当社では数年前から、従業員各人の合意のうえで、職能給的な年俸制を実施してきました。年俸制の対象となるような従業員は賃金も高いので、管理職扱いとして割増賃金も支給してこなかったのですが、この度、年俸制の対象となっている従業員より、時間外労働の割増賃金を支給するようにとの要求がありました。年俸制の導入の際に、賃金もアップしていますし、割増賃金を支払う必要はないと思うのですが、いかがでしょうか。

1 年俸制と時間外労働の割増賃金

年俸制とは、賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度とされています(菅野和夫『労働法〔第11版〕』419頁)。

年俸制を導入した会社の中には、年俸制では時間外労働の割増賃金を支払う必要がないとの理解の下、年俸制の導入に踏み切ったケースもあるようですが、年俸制それ自体は、労働基準法37条による時間外労働の割増賃金の支払いを免れさせる効果を有しておらず、このような理解は誤りです。

したがって、年俸制が適用される従業員が、労働基準法41条2号の管理監督者に該当する場合、または裁量労働制の要件を満たす場合(労基法38条の3、同法38条の4)でない限り、年俸制を導入したという事実のみによって時間外労働の割増賃金の支払義務を免れることはできません(菅野和夫『労働法〔第11版〕』420頁、大阪地判平成14・5・17労判828号14頁・創栄コンサルタント事件、大阪地判平成14・10・25労判844号79頁・システムワークス事件)。

この点、貴社は、年俸制の対象となる従業員について管理職扱いとして割増賃金を支給してこなかったとのことですが、時間外労働分の割増賃金を要求してきた従業員が労基法41条2号の管理監督者に該当する場合であれば時間外労働の割増賃金を支払う必要がありませんが、管理監督者に該当しない場合には、時間外労働の割増賃金を支給する必要があります。

 

2 年俸制と定額による時間外労働の割増賃金の支払い

貴社の場合、年俸制が適用されている従業員の賃金が高く、賃金もアップしているとのことであり、貴社は、年俸制を適用している従業員については、たとえ労働基準法上の管理監督者に該当しないとしても、時間外労働の割増賃金見合い分を含めた賃金を支給しているのであるから、割増賃金を支払う必要はないと主張されています。

この点については、行政解釈において、「一般的には、年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は労働基準法第37条に違反しないと解される。」(平成12年3月8日基収78号)とされています(なお、上記創栄コンサルタント事件、上記システムワークス事件も同旨です)。

すなわち、①年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかにされていること、②割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができること、③割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われていることという三つの要件を満たしていれば、年俸として支給する賃金に、時間外労働の割増賃金見合い分を含めて定額支給することも適法であると解されます。

この点、貴社の取扱いの詳細は不明ですが、上記三つの要件を満たしていれば、時間外労働の割増賃金を支払う必要はありません(ただし、労基法に所定の計算方法により算定した割増賃金額が、定額支給していた割増賃金見合い分を上回るときは、その差額を支給する必要はあります。)。

なお、時間外労働の割増賃金部分を明確に区別して支給していなかったケースにおいて、年俸制の従業員の時間外手当が基本給に混在していても、勤務実態、報酬額等から適法と判断された事例(東京地判平成17・10・19労判905号5頁・モルガン・スタンレー・ジャパン〔超過勤務手当〕事件)もあります。

しかし、このケースは、1年間に、基本給として2200万円(月額約183万余円)および裁量業績賞与として約5000万円という極めて高額な報酬が支給されており、毎月の基本給の中に所定外労働の対価と所定時間外労働の対価とが区別されることなく入っていても、労働者保護に欠ける点がないと判断された事案であるため、一般化は困難であり、あくまでも例外的なケースと解すべきと考えます。

年俸として支払う給与に、時間外労働及び休日労働の割増賃金見合い分を含めて定額支給するのであれば、そのことが従業員にわかるように、給与の基本給部分と、時間外労働および休日労働の割増賃金見合い分を明確に分けて就業規則、給与規程等に規定し(給与明細でも区別した方がより明確となります。)、かつ労基法所定の計算方法により算定した割増賃金額が定額支給していた割増賃金見合い分を上回るときは、その差額を支給することを就業規則、給与規程等において明確に定めておくことが必要となります。

以上

 

民事法研究会刊『現代型問題社員対策の手引』(第4版)髙井・岡芹法律事務所編

128頁以下より一部修正のうえ転載