寝坊をして遅刻を繰り返す社員がおり、いくら注意をしても遅刻を繰り返すため、懲戒処分をしようと考えています。会社の過去事例からすると、通常であればけん責処分を考えますが、社員がまったく反省していないため、出勤停止処分や降格処分などの比較的重い懲戒処分としてもよいのでしょうか。なお、当社の懲戒処分の種類は、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇です。

懲戒処分の重さは懲戒事由となった行為が基準となるため、反省していないことのみをもって、過去事例よりも重い処分とすることは、懲戒処分の相当性を欠く可能性があるので、慎重になるべきである。

 

1 懲戒処分の重さの考え方

懲戒処分は、客観的合理理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効となります(労働契約法15条)。懲戒処分が重すぎる場合は、社会通念上相当であると認められないとして、懲戒処分が無効となり得ます。

懲戒処分は懲戒事由となる行為と処分とのバランスを要求されますので(土田道夫「労働契約法 第2版」(有斐閣、2016年)504頁 )、まずは相場をつかむ必要があります。相場については、「懲戒制度の最新実態」労政時報第3949号18頁(2018年)や人事院の「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職-68 最終改正令和2年4月1日職審―131)が参考になると思われます。もっとも、人事院の指針は公務員に対する懲戒処分についての指針であり、民間の会社とは状況が異なりますのでご注意ください。また、会社によって事情も異なりますので、会社の過去の懲戒処分の事例に照らしてどのくらいの処分が相場かも確認する必要があります。

 

次に、具体的に懲戒事由となる行為について、

・どのような行為態様か

・被害や損害があったか、あった場合はどのくらいか

・動機は何か

・経緯はどうか

といった事情から、懲戒事由が悪質な事案か軽微な事案かを検討します。悪質な事案となれば、相場の中で重い処分が相当と思われますし、軽微な事案となれば相場の中で軽い処分が相当と思われます。

 

そして、他に処分を重くすべき事情・軽くすべき事情について、検討し、懲戒処分を決定します。

・普段の勤務態様

・会社に非がないか

・今回の懲戒事由となる行為による社内外への影響

・反省の程度

・これまでの注意歴・懲戒処分歴

・今後も繰り返すおそれがあるか

などの事情が考えられますが、上記に限られるものではありません。

 

2 本件における相当な懲戒処分の重さ

前記の「懲戒処分の指針」第2の1(2)では「勤務時間の始め又は終わりに繰り返し勤務を欠いた職員は、戒告とする。」とされており、本件の会社では戒告の定めはありませんが、会社の過去事例からしても通常はけん責処分が検討されるとのことですので、本件はけん責処分や重くても減給処分が相場ではないかと見通しをつけることができます。

次に、本件社員は寝坊による遅刻を繰り返しており、いくら注意しても改善しないという事情を考慮すれば、寝坊の原因は不明ですが、遅刻が特に軽度な事案とまでは言えないと思われます。過去事例に比べて頻度や回数が多いならば、減給処分も視野に入ります。

そして、会社がこれまでも注意を繰り返していること、当該社員はまったく反省していないとみられること、今後も遅刻を繰り返すおそれがあることから、特にこれ以上軽い処分とすべき(または処分を見送るべき)事由はないように思われます。一方で、相場としてはけん責処分、あるいは減給処分ではないかということから考えると、出勤停止処分や降格処分は、例外的な事情がなければ、重すぎるとして懲戒処分が無効となる可能性があります。反省していないことをもって処分を重くする場合は、どこまで本人の真意なのか、懲戒事由となる行為の周囲に与える影響がどの程度のものなのかを慎重に判断する必要があると思われます。

以上