当社では、業務時間中の喫煙休憩は労働時間としてカウントしていますが、多数の従業員から「非喫煙者よりも多く休憩時間を取っているのだから、その分の賃金を控除すべきだ」との意見が出ています。そこで、喫煙休憩は労働時間としてカウントせず、賃金から喫煙休憩分を控除することを検討していますが、法的には問題ないでしょうか。

担当者 高亮 弁護士

喫煙場所が職場から離れており、職場で何かあった場合に即座に対応しなくてよいなど、喫煙中は労働から解放されていたといえるのであれば、喫煙休憩の賃金控除は可能である

1.喫煙時間に関する裁判例の動向

労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいますが(三菱重工業長崎造船所事件 最高裁一小 平12. 3. 9判決 労判778号14ページ)、これに対し休憩時間は、始業時刻から終業時刻までの間の時間で、労働時間に該当しないために労働からの解放が保障されていることを要するとされています(大星ビル管理事件 最高裁一小 平14. 2.28判決 労判822号5ページ)。

ご質問では、喫煙時間が労働時間に該当するか否かにより、給与支給の要否が定まりますが、喫煙時間の労働時間性については、以下のとおり裁判例でも判断が分かれています。

 

【労働時間性肯定】

・岡山県貨物運送事件(仙台地裁 平25. 6.25判決 労判1079号49ページ、仙台高裁 平26. 6.27判決 労判1100号26ページ)

「業務の合間を見て休憩室へたばこを吸いに行っていたものであり、休憩室が事務所やホームから近距離にあることや何かあればすぐ業務に戻らなければならなかったことからすれば(証拠略)、喫煙時間を休息のために労働から完全に解放されることを保障されていた時間であるということはできず、休憩時間とみることはできない」

・国・北大阪労基署長(マルシェ)事件(大阪高裁 平21. 8.25判決 労判990号30ページ)

「(筆者:持ち場を離れるのは)ベテランのアルバイトと一緒に勤務していても、本件店舗内の更衣室兼倉庫において喫煙をする程度であって、アルバイトだけでは対応できない場合には、直ちに対応しなければならなかったのであるから、このような実労働に従事していない時間も、手待時間であって、休憩時間と見ることはできない」

【労働時間性否定】

・泉レストラン事件(東京地裁 平26. 8.26判決 労判1103号86ページ)

「原告らは、昼食休憩のほかに、所定勤務時間中に、1日4、5回以上、勤務していた店舗を出て、所定の喫煙場所まで行って喫煙していたこと、原告らは喫煙のために一度店舗を出ると、戻るまでに10分前後を要していたことが多かったことが認められる。(中略)喫煙場所が勤務店舗から離れていることや喫煙のための時間を考慮すると、原告らが喫煙場所までの往復に要する時間及び喫煙している時間は、被告の指揮命令下から脱していたと評価するのが相当」

 

以上のとおり、裁判例では、喫煙時間の労働時間性について、職場と喫煙場所との場所的離隔の程度、職場で何かあった場合に対応ができるか、といった要素を考慮して、労働から解放されているか判断していると考えられます。

そのため、ご質問の場合、職場から離れた喫煙場所等で喫煙をしており、喫煙時間中は職場で何かあった場合でも対応しなくてよい、といった事情があれば、喫煙時間は労働時間ではないと判断される可能性が高いと思われます。しかし、職場の自席で喫煙していたり、職場から離れていても携帯電話等を常に所持していて職場から連絡があったらすぐ対応しないといけないような場合は、労働から解放されてはおらず、労働時間に当たると判断されるおそれが高いでしょう。

2.喫煙時間の取り扱い変更時の注意点

[1]不利益変更および周知について

喫煙のために労働時間中に休憩をしてよいということが雇用契約や就業規則で定められていることは通常あり得ず、また、就業規則には、通常「勤務時間中は職務に専念すること」といった職務専念義務が定められていることに照らせば、喫煙休憩が労使双方の規範意識により支えられており、労使慣行になっているということも考え難いところです。そのため、勤務中の喫煙が労働条件になっており、喫煙時間を休憩時間とみなすことが法律上の不利益変更に該当するとまで判断される可能性はそれほど高くなく、仮に不利益変更に当たるとしても、その合理性は比較的緩やかに判断されると思われます。

なお、今後喫煙時間を労働時間と認めないとするのであれば、規程の明確化のためその旨を社内通達等で明示するとともに、喫煙者に禁煙の機会等を与えるために、一定の猶予期間を置いてから賃金控除を実施することが肝要です。

[2]労働時間の把握

喫煙時間について、賃金控除を実施するのであれば、喫煙時間を労働時間と明確に区分して特定できるようにしておく必要があります。

具体的な方法としては、喫煙室が社内に設けられている場合は、喫煙室に電子錠を設置し、入退室時間を電子的に記録できるようにしておく、喫煙スペースが社屋外に設けられている場合は、入退館の時間を記録できるようにする、といったことが考えられます。国・横浜西労基署長(ヨコハマズボルタ)事件(東京地裁 平24.11.28判決 労判1069号63ページ)では、喫煙室の入室時間や通用口からの外出時間が電子的(カードリーダー)に記録されていたところ、退室時間の記録がなかったため具体的な喫煙時間の特定には至らなかったものの、少なくとも一定の休憩時間を取得していたことが認定されています。

以上

労務行政研究所「労政時報」第3949号114頁掲載「相談室Q&A」(高亮)より一部加筆の上転載