経験ある弁護士より実務的な教育を受けることのできる若手弁護士の数が少な過ぎることが問題である。殊に専門領域を業とする弁護士になるには、専門性を有する法律事務所にて、実務的な修行を積まねば不可能である。現在の弁護士増員政策の問題は、増員された若手弁護士の教育を、殆ど市井の法律事務所に任せきりにしたところにある(民間企業である法律事務所には経営の都合があり、これだけ急激に増えた若手弁護士を吸収し切ることなどは不可能である。)。膨大な数の若手弁護士という大きなリソースをどのように活用するのか。ここに日本の法曹界、ひいては国益の重要な部分の行方が係っていると言って良いであろう。

【人事労務の時言時論(第3回)】「団体交渉応諾義務」 弁護士 安倍嘉一

労働者派遣法については、法改正による厳格な運用が叫ばれていたにもかかわらず、この7月の参議院選挙で法改正作業が中断し、その先行きが不透明となっている状態ですが、最近では、こうした派遣労働者や業務委託・請負の労働者が労働組合に加入し、その労働組合が、派遣元や受託業者だけではなく、派遣先や委託業者に対しても団体交渉の申し入れをしてくることも増えて来ているようです。そこで今回は、派遣先や委託業者のような、労働者と雇用契約を結んでいない事業主においても、労働組合から団体交渉を申し入れられたら応じなければならないのかについて、解説したいと思います。

事業主は団体交渉に応じなければならないのかという問題は、法律的には、労働組合法(以下「労組法」といいます。)7条の「使用者」に該当するかという問題になります。労組法七条は、いわゆる不当労働行為について規定した条文で、「使用者」に禁止されている行為として、同条二号に「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」と規定されていますので、仮に同条の「使用者」であると認定されれば、労働契約を締結していないという理由で団体交渉を拒否することができなくなってしまいます。

この問題については、最高裁の判例があり、それによれば、労組法七条の「使用者」とは、一般には労働契約上の雇用主を言いますが、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の『使用者』に当たるものと解するのが相当である。」とされます(朝日放送事件最三判平成7.2.28)。

したがって、労働契約上の雇用主ではない派遣先事業主であっても、場合によっては団体交渉応諾義務が認められることがあります。この朝日放送事件では、勤務時間の割り振り、労務提供の態様や作業環境等について派遣先が決定していたとして、その限りにおいて労組法七条の「使用者」と認められています。このことからすると、休憩場所など、派遣先が決定している事項については、労働組合からの団体交渉申し入れがあれば応じなければならない場合もあると考えられますので、注意する必要があります。

なお、労働組合が派遣先や委託業者に対して団体交渉を申し入れるときに、事実上の指揮監督や長期間の従属・支配等を理由に、派遣先・委託業者と労働者の間に「黙示の労働契約」が締結されたと主張することがあります。労働契約が成立すれば、派遣先や委託業者が労働契約上も使用者となりますので、当然に団体交渉に応じる義務がある、というわけです。

しかし、この黙示の労働契約については、派遣でも業務委託でも、そう簡単に認められるものではありません。すなわち、労働者派遣については、「社会通念上、両者(派遣労働者と派遣先)間で雇用契約を締結する意思表示の合致があったと評価できるに足りる特段の事情」が必要とされますし(伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件高松高判平成一八.五.一八、最二決平成二一.三.二七)、業務委託においても、委託業者が受託業者の労働者を直接指揮監督するという事実上の指揮監督関係が存在する場合でも、そのことだけによっては直ちに受託業者と労働者との労働契約が無効になることはないとされます(パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件最二判平成二一.一二.一八)。したがって、例えば派遣先や委託業者が労働者を実質上自己の従業員のように扱い、労務提供に対して直接賃金を支払っているといった事情でもない限り、黙示の労働契約が成立することは考えにくいと思われます。

我が国の景気の悪化に伴い、派遣労働者等いわゆる非正規雇用に関する労務トラブルは増加しており、今後益々増加することも予想されます。これまで申し上げたように、形式上雇用関係にないからと言って、こうしたトラブルから解放されるとは限りませんので、ご注意して頂ければと思います。

 【エッセイ】

・英語自転車論

・いつの用でもリーダーはかくあるべき

 【エッセイ】
「米国十大絶景を歩く」ツアー参加記  高井・岡芹法律事務所 総務担当 中村六彌

6月8日から14日間、標記のツアーに参加しました。十大絶景とは、8つの国立公園とその他2ヶ所から成りますが、このプランを選択した理由は、北方のイエローストーンやグランドティートン(映画「シェーン」の舞台)と南方のヨセミテ・グランドサークルを一度に回るプランをずっと待っていたからです。二度渡米する余裕(経済的・時間的)はないものですから。

天気にも恵まれた絵葉書どおりの絶景の感想は、「行ってみなされ」の一言ですが、特筆すべきは、それぞれが全く異なる様相を持ち、今風の言葉で言えば、キャラが重なっていないのです。

