当社のある社員を解雇したところ、「解雇に納得できない。」、「弁護士や労働組合にも相談している。」と言われました。今後どのような事態になることが想定されるでしょうか。

労働者が解雇の効力を争う場合、大きく分けると弁護士に依頼する場合、労働組合に加入する場合、労働者が自ら対応する場合があります。以下に、主に想定される事態を記載しています。

1 弁護士に依頼する場合

(1)交渉

裁判手続きを利用すると時間がかかるため、早期解決を目指すのであれば、労働者から会社に対して交渉を持ち掛けることがあります。この場合、労働者の代理人となった弁護士から会社に、解雇は無効である旨の内容証明郵便が送付されることが多いと思われます。

また、会社から解雇予告がされ、退職日まである程度時間があり、退職日までに解雇の撤回を求める場合も、同様に、解雇は無効である旨の内容証明郵便が送付されることが多いと思われます。

(2)裁判手続き

①仮処分

労働者が解雇された場合、収入がなくなりますので、通常訴訟に先立って、仮処分を申し立てて、労働契約上の権利を有する地位を仮に定めることや賃金を仮払いすることを求めることがあります。仮処分申立事件の場合、債務者の審尋が原則必要ですので(民事保全法23条4項)、仮処分命令の前に、労働者の代理人から債務者である会社に、仮処分の申立書等が届きます。なお、仮処分命令が認められるためには、保全の必要性も必要ですので、解雇が無効である場合でも仮処分命令が認められない可能性はあります。

②通常訴訟

労働者が復職などを求めて、労働契約上の地位があることの確認及び解雇後の賃金支払いの訴えを提起することがあります。訴訟が提起された場合、裁判所から会社に訴状等が送達されますのでご注意ください。

③労働審判

労働審判は非公開の手続で、原則3回以内で終了するものです。早期解決を目指しているものの①の交渉が決裂した場合には、労働者が労働審判を申し立てることもあります。この場合も、裁判所から会社に申立書等が送達されます。労働審判では調停による解決(多くは退職と引き替えに金銭支払いを伴う解決)を試みますが、調停が成立しなければ多くは審判がなされ、審判に対して当事者が異議申立てをすれば通常訴訟へ移行します。そのため、会社が復職を認める可能性が低い状況で労働者が復職にこだわるのであれば、労働審判よりも最初から通常訴訟を選択することが多いと思われます。

 

2 労働組合に加入する場合

最近は労働者が社外の労働組合に駆け込むことも多く、具体的には労働組合から会社に対し、当該労働者が組合に加入したこと及び団体交渉を求める旨の書面が届きます。労働組合対応は個別の事情にもよりますが、労働組合からの書面には、比較的時間的余裕のない回答期限が設定されており、かつ、団体交渉ともなりますと組合からの質問に対して的確に回答することが必要で、その準備のためにも、まずは回答期限の猶予を求める旨の書面を出すことが多いと思われます。

 

3 労働者が自ら対応する場合

①労働局からの助言・指導

個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律4条1項では、都道府県労働局長は、個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができると定められています。具体的には、労働者が労働局に相談し、労働局から会社に電話や書面で連絡がなされる場合が多いです。なお、労働局からの助言・指導には強制力はありません。

手続きの流れについては厚生労働省のホームページもご参照ください。

②あっせん

個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律5条1項では、紛争調停委員会によるあっせんも定められています。具体的には労働者が労働局に対してあっせんを申請し、労働局から会社にあっせんの申請書などが送付されます。あっせんの場合、会社の参加は任意ですが、原則1回で終了するため、早期解決のために会社の担当者が参加することもあります。

手続きの流れについては上記の厚生労働省のホームページもご参照ください。

 

4 終わりに

各々の方法にメリット・デメリットがあるため、労働者側がどのような方法をとるかは予想しがたい部分もあります。

また、2022年5月現在、解雇が無効である場合にも金銭によって解決する制度が検討されています(厚生労働省の「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会報告書」参照。)。法的構成や解決金の金額など様々な課題があるようですが、今後の解雇の紛争において影響が予想されます。

以上