看護等休暇や生理休暇を頻繁に取得する社員がおり、納期遅れや他の社員の負担増加など、業務に支障を来しています。これらの休暇を取得すること自体は問題ないものの、結果として仕事で成果が出ていない点を考慮して人事評価を下げたいのですが、不利益取り扱いとならないか、不安です。人事評価において、どのような点に注意が必要でしょうか。
A 同じ期間労務を提供していない労働者と比較して不利に取り扱うことのないように、実際に提供された労務の内容に着目して平等に評価することに注意すべき
1.各休暇の定義
看護等休暇とは、小学校3年生修了前の子を養育する労働者が、負傷し、または疾病にかかった子の世話や疾病の予防を図るために予防接種または健康診断を受けさせる場合、感染症に伴う学級閉鎖等の場合の子の世話、入園・入学式、卒園式に出席する場合に会社に請求することで1年度に5日(小学校3年生修了前の子が2人以上いる場合は10日)取得できる休暇です(育児・介護休業法16条の2、同法施行規則32条)。
生理休暇とは、生理日の就業が著しく困難な女性が請求することにより取得することができる休暇をいいます(労働基準法〔以下、労基法〕68条)。
生理期間の長さや、その間の苦痛の程度あるいは就労の難易は各人によって異なるものであることから、生理休暇の日数の客観的な一般基準は定められないとされており、生理日の就業が著しく困難な場合である限りは、取得日数に制限はありません(昭23. 5. 5 基発682、昭63. 3.14 基発150・婦発47)。
2.「不利益取扱いの禁止」とは
[1]看護等休暇
育児・介護休業法16条の4が準用する同法16条により、看護等休暇を取得したことを理由とした不利益取り扱いを行うことは禁止されています。
看護等休暇を取得したことを理由とする不利益取り扱いの例として、①減給をし、または賞与等において不利益な算定を行うこと、②昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと等が挙げられています(「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」平21.12.28 厚労告509、最終改正:令 6. 9.11 厚労告287。以下、指針)。
貴社の人事評価がどのような制度となっているかは、ご質問からは明らかではありませんが、通常、賃金と紐(ひも)づいた制度設計を行っている会社がほとんどであると思われますので、人事評価を下げる場合には、賃金の減給をし、または賞与等において不利益な算定をすること、あるいは昇給の人事考課において不利益な評価を行うことになると考えられます。
この点、指針では、①について、「労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして取り扱うこと」は不利益取り扱いに該当しないとされ、②については、「労務の不提供が生じていないにもかかわらず、育児休業等の申出等をしたことのみをもって、当該育児休業等の申出等をしていない者よりも不利に評価すること」が不利益取り扱いに該当するとされていることと併せ考えると、労務の不提供が生じており、かつ、労務を提供している部分について他の労働者よりも不利に評価するものではない場合、不利益取り扱いには該当しないでしょう。
[2]生理休暇
生理休暇を取得したことを理由として不利益に取り扱うことを禁止する法令の規定はありませんが、生理日の休暇を欠勤扱いとする制度について、権利の行使を抑制し、ひいては労基法が労働者に生理休暇を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるときには、当該制度は、公序に反するものとして無効となるとした判例(日本シェーリング事件 最高裁一小 平元.12.14判決 労判553号16ページ)があります。この判例からすると、生理休暇の取得者に対して人事評価を下げる場合も、権利の行使を抑制し、ひいては労基法が労働者に生理休暇を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるときは、公序に反するものとして無効になると考えられます。
もっとも、生理休暇と看護等休暇は法律に定められた休暇という点で共通していることからすると、看護等休暇に対する会社の対応において不利益取り扱いに当たらず、育児・介護休業法上問題のない行為であれば、生理休暇について同様の行為をしたとしても、生理休暇を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められないと考えられますので、少なくとも、当該生理休暇に対する取り扱いは無効とならないと思われます。
3.具体的検討
上記のとおり、看護等休暇に際する不利益取り扱いに該当せず、育児・介護休業法上も問題のない取り扱いであれば、生理休暇に関しても無効とならないと考えられますので、ご質問のケースの検討に当たっては、看護等休暇と生理休暇を区別せずに検討を行うこととします。
ご質問の社員は、看護等休暇や生理休暇を取得することにより、取得期間に業務が行われず、その結果、成果が出ていないとのことですので、そのことを考慮して人事評価を下げることは、「労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして取り扱う」ものといえます。したがって、当該社員の評価につき、当該社員と同程度の有給休暇の取得や欠勤等による労務の不提供により仕事の成果が出ていない社員と比較して不利に評価するものではない場合は、不利益取り扱いに該当しないと考えられます。
しかし、比較対象の社員が当該社員と同じ業務を担当する者であれば、不利に評価するものかどうかは定量的に比較できますので判断しやすいですが、実際には当該社員と同じ業務を担当しない社員と比較して不利に評価していないかが問題となると想定されます。
そのため、貴社においては、看護等休暇や生理休暇の取得日数に着目するのではなく、実際に提供された労務の内容に着目して評価制度を厳格に運用し、当該社員を含めた全社員を平等に評価することが肝要といえます。
以上
(労務行政研究所「労政時報」4080号106頁掲載「相談室Q&A」(近藤佑輝)を一部加筆補正の上で転載)