ここでは、おまけの話をします。ソルトレイク・シティに宿泊しました。ケント・デリカットやケント・ギルバートでご存じの「モルモン教」(末日聖徒イエスキリスト教会)の本山です。

モルモン教では、復活後のキリストが昇天前にアメリカを訪れて、その数百年前に移住してインディアンになっていたというユダヤ人に施した教えと導きを信奉しています。復活後のキリストに重きを置くことから、十字架や十字架上のキリスト像を用いません。

信仰する・しないは別として、悩める青年の前に神が出現したこの宗教の誕生、教えを記した金版「モルモン書」の発掘、収監中の創始者兄弟の暴徒による殺害、迫害を受けながらの西部への移住、不毛の地での定住、合衆国軍と互角に戦った歴史、は大変ドラマティックですので、インターネットでぜひご覧になってみて下さい。

本部の各建物は、すっきりと明るく大きく、誰でも見学できます。日系ガイドもいます。初期に建てられた教会の円柱は木製ですが、どう見ても大理石のように塗装してあり、苦労が偲ばれます。この街では、アルコールが不可欠の方は事前に調達しておく必要があります。

イエローストーンは世界最古の国立公園で、1988年5月からの6ヵ月にわたる山火事で、焼失面積36%だそうですが、私の目には丸焼けに見えました。

22年経った現状は、2つに分かれています。地質の悪い急峻地は、黒い爪楊枝が剣山のように立った状態のままです。

一方、地質が良い所は、長年堆積していた松ぼっくりが火事の熱で開いて種子を散らし、日当たりが良くなった環境で一斉に発芽して、枯れ木の足元でびっしりと数メートルの若木に育っています。革命的世代交代が起きたのです。

これからは、密生し過ぎた若木間の生き残りの闘いが始まるのでしょう。

アンテロープ・キャニオン(アッパーとロウアーがあり、私が見たのは後者)は、砂漠のクレバスの下に朱鷺色の砂岩でできた回廊で、頭上から差し込む光によって、複雑に屈曲した壁面が、えも言われぬ繊細、妖艶な縞模様のレースのようなグラデーションを呈します。入口は、片足、頭一つ分の割れ目を降りることから始まります。

因みに、アンテロープ(鹿の一種)の角の縞模様に似ているのが、命名の由来です。

発見のきっかけは、大昔に地中にできた細い峪が長年のうちに砂で埋まり、平地と化していた所、ある日、鉄砲水が発生して砂をすっかり押し流し、鉄砲水の被害を調べに来たオーナー夫妻が見つけたことによります。

ただの砂地が、殆ど手を加えず、お1人26ドル(うち6ドルはナバホインディアンが取る)の打出の小槌になったのです。他にも何処かにこのような奇跡が埋もれているかもしれませんね。

【労働法と労務管理の基礎(第4回)】
「スピード経営時代の『筋目と金目』」    会長弁護士 高井伸夫

「筋目を補う金目(かねめ)、筋目と金目を補う忍耐」という言葉を、弁護士になりたての若い頃、私は何かの本で知った。語呂のよさと物事の本質をつく表現の巧みさが印象的だが、誰のどのような本に載っていたのか、残念ながら覚えていない。

この金言は、言わば和解の極意であり、いろいろな場面にあてはまる。何事においても最も重要なのは筋目(道理)だが、筋目を通しきれない場合には妥協が必要になり、それは金目(金銭的対応)によることが少なくない。そして、筋目と金目で解決できなければ、時間をかけて忍耐しつつ解決策を模索することがこれまでの常であった。

たとえば、交渉ごとにおいて相手の主張=筋目を撤回してもらいたい場合には、相手に金銭を支払って納得させることで早期解決を図るか、あるいは、忍耐と時間を要する裁判になることも覚悟し、こちらの論理や合理的理由で相手を説得するかという選択になる。どちらがよいかはケースバイケースであり、対立の本質を見極めて判断する。そこで間違うと時間と労力を費やす裁判を余儀なくされ、さらに敗訴となれば結局は“高くつく”ことになってしまう。 

また、企業のリストラにおいても、筋目と金目の問題は重要である。整理解雇が解雇権の濫用にならないか判断する四要件は、裁判例の積み重ねで構築されたものだが、そのひとつ「人員削減の必要性」とは、人員削減を行うにあたっての大義名分を意味する。労使それぞれが自らの正当性を大義名分として主張し合うような混沌状態を解消しなければ、合意は形成できない。そこで、企業としては「筋目を補う金目」を実践して相手方の大義名分を譲歩させるべく、金銭的解決を図るのである。

ところで、今日のように企業間のグローバルな競争が激化し、しかも社会全体が目まぐるしく変化し続けるソフト化の時代にあっては、スピードこそが重要であり、まさに「拙速は巧遅に如かず」(孫子)である。ソフトバンク孫正義社長が、テレビのインタビューで「勝算7割で勝負する。10割まで待つと後手になり負けてしまう」旨語ったのも、経営にとってスピードがいかに重要か痛感しているからであろう。これからは、忍耐は美徳ではなく、立ち遅れと敗北を意味する時代なのである。

