近年、カスタマーハラスメントが社会問題になっていると聞きます。当社でも、過去に何度か顧客から当社従業員への不当な言動について相談があったこともあり、改めてカスタマーハラスメントについての対策をしたいと考えています。具体的には、どのような対策をすれば良いでしょうか。
1 カスタマーハラスメントとは・近時の動向
⑴ はじめに
近年、顧客等から会社従業員に対する著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント、以下「カスハラ」)について活発な検討が行われています。カスハラは、顧客が従業員に対して不当な要求をしても、従業員は立場上明確に拒否することを躊躇する場合や、行為者が顧客等であるため、被害にあった従業員が上司に相談しても、上司の現場判断で「お客様を優先して(不当な)要求に応じて」などと不適切な指示してしまう場合があるなど、特有の問題を抱えています。企業としては、事前の防止対策・事後の対応体制の構築など、適切な対応が求められます。以下、詳述します。
⑵ 企業におけるカスハラに関する相談件数、カスハラへの対応体制の現状
「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(令和5年度厚生労働省委託事業)」によれば、過去3年間における各ハラスメントの相談件数の増減について、以下のとおり、「顧客等からの著しい迷惑行為」のみ、「過去3年間に相談件数が増加している」の割合の方が「過去3年間に相談件数は減少している」より高いという結果でした。
また、当該調査によれば、企業における各ハラスメントに関する雇用管理上の措置の実施状況について、パワハラについては全体で95.2%、セクハラについては全体で92.7%が、勤務先が取り組んでいると回答する一方で、カスハラについての同回答は全体で64.5%にとどまりました。
以上の調査結果からすると、カスハラについては従業員から企業への被害相談が続いている一方で、企業における対策は、パワハラやセクハラに比べるとなお課題があると言えます。
⑶ カスハラに関する近時の行政の動き
カスハラに関する近時の動向として、以下が挙げられます。
・令和4年2月 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」策定
・令和5年9月1日 「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ことが追加(基発0901第2号)
・令和6年10月 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例制定(施行日令和7年4月1日)
※ カスハラを「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義(第2条5号)
※ 事業者の義務(努力義務)を規定(第9条、第14条1項)
2 カスハラに関する企業の責任、求められる対応
カスハラは、通常、顧客等の社外の人間が加害者として想定されますが、会社がその対策を怠ったり、不適切な対応をしたりした場合には、会社は従業員に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
企業がカスハラに関して行うべき取り組みや配慮としては、主に以下が挙げられます(厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」参照)。
・被害にあった従業員からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(例:相談先の設置・周知、相談先が実際に適切な対応ができるようにしておくこと)
・被害にあった従業員への配慮のための取り組み
(例:被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合にも一人で対応させない等の取り組み)
・カスハラ被害を防止するための取り組み
(例:マニュアル作成や研修実施)
各社において具体的に対策内容を検討する際には、その業種や就業環境、(もしあれば)これまでのカスハラ被害の内容や頻度等を考慮し、どのような施策であれば、実際にその会社においてカスハラを防止でき、仮にカスハラが起こった際にも会社として適切に把握できるか、という観点で行うと、より効果的な対策を講じられるだろうと考えます。
マニュアル等を制定する場合には、具体的にどのような言動がカスハラに該当するか例示することや、会社としてカスハラには適切に取り組むことを明示すること等も、従業員がカスハラについて会社に相談するハードルを下げることに効果的と考えられます。
また、制度やマニュアルを設けた後にも、新たな態様のカスハラ被害が生じていないか、既存の制度について従業員が使いづらいと感じている部分はないか等を確認し、見直しに取り組むことも重要といえます。
※ 補足:各業種におけるカスハラ対策の具体例
・大手コンビニ会社:店舗従業員の名札について、実名の頭文字や任意のアルファベット表記を認める
・大手運送会社:カスハラ対応マニュアルを作成し、①「カスハラ発言」「カスハラの可能性のある発言」それぞれの発言の具体例と対応フロー、②管理者に電話を替わる際の具体的なフレーズ等を記載
・大手百貨店:カスハラに対する対応方針に、カスハラと会社が判断した際には対応を打ち切り、以降の来店を拒否する場合があることを明記
以上