上司から、常識的な範囲での指導を繰り返し受けていた社員が、適応障害と診断され休職しました。同僚の話によると、当該社員への指導は業務上の適正な範囲であり、行き過ぎたものではなかったといいます。当該社員は上司からのパワハラがあったとして、上司を処分するよう申告していますが、会社としては、そのような必要はないと考えています。当該社員にどのような対応をすればよいでしょうか。

パワーハラスメント(以下、パワハラ)の申告があった以上、調査は行う必要がある。その結果、上司の指導に問題がないという結論が出たのであれば、その旨を申告者に回答することになるが、申告者への回答の方法(伝え方)については産業医に意見を求めるなど慎重な対応が求められる。

1.適正な業務指導はパワハラには該当しない

企業においては、雇用している社員が期待される水準の能力を発揮していない場合や、非違行為をした場合等に、当該社員に対して、上司から業務指導がなされるケースがあります。

この点、業務指導は、これを受ける社員の立場からすれば、程度の差こそあれ一定程度の精神的負担となります。

しかし、企業の生産性を向上させていくためには、社員の能力向上、企業秩序維持は必要不可欠であるため、社員を管理する立場にある管理職の職責には、部下に対する業務指導が含まれます。

このように、管理職は、その職責として部下に対する業務指導を行う必要があるところ、部下に対して適正な業務指導を行ったにもかかわらず、そのことがパワハラと判断されるのであれば、管理職はその職責を全うすることができなくなります。

したがって、適正な業務指導については、その指導により部下が一定の精神的な負担を感じたとしても、パワハラには該当しないと解されています。

なお、マスコミでも大きく取り上げられたように、いわゆるパワハラ防止法が昨年 令和元年(2019年)6月に成立し、本年6月1日に施行され(大企業)、改正労働施策総合推進法30条の2第1項により、事業主に対して、パワハラ防止のための雇用管理上の措置義務が課されることになりました(中小事業主に関しては経過措置として令和4年3月31日までの間は努力義務)。

そして、この措置義務の具体的内容については、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)(以下、指針といいます)に定められています。

指針はまず、職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素

① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

③ 労働者の就業環境が害されること

をすべて満たすものとし、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」と明記しています。

そして、事業主に義務付けられる雇用管理上講ずべき措置の内容としては、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」、「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」、「職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」等を挙げて、それぞれ詳述しています。

 

2.適正かつ迅速な調査の実施

ご質問のケースでは、同僚が「当該社員への指導は業務上の適正な範囲であり、行き過ぎたものではなかった」と言っているとのことですが、社員からパワハラの申告がなされた場合、事業主としては、パワハラの有無・内容について、適正かつ迅速に調査を行う必要があります。

この点については、前述のとおり、指針においても「事後の迅速かつ適切な対応」が事業主の義務とされていますので、指針の内容にそった対応をおこなわなければなりません。

パワハラの調査においては、申告者から事実関係について詳細なヒアリングを行い、メール等の物的証拠の提出、目撃者等についても確認することが必要になります。

また、申告者がパワハラと主張する行為者の言動を見聞きした第三者や、行為者に対するヒアリング等の実施も不可欠です。

そして、上記調査を行った結果に基づき、事業主として行為者の言動がパワハラに該当するか否かを判断することになります。

したがって、ご質問のケースにおいても、上記のような調査が未了なのであれば、速やかに適切な調査を実施した上で、パワハラか否かの最終判断を行う必要があります。

 

3.調査結果のフィードバック

調査により最終判断が確定した場合は、その調査結果を申告者に説明することになります。

申告者に対して説明する内容ですが、まず、調査を行った結果、行為者とされる上司の言動(業務指導)がパワハラと認定されたケースであれば、①当該上司に対する人事上の措置としての異動の有無・内容、②(厳重)注意処分または譴責等の正式な懲戒処分といった当該上司に対する処分内容、および③当該上司を含む管理職等へのパワハラ防止のための研修の実施等の再発防止策を講じることなどが考えられます。

これに対し、調査を行った結果、行為者とされる上司の言動(業務指導)がパワハラには該当しないと認定されたケースであれば、当該上司に対して処分をすることはできないため、申告者に対しては、調査方法の概要などを説明した後に、結論として「適正な業務指導であり、パワハラには該当しないと判断したため、上司を処分することはできない」旨回答することになります。

また、後者のケースであれば、申告者に対して調査結果を回答する際に、「パワハラは許されるものではなく、当社としてもパワハラを容認するものでは断じてないが、社員として会社の指揮命令下で勤務する以上、部下の業務遂行等に問題がある場合は上司として業務指導を行わざるを得ない場合が今後もあるので、そのことは理解してもらいたい」といった申告者への説諭が必要となる場合もあり得ます。

もっとも、ご質問のケースでは、上司の業務指導との因果関係は不明であるものの、結果として申告者が適応障害を発症しているという事実があります。

そこで、上記のような説諭が必要とされるようなケースであったとしても、説諭を行うこと自体の適否、仮に行うとしても、その時期、伝え方等について、産業医などと連携を取りながら慎重に進めていく必要があります。

以上

労務行政研究所「労政時報」第3979号132頁掲載「相談室Q&A」(帯刀康一)に加筆補正のうえ転載

 

<関係する法律や指針等については以下をご参照ください>

◎ 厚生労働省ホームページ

・「職場におけるハラスメントの防止のために」
(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

 

◎ 厚生労働省によるポータルサイト

・「あかるい職場応援団」
~ イラストや動画を用いたパワーハラスメントについての解説
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/

 

◎ 関連資料

・労務行政研究所「労政時報」第3992号(2020年4月24日号)14頁以下の特集記事
実務解説-改正法対応シリーズ第15弾
「令和2年6月1日施行 パワハラ指針を踏まえた企業における実務対応と留意点」(担当 帯刀康一)

・単行本『1冊でわかる!改正早わかりシリーズ パワハラ防止の実務対応』
(帯刀康一著・労務行政研究所 2019年11月刊)
https://www.rosei.jp/products/detail.php?item_no=7904