1.「カスタマーハラスメント(カスハラ)」とは

  カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)について、法律上の定義はありませんが、ここでは、「顧客・取引先等からの不当な要求のこと」をいうとしておきます。

  近時、コンビニの店員に土下座をさせたことなどで客が逮捕されるという事例などが度々報道されています。

  このカスハラという言葉自体は比較的新しい言葉ですが、カスハラの実態としては、企業が従来から頭を悩ませていた悪質クレーマー対応とかなりの部分が重なります。

  つまり、カスハラの問題は、何か新たな分野が創出されたというものではなく、従来より企業を悩ませていた問題(悪質クレーマー対応)に新たな名前(カスハラ)が付いたということが実態に近いかと思います(すでに悪質クレーマーへの対応に関する書籍は多数刊行されています)。

  したがって、顧客などからのクレームが多い業種の企業においては、むしろ先進的な取組をしている企業もあるのではないかと思います。

 

2.カスハラとパワハラ防止指針

  このカスハラがなぜ今取り上げられることが多くなっているかというと、パワハラ防止法が制定される際に、顧客等からの迷惑行為への対応についてもパワハラ防止指針に盛り込むべきであるという議論となり、実際に、努力義務ではあるものの、以下のようにパワハラ防止指針にもカスハラ対応に関する事項が盛り込まれたことが要因といえるでしょう。

7 事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容
事業主は、取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、例えば、(1)及び(2)の取組を行うことが望ましい。また、(3)のような取組を行うことも、その雇用する労働者が被害を受けることを防止する上で有効と考えられる。
(1) 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
事業主は、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関する労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために 必要な体制の整備として、4(2)イ及びロの例も参考にしつつ、次の取組を行うことが望ましい。
また、併せて、労働者が当該相談をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発することが望ましい。
イ 相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、これを労働者に周知すること。
ロ イの相談を受けた者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
(2) 被害者への配慮のための取組
事業主は、相談者から事実関係を確認し、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為が認められた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための取組を行うことが望ましい。
(被害者への配慮のための取組例)
事案の内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組を行うこと。
(3) 他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組
(1)及び(2)の取組のほか、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為からその雇用する労働者が被害を受けることを防止する上では、事業主が、こうした行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことも有効と考えられる。
また、業種・業態等によりその被害の実態や必要な対応も異なると考えられることから、業種・業態等における被害の実態や業務の特性等を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進めることも、被害の防止に当たっては効果的と考えられる。

  この点、社員間でのパワハラ防止については、特に経営層や管理職層へのパワハラ研修を繰り返すことなどで、事業主として、事前の防止措置をとることも可能です。

  しかし、カスハラについては、ハラスメントの行為者(加害者)が、顧客や取引先といった企業外の第三者であり、かつお客様ということになります。

  したがって、事業主が、顧客や取引先に対してカスハラの研修を行うといった、カスハラに関する事前防止策を講じることは極めて困難な状況です。

  そこで、カスハラ対応として事業主に求められる措置は、事後的な措置が中心とならざるを得ないのです(上記、パワハラ防止指針の内容を見て頂いても、事後的な措置が中心となっていることは明らかかと思います)。

  パワハラ防止指針には、事後的な措置としていくつかの対応が記載されていますが、かみ砕いていえば、カスハラを受けた人を一人にせず、組織としてサポートをするということに尽きると思います。
業種・業界等によってもカスハラ(クレーム)の内容は様々ですので、実態にあったサポート体制・相談体制を構築していくことが必要になります。

                                     以上

                             文責:弁護士 帯刀康一

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