中国 一帯一路の夢
「一帯一路」とは、2014年11月に中華人民共和国で開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議で、習近平総書記が提唱した経済圏構想である。
「一帯」は、ユーラシア大陸を貫通する「シルクロード経済ベルト」であり、「一路」とは「21世紀の海上シルクロード」であることは周知のとおりであるが、陸上のシルクロード構想は、早くから江蘇省の連雲港とヨーロッパを結ぶ「ランドブリッジ構想」なるものがあり、驚くには当たらない。
それより、まず思うのは、この構想はまさしく「大ユーラシア大陸囲い込み構想」と言う見果てぬ夢を語り始めたと言う解釈が成り立つと言うことである。
海のシルクロードと言えば、明の永楽帝(在位1402-1424)が、鄭和(1371 -1434)に命じて行った大航海で、第1次(1405-1407)から第7次(1430-1433)に及んだ東南アジア・インド・中東・アフリカを結ぶ南海航路の開発であった。ヴァスコ・ダ・ガマの第1回航海(1497)に先立つこと90年、壮大な海路の構想である。様々な国内事情から、南海航路を経済的に活用することもなく、鄭和の夢は、一旦封印された。
500年を経て、ここに急浮上したのが、中国の「北極政策白書」である。北極海の開発や利用に関する基本政策をまとめたのもので、北極海を通る航路を「氷上のシルクロード」と呼び、中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」と結びつける方針を示した。思わぬところで、地球温暖化が役に立ったものである。氷の薄くなった北極海経由ならインド洋経由の従来ルートに比べて、航行時間が約3割短縮される。
中国にとって、北極海航路は、物流航路の開拓に留まらない。次は航路沿岸の資源開発であり、更に原子力潜水艦の海中配備が可能となれば、安全保障の重要なオプションを手に入れることになる。中国の関心は強いのは至極尤もである。
北極海を中心とした地図を想像願いたい。
巨視的に見れば、「一路」の海のシルクロード構想と繋ぎ合せれば、ユーラシア大陸をぐるりと大きく囲い込む形となる。更に「一帯」は大陸を通貫する。これは壮大な地球規模の構想であり、西にユーラシア大陸を我が庭とすれば、残るは東に太平洋の半分を我が海とするものであろう。なるほど100年を費やす価値を認めざるを得ない。
一方で、これを牽制する動きもある。アイスランドのグリムソン前大統領は、中国や韓国の海運大手が北極海の新航路開拓に参入していることなどを念頭に、「日本もさらに(北極圏の)開発に関わらなければならない」と述べ、日本の貢献に期待感を示した。同氏は、温暖化による海氷融解や資源開発などの諸課題を挙げ、「日本が海運業での現在の地位を保持したいならば、必ず新しい航路の開拓に関与すべきだ」と強調。また、新たにカナダやグリーンランドを経由してアジアと欧州、米国を結ぶ航路が有望だとし、「従来よりも10日間短縮できる。100年以上前にスエズ運河が開通したのと同じ効果が期待できる」と述べた。
こちらも100年単位の構想だが、日本も当事者であることに疑いの余地はない。
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(文責 海外室)