職場の異性と交際している部下がいますが、 職場での交際に関する上司の部下に対する言動がパワハラになることはありますか。

1.職員間の交際に関する言動が私生活に対する不当な介入とされた裁判例

~福岡高判平25.7.30・Y市事件~

地方自治体の例ですが、某市の福祉課勤務の男女職員の交際に対して、総務課長が当該男性から庁舎内で面談のうえ事情聴取をおこなった際の言動をめぐり、裁判になった事案があります。

Y市の男性職員(離婚歴あり)であるXが、同市の女性職員であるAと交際していたところ、Y市の市民から、Aが男性職員と市営団地の建物の前で抱き合うなどしていたという通報があったことから、Y市の総務課長BがXと面談を行い、「Xが、Aと市営団地の前で抱き合ってキスをしているとの市民からの通報があった。入社して右も左も分からない若い子を捕まえて、だまして。お前は一度失敗しているから悪く言われるんだ。」「お前は何様のつもりだ。呼ぶなとはどういうことか。お前が離婚したのは、元嫁の妹に手を出したからだろうが。一度失敗したやつが幸せになれると思うな。親子くらいの年の差があるのに常識を考えろ。お前俺をなめているのか。俺が野に下ったら、お前なんか仕事がまともにできると思うなよ。」などと発言したことについて、XがY市に対して、Bからパワーハラスメントを受けたこと及びそれについて総務課が適切な対応をとらなかったことにより自身のうつ病が悪化した旨主張して国家賠償法1条に基づき損害賠償を請求し、一審が請求を棄却したため、Xがこれを不服として控訴しました。

裁判所は、XとAはいずれも成年に達している者であるから、その交際はXらの自主的な判断に委ねるべきものであり、その過程でXあるいはY市の職場への悪影響が生じこれを是正する必要がある場合を除き、Bとしては、Xとの面談の際に、「交際に介入するごとき言動を避けるべき職務上の義務がある」と判示したうえで、本件においては職場への悪影響が生じていたとは認められず、Bの言動は上記義務に違反するなどとして、Xの請求を認容しました(認容額33万円。うち弁護士費用3万円)。

 

2.部下のプライベートに過度に立ち入る言動はパワハラの可能性も

職場でのコミュニケーションを円滑にするために、部下とプラベートな事項について話をすること自体は問題ありません。

しかし、上司の部下に対する業務上の注意・指導は、あくまでも部下の業務上の問題点の改善等を目的としてなされるものであることから、部下のプライベートな問題に立ち入った言動を行った場合、パワハラと評価される事情になります。

そして、職場で従業員同士が交際していたとしても、誰と交際するかは個人の自由であり、プライベートな事柄と言えます。

したがって、職場での風紀を乱しているといった合理的な理由がないにもかかわらず、交際を辞めさせようとするなど、交際について過度に介入するような言動を行った場合は、パワハラと評価される可能性があるため、管理職としては、そのような言動をとらないよう留意が必要と言えます。

以上