メンタル不調を原因とした、私傷病休職中の労働者から、主治医の「復職可」の診断書とともに復職願いが提出されました。当社は、これに基づき、必ずこの労働者を復職させなければならないのでしょうか。

結論的には、会社は、主治医の診断書に基づかねばならないという必要はありませんが、主治医の診断書とは異なり、復職させないと判断する場合には、一般的にその判断を基礎づける医学的知見が必要と考えます。

1.復職の判断主体について

私傷病休職制度は法律に基づくものではなく、各社において様々な規定を整備していますが、通常、私傷病が「治癒」せず、復職できない場合には、雇用契約を解消(自動退職または解雇)することを前提に、就業規則等で制度設計されていることがほとんどです。このため、休職期間は解雇猶予のための期間と考えるのが一般的です(菅野「労働法第12版」742頁など)。

就業規則は会社が作成し、運用するものです。会社が、その私傷病休職制度を作成した以上は、その休職からの復職の判断は、主治医ではなく、まさに、その会社が行わなければなりません

このため、会社は、必ずしも主治医の診断書に従う必要はなく、復職判断の考慮材料の1つの位置づけに留まるものです。

一般的に、会社の人事担当者は、医学的知見に明るくないことが通常ですので、主治医の診断書をそのまま鵜呑みにしてしまうことも、心情的には理解できるものがあります。

しかしながら、後述するように、身体的疾病ではなく、主に、メンタルヘルスのような判断が難しい場合には、主治医の診断書と実態が乖離しているケースも事実として実在します。従って、ご質問のように疑念がある場合には、特に、復職の判断主体としての立場から、冷静に主治医の診断書を見極める必要があります。

 

2.主治医の診断書に疑問がある場合について

(1)休職労働者の心境としては、会社に対して、休職期間満了までに復職可の診断書の提出ができない場合には、雇用契約が解消されてしまうとの危機感があります。このため、休職労働者は、主治医に対して、例えば、①診断書に復職可の記載を強く求めたり、また、②自身に不利となる事情の説明を怠ったり、あえて虚偽の情報を伝えたりすることも、あり得るところです。このような事情により主治医が復職可とする診断書を作成し、会社にその診断書が提出されることがあります。

こうした経緯がある場合には、その診断書に基づき、復職の判断を行うと、その復職の判断を誤ることになりかねません。その結果、休職労働者の症状の悪化を招き、安全配慮義務違反や労災の問題も生じかねないところです。したがって、会社が主治医の診断書を鵜呑みにすることには法的なリスクを伴うことになります。

(2)なお、①については、「医学的に軽快したということが理由になっているのではなく、債権者(筆者注:休職労働者を指します)の強い意向によることが理由と考えざるを得ない」等と指摘し、復職可能であることの疎明がないと判断した裁判例があります(横浜地裁平成27年 1月14日決定・コンチネンタル・オートモーティブ事件等)。また、②については、主治医による復職可の診断にあたっての重要な事実の把握が欠けている等から、信用性が否定される方向で考慮された裁判例があります(東京地裁平成23年 2月25日判決・N事件、東京地裁平成29年11月30日判決・東京電力パワーグリッド事件等)。

 

3 会社としての対応について

(1)会社担当者としては、手間になるとは思いますが、主治医が作成した診断書に関する主治医への問い合わせや、対象労働者の症状・配慮事項等を確認する必要があります。

(2)ア まずは、本人の同意を取得の上、

①会社担当者と主治医との面談

②本人を含む三者面談

③主治医に対して書面にて情報提供を依頼する(※「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」)

の実施を検討することが望ましいです。基本的には、①⇒②⇒③の順番が優先順位になると考えますが、併用でも構いません(①については電話よりも、対面が望ましいです。)。この面談に当たっては、事前に、産業医(会社担当者)から主治医に対して情報提供書(職場の状況・業務内容等)を送付する等して、短時間でもその面談を有意義な機会にすることが望ましいです。なお、この面談については、記録化しておくことも肝要です。

イ 他方で、主治医面談及び三者面談いずれも、本人が拒否した場合には、その診断書の信用性に疑念が残る1つの事情になります。このため、そのような場合がありうることを念頭に、その経緯を明らかにするためにも、上記の同意取得に関する本人と会社担当者のやりとりは記録に残るように行うことが肝要です。

(3)ア 上記「3(2)ア」のように、主治医との接触等を通じて、上記①・②等(他には、矛盾点や短時間の変遷等)の観点から、診断書の記載内容に疑問が生じる場合には、その診断書を重視する必要はありません。ただし、基本的には、復職の判断をしないということは、雇用契約解消に結び付くケースが多く、この場合は、紛争化の可能性が高いと思われますので、会社の判断を基礎づける産業医(又は会社指定医)の医学的知見を資料として収集しておくことが望ましいと考えます。

イ 上記「3(2)イ」では特に、主治医との接触ができていない状況下では、実際問題、医学的知見なくして、その診断書を信用できないと断ずることは難しいです。この場合には、産業医(又は会社指定医)の医学的知見を資料として収集しておくことは必須と考えます。

ウ この場合は、就業規則に定めがあれば、その規定に基づき受診命令を行うことができますし、仮にその関連規定がなくとも、受診命令に基づき、行うことができると考えられています。もっとも、受診命令が可能であるとしても、労働者のプライバシーへの配慮の問題があるため、基本的には、まずは、本人へその必要性を説明の上、任意の形で、受診を促す方が穏当です(精神的疾患については、労働者の「プライバシーに対する配慮が求められる疾患であり、その診断の受診を義務付けることは、プライバシーの侵害のおそれが大きい」等指摘した裁判例として、名古屋地裁平成18年 1月18日判決・富士電機E&C事件があります。)。