懲戒処分と社内公表

非違行為を行った社員に対して懲戒処分を実施した場合、処分内容等を社内公表している企業も多いと思います。

企業においては、社内秩序を維持する必要があり、社員が懲戒処分に該当する非違行為等を行った場合、企業秩序の回復、再発防止、社員への教育的効果といった観点から、当該非違行為の内容や処分結果等を社内公表することには一定の合理性が認められます。特に、職務遂行に関連して重大な非違行為がなされたような場合であれば、再発防止といった観点から社内公表の必要性は高まると言えます。

もっとも、処分内容等の社内公表も全くの無制約ではなく、被処分者(セクハラの被害者などの関係者も含む)等の名誉・プライバシーといった人格権に対しても一定の配慮をする必要があり、ケースによっては、社内公表の内容・方法が違法であるとして、被処分者等からの損害賠償請求が認められる可能性もあります。

この点、処分内容を社内公表すべきか否か、社内公表する場合に公表事項の範囲・方法をどのように決定すべきか、という問題については微妙な判断を求められることもありますが、上記の視点からすれば、①公表の目的、②事案の性質・内容(職務関連性等)、事案の重大性(処分の重さも含む)、③関係者の名誉・プライバシー等への配慮といった事情を総合考慮して、事案毎に、決定すべきことになります。

なお、上記の点については、人事院が作成した公務員の懲戒処分の公表指針において、職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分、職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち、免職又は停職である懲戒処分については公表することとし、公表内容については、事案の概要、処分量定及び処分年月日並びに所属、役職段階等の被処分者の属性に関する情報を、個人が識別されない内容のものとすることを基本として公表するものとし、被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合などは、例外的に公表内容の一部又は全部を公表しないことも差し支えないとされていることも参考になります(詳細は、「懲戒処分の公表指針について[平成15年11月10日総参―786 人事院事務総長発]」をご参照ください)。

以上を前提に、処分内容等の社内公表について、実務的な視点から申し上げますと、確かに処分内容等を社内公表することによる企業秩序の回復や再発防止の必要性は企業にとって極めて重要ではありますが、再発防止といった観点からすれば、社内公表の際に必ずしも実名を明らかにするなどして個人を特定する必要はないことが多いと思われます。そこで、社内公表に関する無用なトラブルを回避するという観点からは、実務上、よほどの重大な事案でない限りは、社内発表する際に、実名、所属部署、役職といった個人が特定可能な事実については原則として記載せず(もっとも、所属部署の記載についてはある程度柔軟に対応することも可能と思われます)、「違反事実の要旨、該当する懲戒規定、処分結果」といった事実の記載に留め、被処分者を含む関係者の名誉にも一定の配慮をしておくことが、肝要であると言えます。また、セクハラといった被害者等のプライバシーに特に配慮する必要がある事案の場合、社内公表をしないという選択肢も検討する必要があり、仮に再発防止や企業秩序の回復の観点からやむを得ず社内公表を選択する場合であっても、どのような内容・方法で社内公表するかという点について被害者等と協議しておく必要があると言えます。

なお、処分結果等の社内公表をどのような手段で行うかという点については、法律上特段の制限はなく、各社、朝礼の際に口頭での説明、会社掲示板への掲示、社内イントラへの掲載、社内報等への掲載、電子メールでの通知といった方法で実施していると思われます。もっとも、懲戒処分の社内公表は、あくまでも社内における再発防止などの効果を狙って実施するものであり、上述のように関係者の名誉等にも配慮する必要があることから、会社外の第三者の目に触れるような手段での公表はできるだけ避けるべきであり、特に実名等を記載し個人が特定される形で社内公表するような場合は注意が必要です(その意味では、メール、社内報等への掲載といった第三者に拡散する可能性がある手段での社内公表は好ましくないと言えます)。

以上