【海外拠点No.2 海外派遣者の人選】
さあ、海外進出を決めました。
まず、海外赴任を命じる人選について考えましょう。
前回、申し上げたように、現地語が出来ることは便利ですが、それを唯一の条件に人選を行うのは危険です。
○日本語の分かる人を送り出す。
日本語と外国語の両方を自在に操ることが出来れば、それに越したことはありません。また、社内公用語が、既に英語であるというような、数歩先を歩む会社であれば、無用の心配ですが、普通の会社であれば、本社とのやり取りは、日本語で行うことが多いはずです。
本社とのコミュニケーションが日本語であるならば、日本語が分かる人を送り出しましょう。
これにはもう一つの意味があります。
それは「本社の意図が分かる人」とういうことも含みます。
○現地語の研修は。
とは言え、何がしかの語学の習得は必要です。日本にいる間、語学学校に通って頂きましょう。赴任後も暫くの間は、現地で語学学校に通って頂くのもいいでしょう。
国内で学習するにしても、現地で学習するにしても、経費予算上の上限を設定することをお忘れなく。
大事なことがあります。
事務所で採用した職員を現地での語学の先生にしてはなりません。
指揮命令系統の乱れと、所内の規律弛緩を招きます。
どっちが先生で、どっちが生徒だか、分からなくなります。
更に、事務所職員を帯同赴任した家族の語学教師に充ててはなりません。帯同家族が、その職員を自分の使用人と勘違いするなど、公私混同を招きます。巨大な堤も蟻の一穴から崩壊します。
そんな馬鹿な、言う勿れ。
多くの事例から学んだことです。
○レジリエンスのある人を。
レジリエンスに富む人を派遣しましょう。
レジリエンスとは、耐性力、回復力が原義ですが、困難(もしくは不都合な状態)に対して、自らを適応させる能力と言う意味で使われます。海外派遣の人選の段階で、配慮すべき最大のファクターであると思います。
現地パートナーとの折衝、当局との折衝、組合との折衝など思うに任せぬことが多いものです。赴任者は、その都度、自らを修正しつつ、ことに対処する必要があります。追い込まれて、メンタル不調に陥る人もあります。
派遣した職員が、メンタル不調に陥ると、ことは重大です。つまり、レジリエンスを備えているか否かは、現地での危機管理能力そのものとも申せます。自薦他薦に惑わされることなく、レジリエンスに富む人を選任するように配慮しましょう。
○異なる文化(宗教、考え方等)に敬意を払うことの出来る人を。
あなたの目の前にいる人は、異なる歴史教育を受けて来た人かも知れません。「この人は、異なる文化に浸って来たかも知れない。」という当たり前の想像力を失わないことも大切です。
異なる文化に吸収され、言いなりになりなさいと言う意味ではありません。仕事の遂行に直接の影響のない分野では、異なる文化、或いは考え方に穏やかな敬意を払うことは可能です。
○この人しかいない。
企業規模によっては、複数の候補者を常時、備えることは困難が伴います。よく分かるのですが、せめて2,3人の候補者が必要です。
人事上の比較のベンチマークがないまま、適不適を判断するのは、実に乱暴な話です。
もし候補者が1人しかいないのであれば、海外進出の時期を遅らせてもよいくらいに大切なことです。言うまでもなく、本部では、常に次の候補者の養成を行うことが肝要です。淀んだ水は濁ります。常に次の候補者を意識して、採用と養成を心がけましょう。
人選にあたっては、駐在員の帰任後のキャリアも考える必要があることは申すまでもありません。現地法人の成長のステージに応じて駐在員に求める能力も変わります。更には、避けて通れぬ「現地化」が大きな課題となりましょう。
次回は、海外進出にあたり、「人選の次に、本社で行うべきこと」を考えましょう。