加えて、日本社会が集団主義から個人主義に移行してきていることも、看過できない。集団主義では、時間をかけて全員の納得を得ることが重視されるが、個人主義では個々人が自立的存在であるため、全員を納得させること自体あまり意味がない。

こうしてみてくると、冒頭に掲げたかつての名言は、速さが死命を制する時代の趨勢として、忍耐礼賛の後半部分は次第に色あせてくると思われる。いま直ちに実行しなければ生き残れないという緊張感を、経営者と従業員が共有しつつ、筋目を大切にする姿勢が、これからの労務管理に求められるエッセンスであろう。

【ティータイム】弁護士 秋月良子

弁護士の仕事のうち重要なものとして、書面を作ることが挙げられます。一般の方々は、弁護士の書く文章について、「難しい言葉や言い回しを多用している」という印象をお持ちではないかと思います。難しい言葉を使うと、文章を読む気が起きなくなるという弊害が起きますが、他方で、弁護士の作る書面には、格調も必要であると思います。
 この二つを両立することは非常に難しく、私もまだまだ完璧とは言えません。そこで、私が考えるいちばんのトレーニング方法は、「本を読むこと」です。子供の頃から本を読むのが好きだった人は、私の目指している読み易く格調高い文章を書ける人が多いです。子供の頃本を読まなかった私は、今からでも遅くはないと信じて、読書に勤しんでいます。とは言っても専ら小説なのですが。

【北京だより(23)】「思いやる心で、ストを回避」

【上海だより(25)】「昔の夕涼み」

【事務所行事報告】

・第2回人事・労務実務セミナーのご報告 

第二回人事・労務 実務セミナーが平成22年7月28日(水)アルカディア市ヶ谷にて開催されました。「メンタルヘルスと就業規則~後編:『休職中』『復職の可否(諾否)』における問題~」というテーマで岡芹健夫弁護士が前編に引き続き講演させて頂きました。

今回も前回を上回るたくさんのご応募を頂き、多数の方々にお断りさせて頂かざるを得ませんでした事、重ねてお詫び申し上げます。

当セミナーは今後送付ご希望のご連絡を頂いた方にのみご案内させて頂きますが、ご興味のおありの方は当事務所までご連絡頂きますようお願い致します。

今後も中国に関連するテーマや実務上問題となっているテーマ等、様々なお話をさせて頂く予定でございますのでご期待下さい。

・上海代表処活動報告 

張琛弁護士が1年間の研修期間を終え、7月14日(水)付で弁護士登録が完了しました。張弁護士は、労働新聞に連載中の「中国世情通信」の執筆者にも早速加わり、最近中国で注目されている労働問題やその背景等を紹介しています。

9月29日(水)、アルカディア市ヶ谷にて開催された当事務所主催の第3回「人事・労務実務セミナー」において、「実例から学ぶ 対中ビジネスの落とし穴」と題して講演を行いました。

講演では、当事務所で扱った事例を中心に実例を挙げて、実務上しばしば発生するトラブルとその対応策を紹介致しました。中国進出や中国企業との取引に関心のある多数の方にご参加頂き、盛況裡に終えることができました。改めて御礼申し上げます。

この夏、上海は猛暑が続き、百年振りの暑さであると報道されましたが、万博に対する中国人民の情熱はそれ以上で、一番暑い日でも40万人を越える来場者がありました。万博を終えても中国経済は益々熱を帯びていくと予測されます。対中ビジネスに関心のある方は是非当事務所にご相談下さい。

・北京代表処活動報告 

9月12日(日)~15日(水)、東京事務所中国室、上海代表処との協働活動の一環として、三者共同で日本企業が集中している大連、瀋陽を訪問しました。大連では、三井物産(大連)有限公司と同社の出資先である二つの日系企業、大連日本商工会、JETROを訪れ、法務サービスに関する現地事情を聴取しました。又、瀋陽では在瀋陽日本国総領事館を訪問し、松本盛雄総領事より、遼寧省全体の今後の発展予測と日本企業の関わりに関するご見解の紹介を受けました。今回の訪問を通じ三者協働で、大連、瀋陽を含む中国東北地区での法務サービスの展開を図りたく考えていますので、引続き関係者各位のご支援をお願い致します。

本年1月からの「労働新聞」「中国世情通信」への執筆も、既に七回となりました。年末12月までで「中国世情通信」は終了となりますが、テーマ決定までと執筆開始、執筆途中での資料確認等、現実の中国を確認するのに却って大いに役立ったと感じています。

経営法務情報「Management Law Letter」は、顧問会社及び弊所のお客様に無料にて配布しております。
ご質問等ございましたら、下記までご連絡下さいますようお願い申し上げます。

問合わせ先担当:齊木(さいき)
tel 03-3230-2331