問題のある部下から反省文・顛末書といった書面を提出させるとパワハラになりますか?

1.問題の背景

近時、パワーハラスメント(以下「パワハラ」という)という言葉が世間にも浸透したこともあってか、業務上のミス、能力不足、非違行為等の問題行動を起こした部下に対して、上司が反省文・顛末書といった書面の提出を求めると、部下からパワハラであると主張されることがあります。

2.考え方

パワハラについては、実務上、業務上の注意・指導との線引きが問題となることが多いところですが、人材の育成、職場秩序の維持、ひいては企業の生産性向上のためには、上司の部下に対する業務上の注意・指導は不可欠の行為であることから、管理職には、その職責として部下にして必要とされる業務上の注意・指導を行うことが求められているといえます。

もっとも、部下に対して業務上の注意・指導を行う必要性がある場合であっても、いかなる注意・指導も許容されるものではなく、部下の問題行動の内容・程度に応じた注意・指導を行う必要があり、部下の人格権等を侵害するような「業務の適正な範囲」を超える注意・指導は、パワハラと評価される可能性があります(業務上の注意・指導とパワハラの線引きについての考え方、パワハラと評価されないための業務上の注意・指導の留意点等は、拙稿「判例・事例から学ぶパワーハラスメントと業務上の注意・指導の境界線」労務事情/2014年6月1日号/第1275号を参照頂ければ幸いです)。

したがって、管理職として問題を起こすなどした部下に対して業務上の注意・指導の一環として書面の提出を求める必要があり、その内容が相当なものであれば、そのような部下に対して書面の提出を求めること自体は何ら違法ではなく、部下の問題行動の内容・程度に応じた注意・指導を行う必要があるという制約があるに過ぎないことになります。

なお、人材育成、職場秩序の維持といった観点からしますと、問題を起こした部下に対して、問題を起こした経緯、改善点などを書面にて提出させることは、自身の問題点を具体的に考えさせる契機や、再発防止に資する面があることから、あまりに軽微な問題を除けば、管理職としてむしろ望ましい対応であるとすらいえます。

もっとも、予防法務の観点からしますと、「反省文」という形式で提出を求めますと「思想・良心の問題」も絡んでくるため、部下に対して書面の提出を求める際には、反省を求めるという主観面に主眼を置くのではなく、問題行動についての客観的な事実関係や再発防止に関する報告を求めるという体裁にした方が無難であるという点には留意する必要があります。

3.参考となる裁判例のご紹介

参考までに、書面の提出とパワハラに関連する裁判例を以下にてご紹介致します。

(1)パワハラと評価された裁判例

まず、パワハラと評価された裁判例として、部下Xが休暇申請を行った際に、直属の上司である製造長Yに直接申請するべきであったにもかかわらず、Xが書記に電話をしてYに伝言を頼んだことについて、YがXに対して執拗に反省分の提出を求めた事案について、「渋るXに対し、休暇をとる際の電話のかけ方の如き申告手続上の軽微な過誤について、執拗に反省書等を作成するよう求めた…(中略)…Yの行為は、Yの一連の指導に対するXの誠意の感じられない対応に誘引された苛立ちに因るものと解されるが、いささか感情に走りすぎた嫌いのあることは否めず、その心情には酌むべきものがあるものの、事柄が個人の意思の自由にかかわりを有することであるだけに、製造長としての従業員に対する指導監督権の行使としては、その裁量の範囲を逸脱し、違法性を帯びるに至るものと言わざるを得ない。」と判示したものがあります(東京地八王子支部判平2.2.1・東芝府中工場事件)。

(2)パワハラとは評価されなかった裁判例

これに対し、パワハラと評価されなかった裁判例として、各種ゴム製品等の製造・販売を主な業務とするX社において、得意先および仕入先への商品の受・発注や入・出庫管理等の業務に従事していたYが、顧客等からその仕事ぶりに対するクレームが寄せられるなどしたために、上司であるBがYに対して反省文の提出を求めるなどした事案について、「前述のようなクレームがあるYに対し、上司であるBが厳しく注意し、指導するのは、むしろ当然のことであるし、本人の自覚を促すため反省文を作成させたことにも合理性が認められる。しかも、漫然と反省を求めるのではなく、問題点を個別に書き出させ、一定期間経過後に改善状況を確認するとともに、クレームごとに問題点とあるべき業務内容を整理した一覧表を作成し、これに基づき一つ一つ事実を確認しながら指導を行うなど、その方法は具体的かつ丁寧で、退職強要に向けた嫌がらせと評価されるようなものではない。」と判示したものがあります(大阪地判平19.6.15・ゴムノイナキ事件)。

(3)まとめ

前者の裁判例については、休暇申請の手続を誤ったという軽微といえる問題行動に対して、通常であれば思想・良心の自由が絡む反省文の提出を「執拗」に求めることはしないと思われますので、やはり、部下の問題行動の内容・程度に応じた業務上の注意・指導を行うことが肝要といえます。

これに対して、後者の裁判例は、部下の問題行動が顧客等から仕事ぶりに対してクレームが寄せられるというその内容・程度が比較的重大であることが違法性の判断に影響したと考えられますが、本人の自覚を促すために反省文を作成させたことなどの指導方法も合理性があると判断されており、書面に記載させた内容や指導方法についても合理性が肯定されていることから、業務上のミスをした部下、能力不足の部下、非違行為を行った部下に対して上司が業務上の注意・指導の一環として書面の提出を求めるにあたり、非常に示唆に富む判示であり、参考にすべき裁判例であると思われます(能力不足社員、問題社員への対応一般としても参考にすべき判例といえます)。

以上