【海外拠点No.4 現地従業員を採用しましょう】
〇 現地雇用職員の採用
現地に派遣する人選を完了し、本部の受け皿組織も整うと、次はいよいよ現地雇用職員を採用する段階に入ります。
呼びかたに迷うところですが、以前、アメリカ人弁護士に「national staff」と言う呼称に、差別感はないかと尋ねたところ、問題ないとの回答を得ました。一般論ですが、社内で文書化する際には、常に「ポリティカル・コレクトネス」にも配慮したいものです。
ところで、皆さんはどのようなルートで現地雇用職員を採用なさるのでしょうか。
進出された国によっては、社内幹部からの要請、行政幹部からの要請、党からの要請など、通常とは異なるルートでの採用を強いられることもありましょう。
以前、中国でお尋ねしたところ、これがプラスに作用したところと、マイナスに作用したところは、相半ばしました。一概に悪いと決めつけるわけにも行かない一方で、マイナスの指摘がある以上、心して取り掛かるべきとは言えましょう。
〇 採用時の面接
人気の大企業で初めの段階から、エントリシートで選別できるようなところや、現地職員幹部が育っており、通常の採用は、現地幹部に一任してよいような会社は別です。
一般の企業では本人が認めた身上書をもとに聴取することが多いものと思います。まずは記載内容の確認から質問が始まることが通常でしょう。
アメリカでは雇用機会均等の政策が浸透しており、面接でも、注意が必要です。
古い話で恐縮ですが、米国在勤の時期には、性別は聞くな、結婚のことは聞くな、家族のことは聞くな、聞いていいのは、仕事のスキルと、なぜこの会社に職を求めているかだ、と注意されたことを思い出します。
一般化は難しいのですが、ほかの国でも、仕事のスキル以外の質問は注意して問いかけるべきでしょう。
このように質問する内容には制約がありますが、その代わり、仕事に関する質問ならば、どのように専門的な内容でも構いません。会計の事務職員で例えるならば、「貸借対照表と損益計算書の項目」について、質問されてもいいでしょうし、「支払うべき金額を間違って多く支払いました。あなたならどうしますか。」でもいいでしょう。
〇 採用の決定以降
採用が決まれば、雇用契約書を交わします。国の制度によっては、直接の雇用契約が締結出来ないこともあるでしょう。その時は、制度の定めるところに従って、派遣会社を経由して契約を交わします。
次に、言わずもがなではありますが、以下のような事柄を説明します。
・社内規定を説明します。
・指揮命令系統を伝えます。
・仕事ぶりの査定があることを伝えます。
・懲戒など諸規程を伝えます。
固く考えなくとも、遅刻はダメ、無断欠勤はダメ、などでも構いません。きちんと伝えることが大切です。特に解雇を含む処分規定は、堂々と説明しましょう。
ここまで進んだところで、職務書(Job Description)を提示します。これが現実的な職務内容についての、雇用者側が文書で意思を示す機会です。完全なものがなければ、箇条書き程度でよいので、話を進め、後日修正が入る可能性を明示します。
これによって初めて、従業員は自分に求められている仕事の中身や、必要なスキルを文書で知ることが出来ます。
以上は、雇用のプロセスの中で、正攻法の手順を踏む場合で、実際の現場にあっては、そこまでの要求はされないかも知れません。
ただ、国によっては、このような手順が求められると言うことを理解しておくことも必要かと思います。
〇 評価体系と昇進昇級
言うまでもなく、働く以上は給与・諸手当を貰い、賞与を貰うはずです。その時に避けて通れないのが、「評価」です。代表者の一存では、持続性がなく、翌年はどのような体系で評価されるのかが、分からなければ、働く前向きの気持ちに影響が出ることでしょう。
簡単なものでも、「職務評価書」の制度作ることが第一歩です。
まず、自分で記入する自己評価を作成し、それを上司が評価し、最後に最終評価者による評価・面接と、複数の段階を経ることが大切です。これによって、従業員は自分が複数の人(上司と最終評価者)から、どのような評価を受けているかを知ることが出来、上司は、どこに満足し、どこに不足があるのかを、面接を通じて、公式に明らかにすることが出来ます。
ケースによっては、大きな緊張感を伴いますが、疑いもなく必要な手順です。仮に現地雇用職員が、弁護士の同席を求めるほどにこじれているとしたら、こちらも弁護士を呼びましょう。
忘れてはならないことは、これらの事は、海外拠点の規模にも左右されます。1,000人規模の拠点と、数名の拠点では、求められる水準は自ずと異なります。「鶏を割くに焉(いずく)んぞ牛刀を用いん」と言う通り、規模に応じた適正な管理水準にも、配慮が必要です。
以上