パフォーマンスが悪く周囲の社員から評判もよくなかった契約社員Aを雇止めしたところ、社員Aは、「会社に3年間勤めて雇用継続への合理的期待が生じており、今回の雇止めは許されない。私は雇止めされるようなことはしていない。」などと主張し出した。社員Aのいう雇用継続への合理的期待とはどのような場合に生じるのか。もし雇用継続への合理的期待がある場合、どのような場合であれば雇止めが有効となるのか。

1 「雇用継続への合理的期待」とは

まず、社員Aの主張する「雇用継続への合理的期待」とは、労働契約法19条2号に規定されている「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること」を指していると思われます。

そして、社員Aに、この雇用継続への合理的期待があると認められる場合には、会社が社員Aを雇止めすることについて、「客観的に合理的な理由」及び「社会通念上相当」であることが認められなければ、当該雇止めは制限され、会社と社員Aとの雇用契約は同一の労働条件で更新されることになります(同条柱書)。

整理すると、第1段階として雇用継続への合理的期待の有無が判断され、当該期待が存在すると認められる場合に、第2段階として雇止めの客観的合理的理由及び社会通念上の相当性の有無について判断されることとなり、客観的合理的理由及び社会通念上の相当性のいずれかを欠く場合には雇止めが制限されます。

このように、雇用継続への合理的期待は、雇止めの適法性の審理における第1段階の位置づけになります。そのため、雇止めについて労働者から争われた場合には、使用者は労働者に雇用継続への合理的期待がないことを主張立証できることが望ましいです。

 

2 雇用継続への合理的期待の考慮要素

そこで、この雇用継続への合理的期待はどのような場合に発生するかという点が問題となります。

この点については、これまでの裁判例の傾向からすると、当該雇用の臨時性・常用性(たとえば、雇用の目的が特定の業務のために臨時に雇い入れたものであるか)、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間の管理状況(たとえば、更新時に更新手続を行っているか)、雇用継続への期待を持たせる使用者の言動や制度の有無(たとえば、使用者から労働者に対して次回の契約を必ず更新するなどの示唆をすること)などの考慮要素を総合考慮して判断されるものと考えられています(菅野和夫著「労働法(第11版補正版)」330頁~331頁参照)。

 

3 3年間勤務すると雇用継続への合理的期待が発生するか

雇用継続への合理的期待の有無は、上記のように、様々な要素が考慮されるため、単純に社員Aが主張するような雇用契約が3年間継続していたというその一事実のみをもって雇用継続への合理的期待が発生していると判断されるものではありません。上記に記載したその他の考慮要素と併せて合理的期待が生じているのかを慎重に検討する必要があります。ただし、雇用契約が3年間継続していたという事情は、雇用継続への合理的期待の有無を判断する際に、合理的期待を肯定する一要素となる点には注意が必要です。

 

4 もし雇用継続への合理的期待がある場合、どうすれば雇止めできるのか。

上記2の考慮要素から検討した結果、雇用継続への合理的期待が認められる場合には、第2段階として雇止めの効力が審査されることとなります。したがって、当該雇止めについて、客観的合理的理由及び社会通念上の相当性の双方が認められなければ、雇止めは無効となります(労働契約法19条柱書)。ただし、上記を反対解釈すれば、仮に雇用継続への合理的期待がある場合であっても、雇止めについて客観的合理的理由及び社会通念上の相当性を基礎づける事情について主張立証できれば、雇止めは適法となるということです。

そこで、次に、上記客観的合理的理由及び社会通念上の相当性についてどのような事情があればよいのかが問題となります。

この点、客観的合理的理由及び社会通念上の相当性という文言は、解雇権濫用法理(労働契約法16条)と同様の文言となっていますが、判例(日立メディコ事件・最判昭和61年12月4日労判486号6頁)は、有期契約労働者の場合には、正社員の雇用保障の程度とは自ずと差があることを指摘しているところでもあります。そのため、雇用継続への合理的期待が生じている場合には、解雇と同程度の客観的合理的理由及び社会通念上の相当性に該当する事情まではなくても、それに近い事情があれば、雇止めが有効になるとも考えられます。もちろん、雇止めにおいても、解雇と同程度に、客観的合理的理由及び社会通念上の相当性について立証ができることが望ましいです。

本件においては、社員Aのパフォーマンスが悪いという事情があるようですが、そのようなケースの場合には、基本的には、社員Aのパフォーマンスが業務上求められる水準に達していないこと、それについて会社から社員Aに対して継続的に(書面など形に残る方法で)注意指導を繰り返し行っていたこと、その注意指導にもかかわらず、社員Aのパフォーマンスが向上していない事実を立証する必要があります。このような事実を立証できるのであれば、雇止めが有効となる可能性があります。もし、そのような事実の立証が難しい場合には、雇止めが無効となるリスクが高くなるため、それを考慮の上、紛争となった場合の解決方針を検討しておく必要があります。

以上

民事法研究会「Q&A現代型問題社員対策の手引(第5版)」より転載・一部修正