先日、宴席上で女性社員の意に反し、手を握る等の身体的接触を繰り返した管理職を譴責(けんせき) 処分としました。ところが同処分後、別の複数の女性社員から人事部に、「同人より過去に同様のセクハラ行為を受けたが、不利益な取り扱いを受けると思い、泣き寝入りしていた」との申告がありました。いずれも、現時点で社内の苦情処理窓口に訴える意思はないとのことですが、同管理職に確認したところ、すべての事実関係を認めています。複数の懲戒事由が重なれば、規定されている譴責処分ではなく、さらに重い処分の適用が考えられるところ、本ケースでは、先に下した譴責処分を撤回し、あらためて賞罰委員会に諮った上で再処分することは認められますか。あるいは、別事案は5年ほど前のものも含むことから、不問に付すべきでしょうか。

譴責処分を撤回して再処分することは二重処罰の禁止の原則から認められない。5年ほど前の行為を含む別事案については、懲戒処分が認められる可能性がある

1.懲戒処分における二重処罰の禁止

二重処罰の禁止の原則とは、ある行為について処罰された場合、当該行為について再度処罰することは許されないとする刑事訴訟における原則であり、憲法39条後段(同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任は問はれない)を根拠とします。この点、従業員に対する制裁罰としての意味合いを持つ懲戒処分においても同原則の適用があると考えられており(国際航業事件 大阪地裁 昭45.11.19判決 労判126号6ページ、平和自動車交通事件 東京地裁 平10. 2. 6決定 労判735号47ページ等)、ある行為について懲戒処分がされた場合は、当該行為について重ねて懲戒処分をすることは許されないこととなります。

ご質問のケースにおいても、既に、当該管理職が「宴席上で女性社員の意に反し、手を握る等の身体的接触を繰り返した」行為については、譴責処分とされているとのことですので、二重処罰禁止の原則により、上記行為について、譴責処分を撤回し、再度審理の上、改めて懲戒処分を行うことは許されないと考えます。

他方、過去の懲戒歴を、当該従業員に反省が見られないことの一事情とし、懲戒処分の量刑の判断を行うことは認められています(近鉄タクシー懲戒解雇事件 大阪地裁 昭38. 2.22判決 労民集14巻1号340ページ)。

2.懲戒処分の時期について

譴責処分後、当該管理職について同種の非違行為をしていたことが新たに発覚したということですが、非違行為には5年ほど前のものも含まれているということです。既に述べたとおり、懲戒処分は、「従業員の企業秩序違反行為に対する制裁罰」であると考えられていますが(菅野和夫『労働法 第11版補正版』[弘文堂]658ページ)、非違行為から期間が経過すればするほど、企業秩序は回復され、懲戒処分を行う必要性に欠けるといえるため、非違行為から一定期間が経過した後に行う懲戒処分の有効性(懲戒処分の時期的限界)が問題となります。

この点について、ネスレ日本(懲戒解雇)事件(最高裁二小 平18.10. 6判決 労判925号11ページ)では、非違行為の発生から7年以上が経過した後にされた諭旨退職処分の有効性が問題となりましたが、最高裁は「本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、原審(編注:東京高裁 平16. 2.25判決)が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由について被上告人(編注:会社)が主張するとおりの事実が存在すると仮定しても、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない」として、懲戒処分の時期的限界についての考え方を示し、当該諭旨退職処分は権利濫用に該当し、無効と判断しました。

そして、その後の下級審裁判例(学校法人B[教員解雇]事件 東京地裁 平22. 9.10判決 労判1018号64ページ)は、懲戒処分の行使時期には使用者の裁量があるものの、制裁罰としての本質(①)およびこれに由来する手続き的安定性確保の要請(②)から、使用者の裁量権には限界があるとした上で、「①労働者の企業秩序違反行為が存在し、懲戒事由該当性が肯定される場合であっても、長期間の経過によって企業秩序が回復し、その維持のために懲戒処分を行う必要性が失われた場合、あるいは②合理的理由もなく著しく長期間を経過して懲戒権を行使したことにより、懲戒処分は行われないであろうとの労働者の期待を侵害し、その法的地位を著しく不安定にするような場合などには、例外的に当該懲戒解雇は、懲戒権の行使時期の選択を誤ったものとして社会通念上の相当性を欠き、懲戒権の濫用を構成するものと解するのが相当である」(下線は筆者)と判示しました。

懲戒処分の時期的限界については、個別具体的な事情に基づき判断せざるを得ませんが、上記裁判例が示した基準(①期間経過により企業秩序が回復し、その維持のために懲戒処分を行う必要性が失われたかどうか、②合理的理由なく長期間経過後に懲戒権が行使され、労働者の期待を侵害し、その地位を著しく不安定にするかどうか)は検討の参考になります。

3.ご質問のケースについて

ご質問を見ると、今回新たに申告のあったセクハラ行為の中には5年ほど前のものも含まれているということですが、5年が経過した段階においても、当該管理職はセクハラ行為をし、譴責処分を受けているのですから、企業秩序が回復したとはいえず、懲戒処分の必要性が失われたとはいえないと思われます(上記基準①)。また、今回新たにセクハラ行為を申告してきた女性社員は、「不利益な取り扱いを受けると思い、泣き寝入りしていた」ため、長期にわたり申告できなかったということですので、貴社自体がセクハラ行為を認識した後放置していたわけではないですし、当該女性社員が上司である加害者に対する恐怖の感情から申告できなかったという理由も是認できるものですので、5年ほどの期間経過後に懲戒処分をすることも合理的な理由がないとはいえないと思われます(上記基準②)。したがって、ご質問のケースにおいて、新たに申告のあったセクハラ行為を対象とした懲戒処分が認められる可能性はあると考えます。

もっとも、非違行為から懲戒処分まで期間が空かないほうがよいことは言うまでもなく、今回のようなケースが起きないよう、ハラスメントの申告がしやすいように制度を見直したり、社内の雰囲気の改善を進めたりすることは必須でしょう。

以上

労務行政研究所「労政時報」第3959号138頁掲載「相談室Q&A」(山根美奈)より転載