パワハラでの労災認定件数は増加していると言われていますが[1]、実は、今まで厳密には労災認定基準に「パワハラ」という基準はなく、「職場でのひどい嫌がらせ、いじめ、暴行や職場内のトラブル」という括りの基準が事実上パワハラと言われていたというのが実情でした。

  しかし、令和元年5月に労働施策総合推進法が改正され(大企業は令和2年6月、中小企業は令和4年4月から施行)、パワーハラスメントの定義が法律上規定されたこと等を踏まえ、認定基準の「業務による心理的負荷評価表」にパワーハラスメントが明示されました。

  厚生労働省「精神障害の労災認定基準に「パワーハラスメント」を明示します(R2.06)」

  パワハラのみで心理的負荷の強度が「強」となるのは下記のようなケースに限定されています。

 

○上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた
【「強」である例】
・ 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
・ 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
・ 上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
 ▸ 人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
 ▸ 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
・ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

 

  ただ、ここで一つ強調しておきたいのは、上記の「強」である例では、誰が見てもパワハラである、さらに言えば、重度のパワハラであることが明白な事案といえ、事業主が職場においてこのようなパワハラ事案が生じないような措置を講じておく必要があることは当然のことなのですが、実務において、パワハラで労災申請が認められたとのタイトルで紹介されている裁判例であっても、内容を子細に検討すると、長時間労働といった他の要素との総合考慮により認定されているケースも非常に多いところです。

  したがって、事業主としては、パワハラ防止だけでなく、古くて新しい問題でもある長時間労働の削減等の問題の解決についても取り組んでいく必要があることは認識しておく必要があるといえます。

以上

文責:弁護士 帯刀康一

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[1] https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/statistics/「精神障害者の労災状況」によれば、実際増加している。