酒席での言動がパワーハラスメント(アルコールハラスメント)になることはあるのでしょうか。

「飲みにケーション」という言葉があるように、日本においては、職場内に限らず、人間関係を円滑にするために酒席においてコミュニケーションが図られることが多々あるといえます。

そして、企業においては、業務に関することは職場内においてコミュニケーションが図られるのが原則ですが、それ以外にも、上司と部下が、仕事帰りに酒席を共にして、そのような酒席の場でコミュニケーションが図られるということは現在でも行われていると思われます。

そのような酒席でのコミュニケーションが、上司と部下の関係を円滑にするといった一定の効果があることは事実であると思いますが、近時は、酒席における上司の部下に対する言動がパワーハラスメント(以下「パワハラ」という)であるなど主張され、トラブルになる事例も散見され、そのような酒席の関するトラブルはアルコールハラスメント(以下「アルハラ」)とも呼ばれています。

酒席でのパワハラ(アルハラ)について、法律上の定義等があるわけではありませんが、特定非営利活動法人アスク(アルコール薬物問題全国市民協会)のホームページにおいて、「アルハラの定義5項目」として、①飲酒の強要、②イッキ飲ませ、③意図的な酔いつぶし、④飲めない人への配慮を欠くこと、⑤酔ったうえでの迷惑行為が挙げられており、参考になります(なお、「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」の第2条に「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない。」と規定されていますが、倫理規定であり、この規定に違反したことによる罰則はありません。)。

もちろん、酒席でのパワハラ(アルハラ)は、上記の行為に限られる訳ではなく、上記の5項目もその内容・程度は事案により様々であると思われますので、上記5項目に該当するような行為が直ちに不法行為法上違法と評価されるパワハラ(アルハラ)となる訳ではありません。しかし上司が部下と酒席を共にする際に、特に上記①から③の行為については基本的にはそのような行為を行う必要性は認められず、上司と部下とのコミュニケーションを円滑にするための行為(多少の迷惑行為も含む)を逸脱し、部下の人格権等を侵害するに至っていると評価されるような場合は、不法行為法上も違法なパワハラ(アルハラ)であると評価される可能性はあると思われます。

裁判例においても、酒席でのパワハラ(アルハラ)が問題となり、一審と二審でパワハラ(アルハラ)か否かの結論が分かれた事案があります。簡略に事案を紹介しますと、ホテルの運営会社に勤務していた部下Xは、出張先のホテルにて外国人観光客向けに使用することになっていた英文パンフレットの発注依頼の手違いにより、英文パンフレットの到着が遅れるというミスをしたところ、後日、上司Yらと出張先で合流し、その日の午後9時すぎ頃から英文パンフレットの件の反省会を兼ねて出張先のホテル付近の居酒屋でYと共に飲食をしている際に、酒が弱く、英文パンフレットの件でYに負い目を感じていたXに対し、Yが、「少しぐらいなら大丈夫だろ。」などと言い、飲酒を勧めるなどしたという事案になります。

一審判決は「確かに、…(略)…、Yは、洞爺駅付近の居酒屋において、『少しぐらいなら大丈夫だろ。』『丁原(Xの旧姓)、おまえ、酒飲めるんだろう。そんなに大きな体をしているんだから飲め。』などと言って、グラスを手でふさいでいるXに対し、かなり執拗に飲酒を勧めていた事実が認められる。しかし、その一方で、Xは、Yからの飲酒の誘いを断り切れず、吐き気がしてトイレに立った以外は座を外すことなく、上記居酒屋のカウンター席において食事を取りながら、同Yの飲酒に付き合っていること、そして、その間、自らが柔道5段であることを打ち明けたり、同Yとともに上記居酒屋主人夫婦と仕事関連の会話をしたり、あるいは同Yが所用でE(被告女性従業員)に対して携帯電話をかけた際、その携帯電話に出てA本部長の物まねをしてみせるなど、かなり打ち解けた様子がうかがわれること、そして何よりも上記居酒屋における原告の酒量は、コップにして約3分の2程度にとどまり、Xの上記体質を考慮に入れたとしても、多量であるとはいい難く、Xは、それなりに酒量をセーブしながら、Yからの飲酒の誘いに応じていた形跡がうかがわれること、などの各事情を指摘することができ、これらの事情を併せ考慮すると、上記居酒屋においてYがXに対して行った飲酒の勧誘は、強要といわれても仕方がないものであったとはいえ、その飲酒の経過や態様等からみて、上司としての立場(地位・権限)を逸脱・濫用し、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような性質、内容のものであったとまではいい難い。したがって、Yは、上記居酒屋において、飲酒に関連して、Xに対して不法行為と評価し得るほどのパワーハラスメントを行った事実はないものというべきである。」と判示し、不法行為に該当するようなパワハラではないとしました(東京地判平24.3.9)。

しかし、二審判決は、「Yが、平成20年5月11日から12日にかけて、極めてアルコールに弱い体質のXに対し、執拗に飲酒を強要したことは、前記認定事実のとおりである。Xは、英文パンフレットの件で迷惑をかけたこともあり、上司であるYの飲酒強要を断ることができなかった。Xは、少量の酒を飲んだだけでもおう吐しており、Yは、Xがアルコールに弱いことに容易に気付いたはずであるにもかかわらず、『酒は吐けば飲めるんだ』などと言い、Xの体調の悪化を気に掛けることなく、再びXのコップに酒を注ぐなどしており、これは、単なる迷惑行為にとどまらず、不法行為法上も違法というべきである」と判示し、不法行為法上も違法なパワハラであることを肯定しました(東京高判平25.2.27)。

この点、業務上の注意・指導とパワハラの線引きを一律に判断する基準はなく、ケースごとに線引きの判断要素を総合考慮して判断するほかないことから、実務上業務上の注意・指導とパワハラの線引きが難しいケースが多いことなどは、拙稿「判例・事例から学ぶパワーハラスメントと業務上の注意・指導の境界線」労務事情/2014年6月1日号/第1275号においても言及していますが、上記裁判例においても、一審と二審で結論が分かれていることからも明らかなとおり、実務においては、酒席でのパワハラ(アルハラ)のケースにおいても、不法行為法上も違法と評価されるか否かの判断が困難なグレーゾーンなケースも少なくないものと思われます。

したがって、特に管理職クラスの方については、酒席でのパワハラ(アルハラ)リスクを可及的に低減させるという予防法務の観点からすれば、部下に対して業務上の注意・指導を行う際は、原則として勤務時間中に行うこととし、部下と酒席を共にしている場においては、飲酒の影響により判断能力が低下する危険等もあるため、厳しい指導等は控えることが肝要です。また、上記①から⑤の行為のように酒の力を借りて日頃の鬱憤を晴らしているのではないかと疑われるような言動についても行うことがないよう留意することが肝要であるといえます。

なお、上司から部下に対する酒席でのパワハラ(アルハラ)が不法行為法上も違法とされた場合、それが「その事業の執行について」行われたものであれば、企業も使用者責任を負い、損害賠償責任を負担することがありますので、企業としても、酒席でのパワハラ(アルハラ)防止について社内研修を実施するなど対策をとっておくことが肝要といえます。

以上