当社には、現在、数度の更新を経て継続して雇用契約関係にあり、その通算の契約期間が5年を超えようとしている有期雇用の契約社員がいるのですが、無期転換申込みが行われた場合の労働条件はどうなりますか。無期雇用に転換し、定年の定めの記載のある正社員就業規則が適用されるのでしょうか。

別段の定めが無い限り、契約期間を除くその他の労働条件はそれまでと同一。就業規則の定め方によって、定年の定めの記載のある正社員就業規則の適用の有無が分かれる。

1.無期転換申込み制度の概要

⑴ はじめに

同制度は、「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」(労働契約法18条1項前段)というものであり、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図るために整備された制度です(平成24年8月10日基発0810第2号 都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)。

⑵ そして、労働契約法で定める要件を充足する形で無期転換申込みが行われた場合、「当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。」(労働契約法18条1項後段)との規定のとおり、「別段の定め」が無い限り、契約期間を除くその他の労働条件は同一のままとなります。

 

2.就業規則の適用について

⑴ 前記「別段の定め」は、「労働協約、就業規則及び個々の労働契約(無期労働契約への転換に当たり従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期契約労働者と使用者との間の個別の合意)」(前掲通知)をいいますが、無期転換申込みが行われた場合、その労働者に対し正社員就業規則が適用されるかというと、当然には適用されません。

すなわち、有期雇用から無期雇用に転換した労働者に正社員就業規則の適用があるかについては「適用対象に関する正社員就業規則の趣旨いかんによる」(菅野和夫『労働法』第12版・328頁)とされ、場合によっては正社員就業規則は適用されず、同規則で定める「定年の定め」等も適用されない可能性があります。

⑵ では、どのような場合に正社員就業規則が適用されるのでしょうか。

この点、正社員就業規則にて適用対象者として無期転換労働者が明記されている場合には適用されるものと考えられます。そのほか、例えば、「当該企業の社員区分が有期雇用労働者と無期雇用労働者に大別されていて、就業規則がそれぞれに分けて規定されている(無期雇用労働者就業規則が正社員と無期契約の非正社員の双方に適用がある)という場合には、無期雇用労働者となった以上、無期雇用労働者就業規則の適用下に入るのが当該就業規則の趣旨に合致するので、無期雇用労働者就業規則の全体が別段の定めとして無期転換した労働者に適用され」、「就業規則が正社員就業規則、契約社員就業規則、パート社員就業規則などの社員区分ごとに作成されており、契約社員ないしパート社員である有期雇用労働者が本条(筆者注:無期転換申込み制度)によって社員区分はそのままとして契約形態だけ有期から無期へと変化したという場合、正社員就業規則は全体的に正社員の労働条件制度(賞与・退職金制度、休暇制度、広範な配転命令権、残業命令権、等々)を定めたものであって、無期契約化したとはいえ契約社員ないしパート社員にとどまる労働者の労働条件は従来通り契約社員就業規則やパート社員就業規則により続けることとなる」(前掲・菅野和夫『労働法』第12版・328頁)とされ、社員区分に係る従前の労働者の取扱いを踏まえて、正社員就業規則の適用の可否が判断されると考えられます。

したがって、ご質問の有期契約社員に、無期雇用転換後、正社員就業規則が適用されるか否かは、貴社の就業規則の定め方等によることとなりますので、無期転換した場合でも引き続き従前の契約社員就業規則やパート社員就業規則等がそのまま適用される可能性があります。

そして、通常、契約社員就業規則は、契約期間ごとに契約関係が終了するという前提で作成され、「定年の定め」といった規定は設けられていないことが多いことを踏まえると、無期転換申込みをした契約社員に対して引き続き契約社員就業規則等が適用された場合、定年による退職の制度を利用することができない場合が生じます。

3.対応について

会社としては、適用される規則や規定が明確となるよう、また、正社員と無期転換労働者の役割の違い等を考慮し、あらかじめ、無期転換申込みを行った社員を対象とする無期転換労働者就業規則等を定め、同規則中にて定年の定め等を規定しておくといった対応をとることが肝要と考えます。

以上