(Part4)からの続き・・・
8.パワハラとマタハラの違いについて
パワハラ防止指針のパワハラの内容と、マタハラ防止指針のマタハラの内容を比較して、何が違いを見つけることができたでしょうか。
パワハラ防止指針の内容については、問題となる言動にフォーカスされていることはわかっていただけたかと思います。
しかし、マタハラの内容については、問題となる言動に関する記載もありますが、パワハラ防止指針に存在しない「制度等の利用への嫌がらせ型」という類型に関する記載があります。
これがどういうことかといいますと、パワハラについては、基本的には行為者の言動がパワハラに該当するか否かという点についてフォーカスされることになります。
この点、マタハラの場合でも、もちろん、パワハラのように行為者の言動がマタハラに該当するか否かということが問題となる事案もあります。
しかし、マタハラについては、パワハラとは異なる問題として、妊産婦等は、労働基準法、雇用機会均等法や育児介護休業法等に規定されている種々の人事上の優遇措置を受けることが可能となっているため、このような人事上の優遇措置を受けることを予定している(受けている)妊産婦に対して、優遇措置を受けられないようにする、受けられるとしても法律上受けられる優遇措置の水準に達しない措置しか受けられない、優遇措置を受けようとしたこと(受けたこと)に対して、人事上・事実上不利益な措置をとるといった種類のハラスメントがなされることがあります。
この点が、パワハラとマタハラの内容の一番の大きな違いであると考えられます。
実務で受ける相談でも、職場のパワハラが問題となる場合については、基本的には上司といったパワハラの行為者とされる人物の言動自体が問題となります。
しかし、マタハラの場合は、労働基準法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法において、妊娠中、子育中の労働者に対する様々な制度上の配慮を行わなければならない旨規定されていることもあって、そのような制度上の優遇措置(制度)等を受けることが可能な労働者が、法律上認められた制度を利用したことに対して、事業主が当該労働者に対して何らかの不利益な措置を科すことが(科しているように見えることが)違法なのではないかという形式で争われる事案も多く存在しています。
9.パワハラとマタハラの違いを考慮したハラスメント防止策
このように、マタハラの場合は、男女雇用機会均等法及び育児介護休業法上利用することが認められている各種制度を利用した労働者に対して、そのこと等を理由として、不利益な措置を科すなどしたことが法的なトラブルに発展するケースもあります。
したがって、事業主としてマタハラを防止するためには、労働者に対して、マタハラに関する言動を行うことを禁止するだけではなく、人事部などの管理部門や管理職が、男女雇用機会均等法や育児介護休業法の制度に関する適切な知識を持ったうえで妊娠中や育児中の労働者への対応を行えるような体制を整えておくことも肝要であるように思います。
以上
文責:弁護士 帯刀康一
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