メンタル不調により休職している社員が、休職期間中に副業を行っていることが発覚しました。どのように対処すべきでしょうか。なお、当社では特に副業を禁止しているわけではありません。

1 休職中の療養専念義務

休職とは、ある従業員について労務に従事させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除することまたは禁止すること、と定義されています(菅野和夫・山川隆一『労働法 第13版』699頁〈弘文堂、2024年〉)。
これは各社が独自に定める制度であり、法的な制度ではありませんが、ご相談のようないわゆる私傷病休職制度の趣旨は、休職期間中は解雇を猶予し、療養に専念させることといえます。そのため、労働者には、休職中はかかる趣旨に反しないよう療養に専念する義務がある、と一般に考えられています(マガジンハウス事件・東京地判平成20年3月10日 労経速2000号26頁)においても、「療養専念義務という法的義務が観念し得るかは別としても」との留保がありながらも、療養の趣旨に反する行動をとった労働者に対する解雇が有効とされています)。
したがって、会社としては、休職中の社員が療養に専念していない場合には、それに対して、懲戒処分を行う、復職させる等の適切な対処を取ることが求められます。

2 休職中の副業が「療養に専念していない」といえるか

外傷による私傷病休職である場合、外傷の部位と副業の内容から、療養に影響があるものかどうかの判断は比較的容易ですが、メンタル不調の場合、副業が療養に与える影響の良し悪しは定かではありません。
メンタル不調の場合、趣味に興じることが療養に資することもあると一般的に考えられており、上記裁判例においても、メンタル不調によって休職中の労働者がオートバイで外出したり、ゲームセンターや場外馬券売場に出かけたりしていたこと等について、結論として、「特段問題視することはできない」とされています。そうすると、例えば、オートバイが好きな労働者がオートバイによる配達業務を行うこと、電子工作が好きな労働者が電子部品の組み立て業務を行うこと等、趣味の延長線上の副業を行うことによって、メンタル不調の療養に良い影響があることも考えられます。
また、職業は、「各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有する」とされており(薬事法違憲判決・最大判昭和50年4月30日 判時777号8頁)、労働は単に金銭を獲得する手段にとどまらず、人格的な価値をも有するものとされています。そうすると、療養の趣旨に反しないような軽作業を行っている場合にも、メンタル不調の療養に資するケースはあり得るといえます。
そのため、休職中の副業により労働者が「療養に専念していない」か否かの判断は、従事している副業の内容次第であると考えられます。

3 具体的な会社の対応

副業に従事しているということは、復職可能な程度まで傷病が治癒したのではないか、との疑問が生じますので、副業の事実を踏まえて主治医の診断書を提出させる、産業医面談を行う等により、復職可能か否かを検討することが第一と考えられます。ここで復職可能と判断された場合は、復職させることになります。
復職可能な状態ではなかった場合、副業が療養に資するものなのか否かを判断する必要がありますので(後述の懲戒処分を検討するためにも、復職可能と判断された場合も副業が療養に資するものであったかは検討しておくことが有益です)、会社としては、副業の業務内容、副業が休職中の社員に与える負荷の程度、副業に従事する時間等を把握することが必要と考えられます。
上記のように休職中の社員が行っている副業の内容が確認できた場合、産業医面談をしつつ、産業医や当該社員の同意を得た上で主治医の見解を聞く等により、それが療養に資するものなのかどうかについて医学的な見解を確認することが良いと考えます。
療養に資するものではない場合は、直ちに副業を辞め、療養に資するように指導することになります。そのうえで、解雇を猶予し、療養に専念させるという私傷病休職の制度趣旨に反して療養を行わず、制度を悪用しているといえること、それにより少なからず同僚の業務負荷を増大させていると評価できることから、当該行為は企業秩序を乱すものであるとして、場合によっては懲戒処分を行っても良いと考えられます。
懲戒処分を行う場合、相当性の観点から、基本的には軽度の処分に留めるべきですが、例えば、副業というレベルにとどまらず、自営業を営む等、他の従業員から見て奇異と思われるような態様であった場合には、懲戒解雇も視野に入れることは可能であると考えられます(ジャムコ立川工場事件・東京地裁八王子支部判平成17年3月16日 労判893号65頁)。

以上