「犯罪行為を行った従業員に対する対応」

弁護士 秋月 良子

従業員が犯罪行為を行った場合に、会社としてどのような対応をとるべきかについては、悩まれる方も多いと思います。そこで、今回は会社のとるべき対応について述べたいと思います。

1.会社内での犯罪行為の場合

例えば、売上金を横領することは、業務上横領罪(刑法253条)に該当する可能性がありますし、また、故意に通勤経路を偽って申告して通勤手当を不正に受給することは、詐欺罪(刑法246条)に該当する可能性があります。

⑴ 事実関係の確認

これらの行為は、事案の性質上会社内の調査等で発覚することが多く、被害に遭った場合でも警察に届けるか否かは会社(会社の他に被害者がいる場合にはその被害者)が判断することになりますが、会社としては、まず当該犯罪行為を当該従業員が本当に行ったのか、調べる必要があります。出来る限り当該従業員の供述以外の証拠を収集した上で、当該従業員自身に確認をすることになりますが、その際には当該従業員自身に事実関係についての顛末書を作成させるのが証拠を残しておくという意味でも適切かと思います。

⑵ 懲戒処分の検討

事実関係の調査により、当該従業員が犯罪行為を行ったとの判断に至れば、会社としては当該従業員に対する懲戒処分を検討することになります。

どの程度の懲戒処分が可能かについては、犯罪行為の態様、損害額及び損害額の賠償の有無、同様の事例に対する過去の会社の対応等により異なりますが、売上金の横領等については少額でも比較的懲戒解雇も認められる傾向にあります(金融機関という会社の業務内容も考慮した判断ではありますが、1万円を横領した従業員に対する懲戒解雇が有効と判断された例があります。東京高判平成元・3・16 前橋信用金庫事件)。なお、⑴で述べた事実関係の確認と重複しますが、懲戒処分にあたっては当該従業員に対し弁明の機会を与えるのが妥当な対応かと思います。

2.会社外での犯罪行為の場合

従業員が私生活において犯罪行為(例えば覚せい剤所持、痴漢、飲酒運転等)を行うことがあります。

⑴ 事実関係の確認

私生活上の犯罪行為については、当該従業員が警察に逮捕されることにより会社に発覚するケースが多いですが、この場合にも警察や検察の捜査とは別に、会社として事実関係の把握は必要になります。勾留されずに釈放された場合には、間もなく直接面会しての事実関係の確認が可能かと思われますが、逮捕に引き続き勾留された場合でも、接見が可能な場合には会社の方が接見の上で事実関係の確認をされるべきかと思います。

⑵ 懲戒処分の検討

会社としては、私生活上であっても犯罪行為を行った者に対しては懲戒処分を検討することが多いと思いますが、従業員の私生活上の行為については原則自由であると考えられていることから、私生活上の犯罪行為を理由とする懲戒処分については、会社内の秩序を乱したり、会社の社会的評価を貶めた場合等に限り可能であると考えられており、また懲戒処分の程度も、懲戒解雇等の重い処分については相当性が厳しく判断されると考えられています。

どのような場合に懲戒処分が可能であるかという点については、犯罪行為自体の種類や程度の他に、会社の業務内容や犯罪行為の報道の有無、当該従業員の社内での立場等を具体的に検討する必要がありますが、犯罪行為が会社の業務内容と関係する場合には、当該従業員の犯罪行為によって会社の社会的評価が貶められることが多いものと思われますので、場合によっては重い懲戒処分も可能であると考えられます(例えば、貨物運送事業者のセールスドライバーが業務終了後に飲酒し、酒気帯び運転で検挙された事案について、会社の業務内容に鑑みて懲戒解雇も認められるとした裁判例があります。東京地判平成19・8・27 ヤマト運輸事件)。

3.就業規則における懲戒事由の規定

上記のとおり、従業員が犯罪行為を行った場合には懲戒処分を検討することになりますが、いずれにせよ就業規則において懲戒事由として規定されているものに該当しなければ、懲戒処分を行うことは出来ません。

なお、懲戒事由として「刑事裁判において有罪判決を受けたとき」と定められている場合には、逮捕・勾留されている段階ではまだ有罪判決を受けていませんので、この定めに基づいて懲戒処分を行うことは出来ません(但し、他に該当する懲戒事由の定めがあれば、その定めに基づいて、有罪判決を受ける前であっても懲戒処分を行うことは可能ですが。)。犯罪行為が発覚してから有罪判決を受けるまでには時間がかかることが多いので、就業規則には、「刑事法令に違反したとき」等のように、有罪判決を受けたことが懲戒処分の前提条件とならないように定めておく方が宜しいかと思います。

以上