当社は、近時の副業解禁の流れを受け、この度、副業を原則届出制として解禁しました。そうしたところ、従業員からは、終業後や休日を活用してフリーランスとして活動したいといった届出が多くなされるようになりました。フリーランスとしての副業を認めている企業として、労務管理上、留意すべき点を教えてください。
安全配慮義務の観点から、副業の稼働時間を把握し、場合によっては、副業の一時的な制限や本業での時間外労働の制限などの配慮をすることが望ましい。加えて、営業秘密の漏洩、自社利益の侵害、自社の名誉・信用等の毀損がないよう、一定の禁止又は制限に服させることも肝要。
1 はじめに
政府は、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日 働き方改革実現会議決定)を踏まえ、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(本稿作成時点で令和4年7月8日改訂版。以下「ガイドライン」といいます。)を策定するなど、現在、副業・兼業(以下「副業」とのみ記載します。)の普及促進を図っています。
いまだ副業慎重な企業は少なくありませんが、このような政府の取り組みのもと、副業を解禁する大企業も一部出てくるなど、副業解禁の流れは、徐々に広まりつつあるといえます。
2 労働時間管理
副業解禁に際し主として課題となるのは、従業員の労働時間管理です。
労働基準法38条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定し、この「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合をも含むと解されています(昭和23年5月14日基発第769号)。
したがって、従業員が、本業と副業において、労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者に該当する場合には、それらの複数の事業場における労働時間が通算されるため、企業は、副業を解禁した場合、従業員の副業先での労働時間も把握し、適正な労働時間管理を行う必要があります(詳細はガイドライン参照。)。
もっとも、フリーランスについては原則として労働基準法が適用されない結果、上記の労働時間の通算はされないと解されています(「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」令和2年9月1日基発0901第3号)。
そのため、フリーランスとしての副業を認める限りでは、企業は、当該副業に関し、労働基準法の観点からの労働時間管理は法的には必要ないと考えられます。
3 健康管理
しかしながら、上記の労働時間管理が必要でないとしても、当該従業員の健康には配慮が必要です。
企業は、届出制の下で副業を認める以上、当該従業員が本業以外の場で一定の稼働をしている事実を認識することとなります。そうすると、当該従業員が、副業において長時間の稼働があり、本業での労働時間と副業での稼働時間を合計して過労となり、結果として、脳・心臓疾患や精神疾患を発症した場合には、企業が安全配慮義務違反を問われる可能性は否定できないと考えられます。この点は、ガイドラインも、「使用者が、労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何らの配慮をしないまま、労働者の健康に支障が生ずるに至った場合等」には安全配慮義務が問題となり得る旨を指摘しています。
実際の紛争例としても、フリーランスの事案ではなく、請求自体は否定されたものの、副業により長時間労働となったとして、本業の会社の安全配慮義務違反が争われた例として、大器キャリアキャスティングほか1社事件(大阪地判令和3年10月28日 労判1257号17頁)があります。
したがって、従業員の副業の形態がフリーランスであっても、企業としては、当該副業の稼働時間を把握し、場合によっては、副業の一時的な制限や本業での時間外労働の制限などの配慮をすることが望ましいといえます(ガイドラインも「過労等により業務に支障を来さないようにする観点から、その者からの申告等により就業時間を把握すること等を通じて、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましい」と指摘しています。)。
現に、前掲大器キャリアキャスティングほか1社事件でも、被告会社が原告労働者に対し労働契約上の問題があることを指摘し、また、原告自身の体調を考慮して休んでほしい旨の注意をした上、副業先での就労を確実に辞める旨の約束を取り付けていることが、安全配慮義務違反を否定する事情の1つとされています。
4 その他
以上、フリーランスとしての副業を認める場合の特有の留意点について述べましたが、一般に副業を認める場合、①(本業での)労務提供上の支障、②業務上の秘密の漏洩、③競業による自社利益の侵害、④自社の名誉や信用の毀損や信頼関係破壊がリスクとして挙げられます。
フリーランスとしての副業を認める場合でもこの点は同じであり、企業としては、上記①~④のリスクが想定される場合には副業を禁止又は制限することができるよう、就業規則や届出書等において、かかる禁止又は制限の根拠を明記しておくことが肝要といえます。
以上
(3については近日改訂予定)