【法律トピック】日本から見た中国労働事情①「工会とは何か」東京中国室弁護士 五十嵐充
【中国法律情報】上海代表処 弁護士 安炳燁
【法律】1.「中華人民共和国出国入国管理弁法」
(全人代常委会2012年6月30日発布、2013年7月1日施行)
【法律】2.「中華人民共和国刑事訴訟法」の改正
(全人代常委会2012年3月14日発布、2013年1月1日施行)
【行政法規】1.「女性従業員労働保護特別規定」
(国務院2012年4月28日公布、同日から施行)
【行政法規】2.「対外労務協力管理条例」
(国務院2012年6月4日公布、同年8月1日施行)
【司法解釈】1.「最高人民法院売買契約紛争案件の審理における法律適用上の問題に関する解釈」
(最高人民法院2012年5月10日公布、同年7月1日施行)
【部門規章】1.「営業税から増値税への徴収変更試行方案」
(財政部、国家税務総局2011年11月16日公布、同日施行)
【部門規章】2.「外商投資産業指導目録」
(国家発展改革委員会・商務部令第12号2011年12月24日公布)
【法律トピック】
「仲裁手続で勝ったのにやり直し?仲裁条項の落とし穴」上海代表処弁護士 東城聡
【エッセイ】中国は今…~定年制延長論議~東京中国室 顧問 千葉勝茂
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【巻頭言】~ロンドン五輪、宴のあと~ 会長弁護士 高井伸夫
2008年8月8日夜8時8分に開始された北京五輪から4年後の今年、ロンドン五輪が開催された。7月27日から8月12日までの17日間、世界が一喜一憂し、興奮に湧いた日々であった。メダル獲得数は、1位米国104個(内金46個)、2位中国88個(内金38個)であるが、中国は2008年の北京五輪の100個(内金51個)に比べ12個(内金13個)少ない。日本はと言えば、史上最高の38個(内金7個)を獲得した。北京五輪2年後の2010年、中国は日本を抜き、米国に次ぐ世界第2位のGDP大国となった。然しながら、8月15日の香港活動家による沖縄県の尖閣諸島上陸事件から反日デモが拡大、8月27日には丹羽宇一郎大使を乗せた大使館公用車が襲われ、日本国旗が略奪される事件に発展した。今年は阿片戦争終結170周年でもあり大国意識の高揚が背景にある、とは訳知り顔の中国ウォッチャーの言である。日本の民間非営利団体「言論NPO」とチャイナ・デーリーが共同で行った世論調査では、日本人の中国に対する印象は、「どちらかと言えば良くない印象」を合わせると84.3%に達し、昨年の78.3%から更に増加している。一方中国でも、「良くない印象」は64.5%に達している。40年前の熱気を帯びた国交回復時の「中国への好印象」の80%強には最早比ぶべくもない。日中国交成立40周年の今年が寧ろ日中関係最悪の元年になろうとは誠に悲しい皮肉である。40年前の日中国交回復以降、日本は有償・無償援助合わせ約3.5兆円に達し、1989年の天安門事件(所謂、六四事件)に対しても、日本は天皇皇后両陛下の訪中で、世界に先駈けて制裁の解除に手を差し伸べたではなかったか。それが、今では中国世論の50.2%が数年以内の軍事紛争発生を感じているのである。
又、韓国に関しては、8月10日の韓国・李明博大統領の島根県・竹島訪問、同じく14日の天皇陛下の韓国訪問に関わる謝罪要求発言が日韓関係を決定的に毀損した事実と併せ、移転不可能な三国関係がいかにも危うい状態に在ることにもの悲しさを禁じ得ない。
【法律トピック】日本から見た中国労働事情① 工会とは何か 東京中国室弁護士 五十嵐充
平成24年1月、北京市では、工会設置率の低い外資系を含め、工会のない企業に対しても、「工会設立準備金」の名目で、従業員給与総額の2%に相当する額を北京市地方税務局へ納付することを義務付けました。
中国における「工会」とは、日本でいう「労働組合」であると一般に説明されています。
しかし、中国においては、社会主義体制の建前上、労使間の対立を前提とする労働組合はないと考えられています。むしろ、企業と協力して労使関係の問題解決を図ることも工会の重要な役割とされ、ストライキ等が発生した場合には、工会が労使の間に立ち調停役の機能を働かせることで紛争の早期収束に役立つことも期待できます。
また、工会には総経理等の管理職にも加入資格が認められていますので、工会を通じて定期的に従業員から意見を聴くなど日頃から従業員とコミュニケーションをとり、良好な関係を築いておくことが、ストライキ等の防止につながります。但し、工会の上部団体である中華全国総工会が中国共産党の一部であることも充分認識しておく必要があります。
このように中国の工会は日本における労働組合とは似て非なるものであることをしっかりと理解しておけば、僅かな誤解から思わぬ紛争となることを防ぐことができると言えます。
【中国法律情報】上海代表処 弁護士 安炳燁
【法律】1.「中華人民共和国出国入国管理弁法」(全人代常委会2012年6月30日発布、2013年7月1日施行)
