【海外拠点No.8 オランダ東インド会社の盛衰】
VOC(Verenigde Oost-Indische Compagnie)と言えば、オランダ東インド会社です。株式会社の形態を取った法人ですが、実態は植民地経営を委ねられた勅許会社(Chartered Company)で、植民地の経済的支配を行うことを目的として設立されました。貿易に関する独占権をはじめ、数々の特権を与えられていましたが、経営リスクの大きさからすると、当然だったのでしょう。
設立は1602年ですから、イギリスの東インド会社に遅れること2年、ほぼ同時期と考えていいでしょう。
オランダ東インド会社は、大航海時代までの「逐次清算型」の法人ではなく、「継続型」の法人の嚆矢でもありました。加えて、一般株主からの出資を募ったことから、世界初の株式会社とも言われています。
その特徴は、株主の「有限責任」方式にありました。これは中世に、イタリア(当時は、いくつかの共和国、公国に分かれていました。)で出資者を募った際に、同族や友人を出資者の中核とした事実上の「無限責任」方式であったことからすると、大きく様変わりしました。
「有限責任」方式としたことにより、出資者は、最悪の場合でも、出資額全額を失うことが損失額の上限で、これ以上の金銭的債務は生じません。現代のイメージで申しますと、「買った株が、倒産で紙切れになった。」と言うようなものです。このことにより大きな出資額を募りやすくなったと言われます。
法人の管理にあたっては、所有と経営の分離の初期段階にありましたが、株主への事業成果の報告の為にも、複式簿記の体裁を整えました。これも、オランダ東インド会社が、近代法人形態の萌芽であったとされる理由でしょう。
オランダ東インド会社は、1799年までの約200年にわたって、隆盛を極めました。衰退の直接の原因は英蘭戦争の敗北で国力を消耗し、取引の新たな流れに追随できなかったことが直接の原因でしょう。
ですが、最近読んだ書籍で、次の3点の指摘を発見し、現代への教訓を汲み取ることが出来ると感じました。
- 会計に複式簿記を取り入れていたとはいえ、未成熟で、商品別の儲けなどは全く分からない状況でした。また、株主に対して適切な経営報告が行われていたとは言い難い状況でもあったようです。
- 株主への配当を気前よく続けた結果、内部留保は大幅に不足し、結果的に過大な借り入れで凌いでいました。大きすぎる借入は、企業経営の負担になることは、ご承知の通りです。
- 不正に対するチェック機能の脆弱さも、「継続型」法人の特徴として、表に出るのが遅かった遠因のようです。言い換えれば、「逐次清算型」であれば、不正や不適切な会計があれば、直ちに清算時に明らかになりますが、「継続型」であったことから、表面化するのが遅れたとされています。
東インド会社の三つの教訓を、現代風に読みかえると、以下のようになりましょう。
まず、進出の「目的」を社内で共有することです。海外進出の目的は、万古不変のものではありません。寧ろ、時代を追って変容するのが普通です。大切なことは、変容したとしてもその目的を社内で共有することです。
そうすれば、「その海外拠点が、目的に適う存在なのか。」と言う検証が可能になります。
そのうえで、目的のなかに「収益」があるのならば、タイムリーな収益の把握が必要です。会社の事情によって、その頻度や細かさは異なると思いますが、収益把握のためには、多少の投資、換言すると多少のコスト負担は必要です。
例えば、期中の利益の把握を、現金主義で行うとすれば、【収入-支出=収支】で表現できます。言うまでなく、収支がプラスであれば利益、マイナスであれば損失です。今ならば、表計算ソフトに入力してネットで送信すれば、遠く離れた本社でも把握できますが、何しろオランダ東インド会社の当時は、表計算ソフトもネットワーク環境もありません。
会社によっては、更に踏み込んで、部門ごとの収支を算出する必要もありましょう。部門ごとと言いましたが、地域ごと、担当者ごとなど、会社の事情によって様々な切り口が考えられます。この時、収入は分けやすいのですが、支出を分けるのは、ちょっと厄介です。支出の部門別認識は、別の機会に譲りましょう。
事業によっては、拠点を持っているだけで広報上、有益であると言うような「目的」もありましょう。これも理由であり、堂々と続ければよろしい。その時には、社内でその拠点に許される年間の最大喫損額(経費上限額)について意思決定することが大切です。
次に、体力不相応の配当を行った結果、内部留保に乏しく、借入に頼ったと言うところにも反省の種はあります。それは、親会社・関連会社からの支援です。支援することは、悪いことではありませんが、支援が「返済不要の借入」となって際限なく膨張を続けないように、年間の最大喫損額を議論する必要があります。
最後に、不正や、適切でない運営に対するチェック機能の脆弱さについても、現代にあっては当然のことで、生きている事業を継続するには、ある程度の緊張感を維持するための牽制と、監査は必須です。いずれも単発で行うのは、さほど難しくはありませんが、継続することは口で言うほど簡単ではありません。
遥か昔のオランダ東インド会社。
その盛衰から読み取るべきところは多いように思います。
これで、海外拠点シリーズは一旦終了します。
また、折に触れ、海外室のコラムで話題にして参ります。
以上