第2.パワハラ防止に関する措置義務の具体的内容(各論)
1.「4.(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」
(1)パワハラ防止指針の内容
事業主は、職場におけるパワーハラスメントに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、次の措置を講じなければならない。
なお、周知・啓発をするに当たっては、職場におけるパワーハラスメントの防止の効果を高めるため、その発生の原因や背景について労働者の理解を深めることが重要である。その際、職場におけるパワーハラスメントの発生の原因や背景には、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題もあると考えられる。そのため、これらを幅広く解消していくことが職場におけるパワーハラスメントの防止の効果を高める上で重要であることに留意することが必要である。
(事業主の方針等を明確化し、労働者に周知・啓発していると認められる例)
(対処方針を定め、労働者に周知・啓発していると認められる例)
(2)中業企業として最低限やっておくこと
ア.やるべきこと
中小企業としてやるべきことは以下の2つです。
なお、当職は特に経営者・管理職向けのパワハラ防止のための実践的な研修を多数の企業やセミナーで実施させて頂いており、手前味噌で恐縮ですがご好評を頂いておりますので、ご興味がおありの方はまずはご連絡頂けますと幸いです。
イ.行政のリーフレット等の活用
まず、上記Aについて、労働者に対してパワハラの内容を明示・周知するという部分については、パワハラ防止指針の「2 職場におけるパワーハラスメントの内容」の部分を活用し、できれば自社用にアレンジをするなどして書面化し、パワハラの内容、すなわち、パワハラとはこういうものだという具体例を労働者に明示・周知します。
そして、就業規則等の文書において、パワハラは許されない行為であり、職場内では禁止されることを規定・記載し、そのことを管理職を含む労働者に明示・周知します。なお、パワハラ禁止に関する規定例については、厚生労働省「モデル就業規則(令和2年11月)」の第3章「服務規律」の中の、【第12条 職場のパワーハラスメントの禁止】に記載されているので、就業規則を改定する必要がある場合はこれを参考にして規定を改定したうえで、管理職を含む労働者に明示・周知するという対応も考えられます。
なお、パワハラ防止を推進するうえでは、トップのメッセージが非常に重要になってくることからすれば、必ずしも必須の対応ではないものの、可能であれば、パワハラ防止に関する何らかのトップのメッセージは発信するのが望ましいです。
そのような場合に参考となるのが、厚生労働省「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)」の57~60頁になりますので、適宜自社でアレンジして使用することをお勧めします。
次に、上記Bについてですが、上記規定の改定を行い、就業規則においてパワハラ禁止を明示しておけば、その違反に対しては、「この規定、その他諸規則、命令等に従わなかったとき」という懲戒事由に関する規定によりパワハラの行為者(加害者)に対する処分は可能になると思います。
もっとも、これだけでは、パワハラ行為者に対して厳正に対処するということが管理職や労働者への積極的なメッセージとして明示・周知が不十分である可能性があるため、就業規則の改定の際に、書面により今後パワハラ行為者に対しては厳正に対処することを明記しておくことが考えられます。または、上記のトップのメッセージを発信する中で、「パワハラの行為者に対しては厳正に対処する」という趣旨の一文を入れておくこともお薦めします。
さらに、パワハラに関し、「パワーハラスメントの防止に関する規程」といったように、別規程としてより詳細な規程を作成したいのであれば、上記「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)」の19~24頁を参照して頂くことをお勧めします。
なお、2019年11月に株式会社労務行政よりパワハラ防止法に関する書籍「1冊でわかる!改正早わかりシリーズ『パワハラ防止の実務対応』」を出版させて頂きましたので、パワハラ防止法についてより詳細に知りたい方は、そちらもお読み頂けますとより理解が深まると思います。類書との比較でいえば、「業務指導とパワハラの線引き」に関する考え方について非常に厚く記述・説明しており、特に、人事・労務を担当している方々はもちろんのこと、経営者・管理職の方々も読んで頂ければ、どのような言動がパワハラとなるのか、パワハラにならないためにはどこに留意しておけばよいのかがお分かり頂ける内容となっていると思います。
さらに、パワハラ防止に関する措置義務の内容が示されているパワハラ防止指針についても、『労政時報』(第3992号 2020年4月24日発行)に掲載された「パワハラ指針を踏まえた企業における実務対応と留意点」という記事にて解説していますので、併せてご参照頂けますと幸いです。
以上
文責:弁護士 帯刀康一
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