経緯:現行の出入国管理関係の法律には、外国人に対する「外国人入出国管理法」及び中国公民に対する「中国公民出入国管理法」とそれぞれの実施細則があるが、制定から相当の年月が経過して、時代に合わないものとなり、外国人の増加、特に不法入国、不法就労等の問題に対処するため、新法の制定が必要とされた。そのため、公安部は2004年から草案の起草を開始し、2011年になって全人代常務委員会に採択された。
新法の概要:
・制定の目的及び適用範囲
・生体認識技術の導入
・査証制度の整備
・外国人滞在及び永住に関する規定
・不法な入国、在留及び就労への対応
・難民への対応
【法律】2.「中華人民共和国刑事訴訟法」の改正(全人代常委会2012年3月14日発布、2013年1月1日施行)
1996年の第1回改正に続く、16年ぶりの第2回目の改正である。
主要な改正内容:
・法律の規定としてははじめて「人権の尊重・保障」が追加された。
・従来司法解釈により定められた違法収集証拠排除に関するルールを刑訴法に入れた。
・勾留、居住監視については、通知不能な場合を除き24時間以内に家族に通知するものとされ、また逮捕時の家族への不通知が許容される範囲は縮小された。
・改正刑訴法では、一審、二審で死刑判決を受けた被告人に人民最高法院(最高裁)での陳述機会を与えることを明記した。
・被疑者の防御権が強化された。
【行政法規】1.「女性従業員労働保護特別規定」(国務院2012年4月28日公布、同日から施行)
本規定は、正文16条と付則4条から構成され、女子従業員の「四期」(生理期間、妊娠期間、産休期間、哺乳期間)保護、生育待遇、労働の禁忌等の内容が含まれる。1988年に「女子従業員労働保護規定」を公布した以来、初めての改定で、女子従業員に対する労働保護を明確にした。
・生育休暇の延長:90日から98日に延長。
・適用者の範囲の拡大:ほぼあらゆる組織の雇用者、及び労働法と労働契約法が適用されていない国家公務員、事業組織及び社会団体と招聘契約を締結している女子従業員をも特別規定の保護範囲内に収めた。
【行政法規】2.「対外労務協力管理条例」(国務院2012年6月4日公布、同年8月1日施行)
中国初の「対外労務協力管理条例」である本条例は、外国との労務協力を良い方向へ導き、出国労働者の安全と権益の保障に法的根拠を与えるものである。海外労務派遣企業について、その他の企業または個人が当企業の名義で海外に労務を派遣することを認めてはいけない、派遣される人のために傷害保険に加入する、手数料を徴収してはいけない、いかなる名義でも保証金や担保を徴収してはいけない等を明記した。
【司法解釈】1.「最高人民法院売買契約紛争案件の審理における法律適用上の問題に関する解釈」(最高人民法院2012年5月10日公布、同年7月1日施行)
売買契約は従来から訴訟案件中高い比例を占め、その多様・複雑性が原因で、実務上の理解と適用も各地各級法院が相違している。本解釈は主に売買契約の成立及び効力、売買目的物の交付と所有権の移転、売買目的物紛失のリスク負担、売買目的物の検査、違約責任、所有権保留、特種売買等の法律適用上の問題を明確にした。
【部門規章】1.「営業税から増値税への徴収変更試行方案」(財政部、国家税務総局2011年11月16日公布、同日施行)
本試行案によると、2012年1月1日から、まず、交通運輸業と一部の近代サービス業等の生産型サービス業において、営業税から増値税への徴収変更を試行し、徐々にその他の業種に拡大する。改革の目的は、貨物及び役務の税制における重複徴税の問題を解決し、税収制度を改善し、近代サービス業発展を支えるためである。
中国の増値税の税率区分は、「試行案」によって現行の2ランクから4ランクに変更される。具体的には、現行の増値税の標準税率17%と低税率13%を基礎として、11%と6%の2ランクの低税率が加わり、有形動産のリース等には17%、交通運輸業及び建築業等には11%、その他の一部近代サービス業には6%の税率を適用するとしている。また、「試行案」では営業税から増値税への変更の過渡期における取扱いについても定めている。
【部門規章】2.「外商投資産業指導目録」(国家発展改革委員会・商務部令第12号2011年12月24日公布)
2011年版目録は、1995年に最初に公布されて以降、2002年、2004年、2007年に引き続き4回目の改訂となる。今回の改訂では、これまで中国が積極的に海外からの投資を通じて進めてきた産業分野について、国内産業の成熟度、非効率的な生産構造及び環境への影響等を理由に従来の投資政策の一部を転換し、中国国内産業の更なる高度化を目指した内容となっている。
【草案】1.「中華人民共和国労働契約法」修正案草案
2008年1月1日から施行して以来初めの改正である。改正条項は僅か4項、主に労務派遣の規範化を焦点とした。具体的に言えば、現行法は労務派遣の可能な業務について、「通常、臨時的・補助的・代替的な業務において実施される」との規定だが、改正案は「通常」を削除し、「臨時的」は「6ヶ月未満の」、「補助的」は「主要業務ではない」、「代替的」は「正社員が学習や休暇などの事情により勤務できない」とより具体的に表現している。その他には、労務派遣会社に対して行政許可が必要となり、登録資本金も高くなり、違法行為に対する罰則も厳しく規定している。
