第1.はじめに
1.パワハラ防止法(パワハラ防止指針)により事業主にはパワハラ防止に関する措置義務が課された
パワハラ防止法(労働施策総合推進法第30条の2第1項)において、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と規定され、企業にはパワハラを防止に関する措置義務が課されることになりました。
そして、そのパワハラ防止に関する措置義務の具体的な内容は、パワハラ防止指針に明示されることになっています。
2.中業企業におけるパワハラに関する措置義務への対応方法を検討するとっかかりとして
第4回のコラムでも説明したとおり、中小企業は、このパワハラ防止法・パワハラ防止指針に基づくパワハラ防止に関する措置義務について、令和4年3月31日までは努力義務とされていることや、対応に要する時間的・コスト的な問題からまだ具体的な対応について検討できていない企業も多いと思われます。
そこで、本コラムにおいては、本コラムを含め5回に分けて、パワハラ防止指針において、事業主に義務付けられている措置義務への対応について、あまりコストと時間をかけないで最低限こういったことをやっておけばよいのではないかという部分について、行政から公表されているリーフレット等を活用しながら、解説していくことにします。
人事労務担当者のなかで、パワハラ防止法対応として何から手をつけていけばわからないという方も、第4回コラムと本コラム以降を読んで頂ければ、措置義務対応に関する最低限の知識は把握できると思います。
もちろん、各社の実情において、行政から公表されているリーフレット等の規定例や案文例の修正が必要となる部分は出てくると思いますが、本稿が各社においてパワハラ防止に関する措置義務への対応を検討する際の一助となれば幸いです。
また、事業主に対するパワハラ防止に関する措置義務の内容を具体的に明示しているのは、パワハラ防止指針の「4 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容」[i] の箇所になるため、この部分について、パワハラ防止指針の順番に沿って、必要に応じ行政のリーフレットの内容なども紹介しながら、次回以降のコラムで解説を行っていくことにします。
なお、2019年11月に株式会社労務行政よりパワハラ防止法に関する書籍「1冊でわかる!改正早わかりシリーズ『パワハラ防止の実務対応』」を出版させて頂きましたので、パワハラ防止法についてより詳細に知りたい方は、そちらもお読み頂けますとより理解が深まると思います。類書との比較でいえば、「業務指導とパワハラの線引き」に関する考え方について非常に厚く記述・説明しており、特に、人事・労務を担当している方々はもちろんのこと、経営者・管理職の方々も読んで頂ければ、どのような言動がパワハラとなるのか、パワハラにならないためにはどこに留意しておけばよいのかがお分かり頂ける内容となっていると思います。
さらに、パワハラ防止に関する措置義務の内容が示されているパワハラ防止指針についても、『労政時報』(第3992号 2020年4月24日発行)に掲載された「パワハラ指針を踏まえた企業における実務対応と留意点」という記事にて解説していますので、併せてご参照頂けますと幸いです。
以上
文責:弁護士 帯刀康一
➣ 本弁護士解説の記事については、法改正、新たな裁判例の集積、解釈の変更等により、予告なく削除・加除等を行うことがある点については予めお断りをさせて頂きます。
[i]パワハラ防止指針では、「事業主は、当該事業主が雇用する労働者又は当該事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)が行う職場におけるパワーハラスメントを防止するため、雇用管理上次の措置を講じなければならない。」とされています。