(Part2)からの続き・・・
5.セクハラとパワハラの違いからみた対応
第18回のコラムでの最後の質問について皆様どのような回答を考えられたでしょうか。
当職の感覚としては、セクハラ防止の対応については、第18回のコラムの対応でよいと思います。
しかし、パワハラ防止の対応としては、職場内で企業秩序の維持が図れないといった問題が生じる可能性が考えられると思います。
その理由は、セクハラとパワハラでは、広くとらえれば同じハラスメントではあるものの、その性質において異なる部分があるからです。
6.セクハラとパワハラの違いを考慮したハラスメント防止策
まず、セクハラについてですが、企業の生産性を向上させるために、職場においてセクハラ的な言動を行う必要性はないといえるでしょう[1]。
これは、職場におけるセクハラ的な言動により、企業秩序が維持されることもなければ、能力不足の社員等の能力向上のためになることもないからです。
しかし、パワハラについては、セクハラとは異なる考慮が必要です。
管理職は、職場の企業秩序維持、問題社員に対する指導、能力不足社員に対する教育などを行うこともその職責に含まれます。
すなわち、管理職はその職責として、上記のようなケースにおいて部下等に対して業務指導を行うことが求められているところ、業務指導を受ければ誰しも一定の精神的負荷を負う(嫌な思いをする)ことを考えれば、業務指導にはどうしてもパワハラ的要素が含まれます。
しかし、業務指導にはパワハラ的要素が含まれることから管理職が業務指導を行うことを一切禁止すれば、企業秩序の維持や能力不足の社員の能力向上などが図れなくなる可能性が大きいことは明らかであり、ひいては企業の生産性向上の低下にも繋がる事態となりかねません。
セクハラとパワハラには、このような違いがあることからすれば、セクハラ防止のためには、職場において、明白にセクハラに該当する言動のみならず、セクハラととられかねない言動も含めて禁止することも十分あり得ますが、パワハラ防止のためには、パワハラ的な要素を含まざるをえない業務指導まで禁止してしまうと、企業秩序の維持等の観点から問題が生じてしまいます。
そこで、パワハラ防止のためには、パワハラは禁止されていることを周知すること自体も非常に重要ですが、それと共に、どのような言動がパワハラとなり、どのような言動であれば業務指導として正当化されるのか、という業務指導とパワハラの線引きといった点に関し、管理職に対して研修等において十分に教育を行い、パワハラ防止と業務指導による企業秩序の維持等のバランスをとっていくことが実務上非常に重要となります。
このように、実務においては、ハラスメントの性質により、その防止策が異なる可能性がある点にも留意が必要です。
なお、拙著「1冊でわかる!改正早わかりシリーズ パワハラ防止の実務対応」においては、「業務指導とパワハラの線引き」に関する考え方について非常に厚く記述・説明していますので、ご参考にして頂ければ幸いです。
以上
文責:弁護士 帯刀康一
➣ 本弁護士解説の記事については、法改正、新たな裁判例の集積、解釈の変更等により、予告なく削除・加除等を行うことがある点については予めお断りをさせて頂きます。
[1] セクハラ的な言動があった方が士気が高まる場合もあるという反論がなされることもあり、実際にそのような側面があることも完全には否定仕切れないところですが、この点についてはもはや時代が違うとしかいいようがありません。