【法律トピック】「仲裁手続で勝ったのにやり直し?仲裁条項の落とし穴」上海代表処弁護士 東城聡
(1)はじめに
あなたの会社が中国の取引先とトラブルを起こしたとします。取引先との契約書の文言通りに仲裁の手続をして、無事に請求が認められたので、いざ執行をしようとしたとき、その仲裁の判断では執行できないといわれたらどうしますか?法務担当者にとっては想像するだけで背筋が寒くなるようなこのような事態が現実に起こる可能性が、中国で生じてしまっています。
(2)仲裁手続とは
国際取引においては、一方の国の裁判所(例えば東京地裁等)で紛争を解決するのではなく、仲裁機関で紛争を解決しようという取り決めをすることが多々あります。世界でビジネスをされている皆さまであればご存知かと思いますが、この取り決めを仲裁条項といいます。仲裁条項がある当事者同士の争いは、裁判所ではなく仲裁機関で白黒を決めて、その判断に従って相手の財産に強制執行ができるようになります。
(3)中国で起きている事態
しかし現在中国では、契約書の文言通りに仲裁手続をして、無事に請求が認められたので、いざ執行をしようとしたとき、その仲裁の判断では執行できないといわれてしまうような異常な事態が生じています。
2012年8月1日、中国国際経済貿易仲裁委員会(http://www.cietac.org/index.cms)は、下部組織の同委員会上海分会及び華南分会に対し、仲裁を受領し業務を行う権利を停止しました。
このような事態が生じた理由は同委員会本部が制定した新しい仲裁規則(仲裁に関するルール)を巡る本部と上海分会・華南分会との対立に起因すると言われています。
この権限の停止により、同委員会上海又は華南分会において仲裁を行っても、当該仲裁に基づいて執行を行うことができないリスクが高くなっています。形式的には、上記の権限の停止によって同分会らに仲裁に関する権限が与えられていると解するのが困難だからです(この点、同分会らはHP(http://www.cietac-sh.org/)で反論しています。)。
一方、上海又は華南地区における契約書の多くでは、「仲裁を中国国際経済貿易仲裁委員会上海分会において、同会の規則に基づいて行う」といった趣旨の記載がよくされています。このような記載があると形式的には強制執行などの効力が認められない恐れのある同分会でしか紛争解決のための手続を行えないとも解されるため問題となります。
実務上は、恐らく上海分会及び華南分会の仲裁判断で執行をしないという極論にはならないだろうという考え方が主流ですが、法的な原則論でいえば上海分会及び華南分会の仲裁判断では執行ができないという考え方も十分に成り立ちえます。
(4)今後留意すべき点
今後の契約における仲裁条項においては、例えば「仲裁を中国国際経済貿易仲裁委員会において同委員会の規則に基づいて行う」としたうえで、仲裁が行われる場所を上海市など具体的な場所を指定するといった方法のほうが、上記のようなリスクを軽減して以前と同じ効果を得ることができます。またこれまでに作成した規定で実際に紛争になりそうな場合は、弊所の上海代表処にご連絡ください。適宜対応をアドバイスいたします。
今後も弊所のHP(http://www.law-pro.jp/)などで引き続きこの事態についての情報発信をしていく予定です。
【エッセイ】中国は今~定年制延長論議~東京中国室 顧問 千葉勝茂
先般、「重慶商報」紙が関連するネット局と行った定年延長の調査が話題をよんだ。現在の定年退職制度は’70年代に制定されたもので、法定定年退職年令は男性60歳、女性は50歳となっている。さて、その調査結果では、何と約96%が‘反対’との結果がでた。反対理由は「若年労働者の就職難に拍車をかけ、労働力の若返りに悪影響」が52%、「早く退職して年金を貰いたい」42%、「失業保険と最低生活保障の充実」33%等となっている。然し、政府は、養老保険のカバー率が総人口の1/4未満、つまり農村人口の3/4と都市人口の3割程度は加入していないにも拘わらず、「’13年には養老保険が1.7兆元(約22兆円)の原資不足に陥る」(復旦大学研究小組)との報道から危機感を強め、一方で人口ボーナス期の終焉を引き延ばすことの両方の目的で、社会科学院も定年制延長を提唱し始めたものである。60歳以上の老齢人口は’11年末で1.85億人、総人口約13.5億人の13.7%、現在の第12次5ヶ年計画(’11年~’15年)最終年には2.21億人、総人口の約16%に達すると見られており、人口ボーナス期の終焉延長と老齢化進行による養老年金破綻回避の二重効果が期待される定年制延長は避けて通れない課題と見られる。
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高井・岡芹法律事務所 東京事務所 問い合わせ先:椎塚
TEL:03-3230-2331 FAX:03-3230-2395
以上