弁護士法人高井・岡芹法律事務所 労働問題、人事労務を主とする会社側・使用者側弁護士

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2019.06.01
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【海外拠点No.7 撤退の判断】

カテゴリー海外室コラム

2000年から2001年の事であったと記憶しますが、高井伸夫法律事務所(当時)の文責で、国際貿易促進協会の求めに応じて「中国における人事労務基礎講座」を連載したことがあります。その最終回の「まとめ」には、以下のように記しました。

 

〇 まとめ

最終回にあたり、中国で活躍する日系企業の経営者・幹部に円滑なそして生産性をあげる労務管理を実現すべく以下を助言したい。

第一に、安価な労働力を中国人に求めるという発想を捨て、優秀な社員を育成するという考えに立つことである。

日本のアジア進出は、コストダウンつまり価格破壊の時代に沿った製品作りの思想が中心であるが、人件費の安さを求めていけば折々拠点を移動しなければならなくなる。それでは当該地で成長し発展し続けることは難しい。社会への貢献を意識するならば、拠点に持続的に根付くことが必要である。

本格的企業活動を展開するにはレベルアップ・ランクアップを絶えず目指さなければならないが、そのためには優秀な労働力の確保という視点を忘れてはならない。中国の教育システム・内容の充実ぶりは目を見張るものがあり、中国が良質な労働力を提供する格好の地であるから、これは正に可能なのである。

それには、企業の将来を託するに足る社員、つまり運命共同体の公平な構成員を育てるという理念が必要である。金儲けだけを良しとする企業は中国社会においても淘汰される。理念だけでは食えないが、理念なくしては、人材は集まらないのである

 

〇 固定観念もたず公平な処遇が肝要

第二に、中国人労働者は働かないという固定顧念を持たないことである。もし働かない集団であるとすれば、企業の人事・労務制度、その運用に問題があると言える。どこの国においても、もちろん日本においても働かない人は多数存在している。働かない者、学ばない者、努力しない者、不誠実な者をいかに淘汰するよう努力し続けるか、そして良く働く者、誠実な者の比率をいかにして増やしていくかを工夫することが経営者の努めなのである。

世界各地に華僑が進出しリーダーシッブを取っている姿が見られるが、そこに中国人はむしろ日本人以上に働き者だという実感を得る。肝要なのは中国人だからと言って厚遇も冷遇もせず、公平な処遇を行うことにある。中国人は権利義務意識が旺盛だという話をよく聞くが、それは合理性を重んじる民族という意味でもある。それゆえに、まず公平さを求めることが肝要なのである。

孫文先生が「中国人は砂の民である」と称したことがあるが、それは団結をするのが難しい国民であるという意味である一方、個性ある国民だということでもある。換言すれば、社会に貢献しようという意欲に欠ける側面もない訳ではないが、それだけに日本人経営者・幹部は中国企業においてことさらに経営哲学・経営理念を訴え、その企業活動が社会的に意義あるものと評価されること、自分の誇りにつながることを諭し続けなければならない。

即ち、「教育に信念をもっているか、粘り強く指導できるか、従業員を公平に取り扱っているか、従業員の的外れな質問にも耳を傾ける度量があるか、そもそも中国人が好きになるように努力しているか、片言でも中国語を話すことができるか」という問いに積極的な答えを持つ日本人経営者に対しては、その熱意を中国人従業員が真摯(し)に受け取ってくれることは間違いないところである。

 

〇 働きがいのある職場作り

第三に、信賞必罰、合理的な人事管理を行い、働きがいのある職場作りに努めることである。これが、結局は企業に対する愛着心・忠誠心を醸成することにつながる。中国人労働者は働いたら働いただけ報われる職場であることを渇望しており、また自分の仕事を大切にしているのである。

第四に、中国人の考え方・生活習慣を良く知ること。場合によっては、日本と異なる方策を取ることも必要である。文化が異なるからこそ、目に見えない忠誠心でなく、計量化できる指標で人事管理・業績管理をすべきである。初めから諦めて何もしなければ、合理的な成果報酬指標の導入に消極的な企業になり、そこに残る社員は歓迎すべき人達ではない。

忘れてはならないのは、日系企業にも中国企業にもそれぞれ長所・欠点があることを直視することである。中国企業のしきたりといえども、良い所はどんどん取り入れるべきだ。日本的企業運営が最高のものとする前提にあったとしたら、企業経営はうまくいくはずはない。今までのやり方を自分なりに咀嚼(そしやく)し、自信を持って異なる方策を取る勇気を持つということである。

