当社の取締役(取締役として登記している支店長)が、会社で虚血性心疾患を発症し、死亡しました。心臓病などの持病はありませんが、倒れる前の半年間は出張が多く、月に平均100時間以上の残業をしていました。こうした取締役でも労災は認められるでしょうか。また、これまで残業代は支払っていませんでしたが、労災認定の結果いかんによっては同支払いが必要となるでしょうか。(前編)

(前編・後編の2回に分けて掲載します)

(前編)

1.取締役の労災認定に関する最近の報道

平成25年6月28日、取締役が脳出血で死亡した事案について、労災認定がされた旨の報道がなされました(同年7月6日付 毎日新聞[地方版]、同月7日付 読売新聞等)。

報道によれば、この取締役は、会社の支店長を兼ねていながら、自ら工事現場での調査や営業活動等を行っていたとのことです。タイムカードも存在し、死亡する前の6カ月の時間外労働時間は1カ月当たり、最短で約110時間、最長で約204時間に及んでいたということですが、この報道からも分かるように、取締役であるとしても、労災認定がなされることはあり得ます。

 

2.労災保険法における「取締役」

労働者災害補償保険法(以下、労災保険法)における取締役の取り扱いについては、「法人の取締役、理事、無限責任社員等の地位にある者であっても、法令、定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で、事実上、業務執行権を有する取締役、理事、代表社員等の指揮、監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を得ている者は、原則として労働者として取り扱うこと」との行政例規が出されています(昭34. 1.26 基発48)。

株式会社における「業務執行権」とは、事業に関するさまざまな事務を処理することを意味する多義的概念ですが、我が国において多く見られる「取締役会設置会社」においては、取締役会が会社の業務執行の決定権限を有し(会社法362条2項1号、4項)、代表取締役または業務執行取締役が業務を執行することとされていますので(同法349条4・5項、363条1項2号)、必ずしも取締役が業務執行権を有するとは限りません。したがって、取締役が法令、定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められない場合で、取締役が①指揮、監督を受けて労働に従事しており、②労働の対象として賃金を得ているといえる場合には、被災者が取締役であっても、労災保険法上の「労働者」に当たると判断される可能性があることになります。

そこで、具体的にどのような場合に、取締役である被災者が労災保険法上の「労働者」に当たると判断されるのかが問題となります。個別事案における労働基準監督署長の判断過程は公表されませんが、同署長の判断を再検討する労働保険審査会の裁決や裁判所の判決では、「労働者」か否かの判断基準として、前記①②の基準で判断するものが多く見られます。具体的には、①の基準については、(ⅰ)従業員から取締役に就任した場合、就任の際に従業員を退職したといえるか、(ⅱ)取締役としての特別な権限は与えられていたか、(ⅲ)被災者の業務内容は取締役としての地位にふさわしい内容か、それとも管理職レベルの内容か、(ⅳ)出退勤の管理をされていたか、(ⅴ)経営への関与はどの程度であったか、(ⅵ)社内規程が従業員身分を兼務することを想定しているか等の事情が、②の基準については、(ⅰ)取締役への支払いは役員報酬として支払われていたか、(ⅱ)社会保険料の控除や源泉徴収がどのようになされていたか、(ⅲ)取締役への支払額は従業員の賃金と比較して高額といえるか等の事情が、具体的・総合的に検討され、取締役が「労働者」といえるかの判断が導かれています(参考として、厚生労働省・労働保険審査会のホームページ上に掲載されている平成18年度裁決例39〔http://www.mhlw.go.jp/topics/ bukyoku/shinsa/roudou/06/rousai/index.html〕や、国・船橋労基署長[マルカキカイ]事件〔東京地裁 平23. 5.19判決 労判1034号62ページ〕があります。後者の判決は、労働者が理事、取締役を経て執行役員在籍中に被災した事案ですが、取締役を経ても労働者性は失われなかったとする点で参考になります)。

ご質問のケースでは、当該取締役は出張や残業が多かったとのことですので、取締役としての業務よりも、支店長としての業務のほうに重点があったのではないかと推測されます。当該取締役について、上記のような具体的事情を検討することが必要ですが、「労働者」に当たると判断される可能性は否定できないと考えられます。

 

(次回に続く)

こちらの記事は、株式会社労務行政 https://www.rosei.jp/ 2013年12月27日発行 労政時報本誌 3859号 118頁に掲載された原稿を転載しています。