【海外拠点No.5 ルールを定めましょう】
さて、様々な決断を経て、海外拠点が誕生しました。
経営者として、海外拠点を維持・発展させたいと言うのは、当然のことだと思います。そのためには何が必要でしょうか。
それは海外拠点が準拠すべき決まりごとを制定することです。
万事は、企業規模次第であって、以下に申し上げることが、全ての企業に一律に求められるものでもなければ、決まりごとさえ定めれば、問題が解決すると言うものでもありません。
ではなぜ必要なのか。
それは、法律のない近代国家はないと言えば、ご想像頂けると思います。国家の運営が、各種の法律や条例に準拠する如く、海外拠点の運営も、依って立つ基準が必要です。
どんな決まりごとが必要なのでしょうか。
ここでは業容拡大のための営業や、円滑な工場生産のための管理は、さて置くとしましょう。すると最小限必要なことは、以下のようなことに集約されそうです。
【権限規程】
まず、権限規程です。
これは派遣された職員の長(仮に拠点長と呼びましょう)に、「何はやっても構わない」ことで、「何はやってはならない」ことかを定めるものです。
例えば、
〇 営業上の契約締結権限
〇 事務所・倉庫等の賃借権限
〇 事務的な職員採用権限
〇 物品購入権限
〇 経費支払権限
〇 その他
などが考えられます。
更に、権限を越えた際の手続きについて定める必要があります。
例えば、稟議書の形式を定めて、権限の越えた際には、必ず稟議書を提出して、本部の裁可を得ることとしてもよろしいでしょう。或いは、一定金額内や、既存顧客との契約なら、本部への報告でよいとするのも、決め方の例です。
本社は権限規定があることによって、現地専行を抑制し、現地では権限規定があることによって、専行の誹りを免れ、運営の指針を得ることが出来ます。
【人事規程】
次に、人事規程です。
これには現地従業規則や、職務書(Job Description:場合によっては職務権限書)、また人事評価に結びつくMBO(Management by Objectives:目標管理制度)、コンピテンシー(Competency:行動特性)に基づく評価体系などを含みます。
勿論、最初から完璧な制度を導入することは難しく、現実に出来る範囲から行うことによって、管理者は、皆さんの仕事ぶりを公平に見ていますよと示す効果を狙ってもよいでしょう。
就業規則や出退勤管理もこの延長線上にありますし、懲戒規程も予め検討すべきでしょう。
【海外派遣職員取扱基準】
更に、海外に赴任する職員のための規程も必要です。便宜的に、表題のように「海外派遣職員取扱基準」としましょう。
事務的な諸項目を箇条書きにします。
〇 単身赴任時・家族帯同時のそれぞれの決まり
〇 社宅取扱の決まり(家賃上限、家具付きの取り扱いなど)
〇 現地医療保険取扱いの決まり
〇 現地での医療検診の決まり
〇 帰国時の任地外検診の決まり
〇 現地での子女教育費補助の決まり
〇 赴任・帰任時の家財運送の決まり
〇 赴任・帰任時の航空等級の決まり
〇 休暇のきまり
〇 その他
【経費規程】
続いて(広義の)経費規程です。
ここは、範囲が広いので、説明を加えます。
例えば、経費支払いの年間(半年)の予算制度を採用するか否かを決めます。これと同時に、経費支払い権限(既述)を定め、予算面と金額面で抑制することも可能です。この辺りは、会社の方針に左右されるでしょう。
更に、事務所家賃、営繕費、給水光熱費、事務用品費、通信費、出張費、交通費など、実情に応じて費目を細分化することも有効です。予算超過の事態が予見されれば、本部宛の稟議を提出します。一方で、総額で縛り、各費目間の流用を金額の上限付きで認める方法もあります。
細かくなりますが、支出を整斉と行うために、以下のような補助規程も必要でしょう。
〇 出張時の日当・食費・宿泊費の決まり
〇 私用通信費の精算に関する決まり
〇 公用車の私用流用時の費用負担の決まり
〇 敷金(デポジット等)の相殺手順の決まり
〇 立替払いが生じた際の精算手順の決まり
〇 その他
【内部監査規程】
最後は緊張感維持のための内部監査規程です。
よく勘違いされますが、現地での運営を疑うのが目的ではありません。現地にあっては、多くの本部職員や、現地職員、顧客に業者など、接触は多岐に亙ります。その際の誤りを少なくするのが、「内部牽制」で、その牽制効果を確認するのが「内部監査」です。
〇 全職員の出退勤管理確認
〇 机・椅子など備品台帳と現物の突合確認
〇 PCなど情報機器台帳と現物の突合確認
〇 事務所(社宅)備品台帳と現物の突合確認
〇 蔵書台帳と現物の突合確認
〇 定例報告提出順守状況確認
〇 情報機器取扱状況確認
〇 現預金残高確認(出来ればリコンシリエーションも)
〇 その他
リコンシリエーションとは聞きなれない言葉だと思いますが、これは預金残高の一致を見るだけでなく、出入りごとに正当性を確認する作業です。事務ミス発見の手法の一つですが、完全に別口座を使われた場合には、別の対応が必要です。
備品台帳は「作成」し、在庫を「突合」することに意味があります。一見、大変なようですが、すぐに慣れます。
内部牽制の優れた組織は、結果的に不正が減少するものだとご理解ください。
ご留意いただきたいことがあります。途中から導入するのは相当な力仕事になります。それを避けるには、「完成するまでは何もしない」のではなく、「完成したものから逐次実施する」でもよいのだと割り切ることが必要です。
また、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)も、業種によっては、必須のものですが、別の機会に譲りたいと思います。
以上