「労働者供給」というものが禁止されていると聞きましたが、労働者供給とはどのようなものでしょうか。また、どのような場合に労働者供給に気を付けなければならないのでしょうか。
労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣に該当するものを含まないものを指す。また、労働者供給は偽装請負等の場合に注意する必要がある。
1 労働者供給とは
労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣に該当するものを含まないものをいいます(職業安定法4条8項)。具体的には、①供給元と供給される労働者との間に支配従属関係(雇用関係を除く)があり、供給元と供給先との供給契約に基づき労働者が供給され、供給先は供給契約に基づき労働者を自らの指揮命令(雇用関係を含む)の下に労働に従事させるケース、または②供給元と供給される労働者との間に雇用関係があり、供給元と供給先との供給契約に基づき労働者が供給され、供給先は供給契約に基づき労働者を雇用関係の下に労働に従事させるケースがあります(厚生労働省「労働者供給事業業務取扱要領〔令和6年4月〕」1頁 )。
そして、職業安定法44条は、「何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。」と定めており、労働者供給事業は原則禁止されています(なお、「次条に規定する場合」とは、労働組合等が厚生労働大臣の許可を得て無料の労働者供給事業を行う場合を指します)。「労働者供給事業」とは、労働者供給を業として行うこといい、「業として行う」とは、一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に遂行することをいいます(前掲「労働者供給事業業務取扱要領」7頁)。労働者供給事業が原則禁止されているのは 、強制労働や中間搾取の弊害が生じるおそれがあり、労働者の基本的権利を侵害し、労働の民主化を阻害するおそれが大きいためです(前掲「労働者供給事業業務取扱要領」8頁)。
職業安定法44条に違反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります(職業安定法64条10号)。労働者供給を行った側だけではなく、労働者供給を受けた側も罰則の対象となりますので注意してください。
2 在籍出向との違い
労働者供給と似たものに、在籍出向があります。在籍出向とは、出向元の従業員の地位を保持したまま、出向先の従業員となって出向先の業務に従事させる人事異動であり(菅野和夫・山川隆一「労働法第13版」〔弘文堂〕691頁)、出向元及び出向先双方との間に雇用契約関係があることが特徴です。
在籍出向は、その形態が労働者供給に該当するものの、「通常、①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する、②経営指導、技術指導の実施、③職業能力開発の一環として行う、④企業グループ内の人事交流の一環として行う等の目的を有しており、出向が行為として形式的に繰り返し行われたとしても、社会通念上業として行われていると判断し得るものは少ない」(厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領 〔令和7年1月〕」10頁)ため、労働者供給事業に該当することは少ないと考えられています。
3 労働者派遣との違い
もう1つ、労働者供給と似たものに、労働者派遣があります。労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」をいいます(労働者派遣法2条1号)。
労働者派遣と労働者供給の区別について、供給元と労働者との間に雇用契約関係がないものは労働者供給、また、供給元と労働者との間に雇用契約関係がある場合でも、労働者と供給先との間に雇用契約がない場合には労働者派遣、雇用契約がある場合には労働者供給 と区別されています(前掲「労働者派遣事業関係業務取扱要領」11頁)。ただし、「供給元と労働者との間に雇用契約関係があり、当該雇用関係の下に、他人の指揮命令を受けて労働に従事させる場合において、労働者の自由な意思に基づいて結果として供給先と直接雇用契約が締結されたとしても、これは前もって供給元が供給先に労働者を雇用させる旨の契約があった訳ではないため、労働者派遣に該当」します(前掲「労働者派遣事業関係業務取扱要領」11頁)。
4 労働者供給が問題になり得る場面
労働者供給の該当性が問題になり得る場面としては、例えば、業務委託契約や請負契約があります。業務委託契約や請負契約は、本来、受注者(ここでは企業を想定します)の労働者は受注者の指揮命令下にありますが、発注者が受注者の労働者に対して直接指揮命令を行う等すると、労働者派遣又は労働者供給に該当する可能性が出てきます(いわゆる「偽装請負」の問題)。偽装請負の問題を避けるためには、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準 (37号告示)」に従い、受注者自らが受注者の社員に対する業務の遂行方法に関する指示を行う、労務管理を行う等が必要ですので、注意してください。
また、派遣先が派遣元から労働者派遣を受けた労働者をさらに業として派遣する、いわゆる「二重派遣」も、派遣先は当該労働者を雇用していないため、労働者供給事業に該当すると考えられています(前掲「労働者供給事業業務取扱要領」2頁)。
以上