第2.パワハラ防止に関する措置義務の具体的内容(各論)

 4.「4.(4)1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置」

(1)パワハラ防止指針の内容

(4)1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置
(1)から(3)までの措置を講ずるに際しては、併せて次の措置を講じなければならない。

    イ 職場におけるパワーハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該パワーハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれるものであること。
    (相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていると認められる例)
    ① 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること。
    ② 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと。
    ③ 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること。
    ロ 法第30条の2第2項、第30条の5第2項及び第30条の6第2項の規定を踏まえ、労働者が職場におけるパワーハラスメントに関し相談をしたこと若しくは事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと又は調停の出頭の求めに応じたこと(以下「パワーハラスメントの相談等」という。)を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
    (不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者にその周知・啓発することについて措置を講じていると認められる例)
    ① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、パワーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること。
    ② 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に、パワーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、 労働者に配布等すること。

 

(2)中業企業として最低限やっておくこと

ア.やるべきこと

  ここで事業主に求められていることは、相談窓口が積極的に活用されるようにするための対応をとること(申告者への不利益措置の禁止も規定に盛り込むこと)と、相談窓口の担当者等からの不用意な言動等により申告者に対する二次被害(セカンドハラスメント)が発生することを防止するための対応を講じておくことです。

  今後、別の回のコラムでも解説しますが、性的指向・性自認といった機微情報の取扱いに留意することも指針に盛り込まれましたので、ハラスメント対応に関与する担当者は、今以上に個人情報やプライバシー権について留意しながらの対応を求められることになります。

  このプライバシー等への対応が不十分であると、相談窓口が信頼されず、社内でのパワハラ問題の解決が困難となり、外部機関に紛争が持ち込まれた結果、解決までの時間と費用が嵩む可能性があり、また申告者自身との間でもトラブルとなる可能性を秘めていますので、十分な留意が必要となります。

 
イ.行政のリーフレット等の活用

  「併せて講ずべき措置」に関する留意点については、厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」の28~29頁に記述されています。また、相談窓口担当者のためのチェックリストは、「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)」の72頁に詳述されていますので参考にして頂ければと思います。

 

  なお、2019年11月に株式会社労務行政よりパワハラ防止法に関する書籍「1冊でわかる!改正早わかりシリーズ『パワハラ防止の実務対応』」を出版させて頂きましたので、パワハラ防止法についてより詳細に知りたい方は、そちらもお読み頂けますとより理解が深まると思います。類書との比較でいえば、「業務指導とパワハラの線引き」に関する考え方について非常に厚く記述・説明しており、特に、人事・労務を担当している方々はもちろんのこと、経営者・管理職の方々も読んで頂ければ、どのような言動がパワハラとなるのか、パワハラにならないためにはどこに留意しておけばよいのかがお分かり頂ける内容となっていると思います。

  さらに、パワハラ防止に関する措置義務の内容が示されているパワハラ防止指針についても、『労政時報』(第3992号 2020年4月24日発行)に掲載された「パワハラ指針を踏まえた企業における実務対応と留意点」という記事にて解説していますので、併せてご参照頂けますと幸いです。

以上

                             文責:弁護士 帯刀康一

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