長年にわたる経費の不正使用が発覚した社員に対し、懲戒解雇を行うことを検討しています。
賞罰委員会を設置し、適正な手続きを経た上で、処分を行う予定ではいますが、当該社員に対する「弁明の機会」の与え方をどのようにすべきかが分かりません。賞罰委員会に出席させ、その場で弁明させるべきなのか、文書の提出のみでもよいのか、回数や本人から反論がある場合の対処の仕方等、ご教示願います。

また、今回のケースとは異なり、軽い懲戒処分であった場合、このような「弁明の機会」を必ずしも設けなくてもよいのでしょうか。

弁明の機会を与える具体的な方法は、就業規則等の会社の規則や労働協約に反しなければどのような方法でも構わない。弁明の機会はいかなる場合でも必要というわけではないが、重度の処分を考えている場合であるので実務的には与えるべきである

1.懲戒手続きにおける弁明の機会の意味

懲戒処分については、労働契約法15条に「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」との定めがあります。これは、懲戒処分を行う場合に、服務規律に抵触する行為等の懲戒事由に該当する対象者の行為が存在するというだけではなく、その懲戒事由該当行為との関係で、実際に行う懲戒処分が社会通念上相当である必要があるということを定めているものですが、この社会通念上の相当性には、懲戒処分の内容(罰量)が相当であるかという実質的な面のみならず、懲戒処分に至る手続きの相当性も含まれると考えられています。そして、弁明の機会は、この懲戒手続きの相当性との関係で問題になるものであります。

 

2.弁明の機会を与えることはあらゆる懲戒処分において必須か

では、弁明の機会を付与しなければ、懲戒処分はすべて相当性を欠き無効になるかという疑問が生じます。この点に関し、セクハラを理由に懲戒解雇した事例で、就業規則に弁明の機会の付与の規定が存在しなかったところ、弁明の機会を付与しなかったことをもって直ちに懲戒処分が無効になると解することは困難である旨判示されているものがあります(日本HP社セクハラ解雇事件 東京地裁 平17. 1.31判決 判時1891号156ページ)。このような裁判例が存在することからすれば、理論上は弁明の機会の問題は社会通念上の相当性判断における一事情にすぎず、弁明の機会を付与しなければ、その他の事情に関係なく即座に懲戒処分が無効となるとまではいえないと思われます。

ただ、この裁判例においても、結局は懲戒処分告知の段階で一応弁明の機会はあったと認定された上で懲戒処分の有効性が認められていますので、本当に弁明の機会が与えられなくても懲戒処分が無効にならないのかは、疑問が残るところではあります。また、近時の裁判例で、上記日本HP社セクハラ解雇事件と同様に就業規則に弁明の機会を与える旨の規定がなく、弁明の機会を付与せずに行われた懲戒解雇を有効としたものがありますが(ホンダエンジニアリング事件 宇都宮地裁 平27. 6.24判決 労経速2256号3ページ)、こちらは就業規則に定められた労使の代表者で構成する賞罰委員会の意見を聞いて懲戒処分が行われた事案でした。このように、懲戒手続きについて「弁明の機会」は必須ではないと判示し、懲戒処分は有効であるとしている裁判例でも、結局は何らかの方法で懲戒手続きの相当性が担保されていた事例でありますので、弁明の機会という形式は必須とまではいえないにしても、懲戒手続きは適正に行う必要があると考えるべきです。そして、懲戒手続きを適正に行うためには、対象者に弁明の機会を与えることが重要かつ有効ですので、やはり弁明の機会は与えるべきであると考えます。

 

3.弁明の機会はどのような方法で与えるべきか

まず、ご質問のうち、「賞罰委員会に出席させ、その場で弁明させるべきなのか、文書の提出のみでもよいのか」という点ですが、就業規則等の会社の規則類や労働協約等に弁明の機会を与える方法について特に定めがないのであれば、どのような方法でも差し支えありません。賞罰委員会を開催するのであれば、賞罰委員会の場に対象者を呼んで弁明させることが、賞罰委員会のメンバーがその場で疑問点を確認することができるので効率的とも思いますが、弁明を聞いてすぐに判断しなければならないことになりますので、書面で弁明の内容を予め提出させて確認した上で賞罰委員会に臨むほうがよい場合もあるかと思います。

また、弁明の機会を与える回数や対象者本人から反論がある場合の対処の仕方については、弁明の内容次第ということになるかと思います。例えば、ご質問のような経費不正のケースにおいては、対象者が経費不正の事実自体を否定し、適正に使用していた旨を主張するような場合には、その論拠を出すように求める等、対象者の弁明が事実であるか否かを追加で調査するべきと考えられますし、他方で経費不正の事実は認めながら、想定している罰量が重すぎるというような反論を行っている場合には、それ以上対象者に確認する必要がなく、弁明の機会としては十分であると判断できることもあると思われます。この点、やはり懲戒解雇のような重罰を想定している場合には弁明の機会についても手厚く慎重に行うべきですし、譴責(けんせき) のような場合には、弁明の機会の手厚さという点では相対的に薄くても許容されることが多いと思われます。なお、弁明の機会は与えればよく、対象者が弁明の機会としての賞罰委員会への出頭を拒否する等、弁明しないとの態度である場合にはそれ以上の対応は不要となります。

また、就業規則や労働協約で懲戒処分についての手続きが定められている場合には、基本的にこれを履行しないと懲戒処分の有効性判断にとって大きなリスクとなります。したがって、懲戒処分の手続きについて就業規則等の会社の規則や労働協約で定める場合には、その手続きを使用者として常に履行できるか(特に緊急性を要する場合を想定して)をよく検討した上で定めるべきであると考えます。

 

労務行政研究所「労政時報」第3966号116頁掲載「相談室Q&A」(秋月良子)より転載