 

〇 企業の成否かかる経営者の人間性

第五に、日本人幹部は常に自らの行動に留意し、立派な経営者・幹部として中国人に尊敬されるように努めなければならない。

まず、挨拶を欠いてはならない。尊大な態度で中国人に対応する幹部も無きにしも非ずだが、それでは企業から排除されてしまう。さらに言えば中国、中国人に対する愛情が必要である。また、日本的しきたりに沿うように、ことさらに強要してはならない。彼ら・彼女らが何を考えているか、思っているか、感じているかに思いをいたすことに人一倍鋭敏な者でなければならない。それを無理だと感じる人は現地に派遣されるべきではない。中国人のしきたりにも理があると心すべきことが多いのである。また、中国人は日本人以上に他人を厳しく評価することも忘れてはならない。

最後に、日本人幹部はいつも日本本社ばかりを気にせず、現地法人の代表者としての立場を貫かなくてはならない。そのためにはまず、目的をはっきりさせて中国に赴任すること、つまりミッションの明確化が肝要になり、それは本社の海外での事業戦略および理念の明確化につながる。

自分のことだけを考える者はおよそ不適格で、人材を育てていき、正に、中国と日本の相互理解を深めていくべきなのである。中国人従業員が日本本社の意向に沿うことを快しとせず、利害が一致しない時こそ、組織の持つ強さ、しなやかさが表に出る。そして、知恵を出し合って難局を凌いだ組織は、逆風に強い組織になる。そうしてこそ、利害が一致しない中国人従業員との間で、日本人経営者が決断する時も、中国人従業員から一定の信頼感を得ることができるようになる。

中国において日系企業が成功するか否かは日本人経営者の資質、人間性にかかっていると言ってよい。

(高井伸夫・高井伸夫法律事務所所長・弁護士、王麗華・北京興航律師事務所・中国律師)

 

ここまでお読みくだされば、当時の高井伸夫法律事務所の考えかたをご理解いただけるように思います。そして、ここで欠けていた視点を一つだけ加えるとしたら、それは「撤退の判断」であろうと考えます。

進出があれば撤退もあることは自明ですが、いざ、その判断をするとなると、大いに戸惑うものです。

以前、タイにあって、ある米系金融会社から企業買収の打診がありました。与えられた時間は短く、東京から分野ごとの担当を派遣し、それぞれの担当が、市場調査、資産査定、経営内容、買収価格などを手分けして一斉に調査しました。

その時、驚いたことがあります。

調査チーム首席のリーダーが行ったのは、撤退の手法調査でした。聞けば、経営会議に諮るには、万一の場合の「撤退の手法」と「撤退のコスト」の提示が必要だとのことでした。当時、買収を決める前に撤退のコストを検討するとは、腰の引けた話だと思いましたが、その後、この知恵は、企業買収のみならず、合併に伴う現地法人の改廃・統合に際して大いに役に立つこととなりました。

では、撤退に至る事態とはどのようなものでしょうか。

それは「進出時の目的(狙い)が果たせなくなった」時ではないかと考えます。つまりは、それぞれの企業は、常に進出時の目的を、反芻するがごとく常に社内で共有する必要があると言うことに他なりません。目的が何であったかが、社内で共有されない企業では、判断の基準はないに等しいと言わざるを得ません。

例えば、A社の進出の目的が、中国に進出した建機メーカーに納入する部品の中国現地での製造であるとしましょう。

まず、A社は首尾よく進出を果たしました。

ここで、何らかの事情で建機メーカーが、組立の基地をインドに移転したとしましょう。A社は、部品を中国からインドに輸出するか、日本から、インドに輸出するか、或いは、インドに進出するかの選択を迫られます。

どのケースでも、中国のA社の工場からすれば、大幅な戦線縮小か、撤退を迫られることになります。この時役に立つのが、予てより調査していた撤退の手法であり、撤退のコストです。

進出の決定を行うのが、経営会議であるならば、撤退の決定もまた、経営会議で行うものと考えてよいでしょう。

付け加えるとすれば、「撤退の決定は、経営者がリーダーシップを執って行うべし。」と言うことであろうと思います。進出のような、基本的には前向きの話は、誰でも出来ます。逆に、痛みを伴う撤退の決定は、経営者自らが行うべきです。

それはどうもとお考えであるとしたら、進出そのものを再検討なさるべきではありますまいか。

以上

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