1.なぜ「職場」でのハラスメントがその防止に関する措置義務の対象となるのか

  セクハラ、マタハラ、パワハラについては、それぞれ事業主にハラスメント防止に関する措置義務が課されています。

  そして、措置義務の対象なるのは、あくまでも「職場」でのハラスメントということになります。

  なぜ、「職場」におけるハラスメントに限定されたのかについては、指針等にも明記されていません。

  しかし、会社は仕事をする場所であり、だとすれば、事業主が労働者に対して安全配慮義務を負っているのはあくまでも「職場」や業務に関連する行為についてのみとなるのが筋であるところ、事業主にハラスメント防止などの措置義務を課すとしても、「職場」における言動といった制約を設けておかないと、事業主の負担が際限なく広がってしまう可能性があることが考慮されているのだと思います[1]

  したがって、仮に当職が妻と同じ法律事務所で働いていたとして、自宅に帰った後に、当職が家事を行う手順について妻から厳しい指導を受けたとしても、それは明らかに「職場」での言動ではないため[2]、セクハラ、マタハラ、パワハラの対象行為にはならず、パワハラ防止法等の保護を受けることはできません。

  ただ、職場というと、「事業所内」ということを意味していると解釈してしまいがちですが(会社を一歩でもでれば職場外という理解)、企業活動が複雑化してきるなかでさすがにそのような解釈を通すことは無理があります。

  そこで、次回は、各種ハラスメント指針において「職場」について、どのように解釈されているかをご紹介していきたいと思います。

以上

文責:弁護士 帯刀康一

➣ 本弁護士解説の記事については、法改正、新たな裁判例の集積、解釈の変更等により、予告なく削除・加除等を行うことがある点については予めお断りをさせて頂きます。
 


 
[1] パワハラ防止指針では、努力義務ではあるものの、社外の者へのパワハラ防止や、カスタマーハラスメントへの対応についても事業主に対応が求められていることもあり、今後「職場」という概念にとってかわるのか、「職場」という概念に付け加わるのかは不明だが、「職場」という概念自体が変化していく可能性もあり得る。

[2] 妻の言動が法律事務所としての業務とも全く関連性がないという面もある。