【巻頭言】~中国首脳交代の行方~会長弁護士 高井伸夫

【東京春秋】アジアにおける宇宙開発について  東京中国室弁護士 五十嵐充

【最近の法令から】

(2011年12月~2012年3月)

1.「船舶頓税暫定条例」(国務院常務委)(国務院令第610号)
及び「車両船舶税法実施条例」(国務院令  611号)(2011年12月5日公布、2012年1月1日施行)

2.「放射性廃棄物安全管理条例」(国務院常務委)(国務院令612号)
(2011年12月20日公布、2012年3月1日施行)

3.「入札応札法実施条例」(国務院常務委)(国務院令第613号)
(2011年12月20日公布、2012年2月1日施行)

4.「宝籤管理条例実施細則」(財政部、民生部、体育総局)(2011年第67号)
(2012年1月18日公布、3月1日施行)

5.「タクシー運転者従業資格管理暫定規定」(交通運輸部)(2011年第13号)
(2011年12月26日公布、2012年4月1日施行)

6.「農業部規範性文書管理規定」(農業部)(2012年第1号)
(2012年1月12日公布、2月15日施行)

2011年度人民法院十大典型事案-中国法院網―2012年3月発表(http://www.chinacourt.org/index.shtml):6月】

【北京春秋】北京での交通事故その4  北京代表処首席代表弁護士 萩原大吾

【閑話休題】~50年前毛沢東は2012年の中国を如何に予言したか~中国室顧問 千葉勝茂

【上海春秋】上海交通小学  上海代表処首席代表弁護士 東城聡

【都市住民と農村住民人口逆転】 中国室顧問 千葉勝茂

【李茂生の日本考現学:第十四回】~虎の尾を踏む~

——————————————————————————–

中国情報は、顧問会社及び弊所のお客様に無料で配信しております。
ご質問等ございましたら、下記までご連絡下さいますようお願い申し上げます。

高井・岡芹法律事務所 
東京事務所 問い合わせ先:椎塚
TEL:03-3230-2331   FAX:03-3230-2395
お問い合わせフォームはこちら

上海代表処
TEL:021-63263726   FAX:021-63263736

【巻頭言】~中国首脳交代の行方~会長弁護士 高井伸夫

 昨年、中国は中国共産党成立90周年を祝い、胡錦涛主席は長文に亘る重要演説を170年前の鴉片戦争(=阿片戦争)以来の屈辱に満ちた歴史から説き起こし、中国共産党指導による栄光の歴史を謳い上げた。革命により築き上げた政権の正統性は、1949年10月1日、共産党成立後28年にして中華人民共和国を成立させたその時点及びその後の何代かは、銃を持って起ち上がった人々の正統性がそのまま執政権者の正統性を担保していた訳であるが、鄧小平と言う類稀な指導者の最後の指名を受けた胡錦涛主席の下台(退場)により、革命経験を持たない第5世代が大勢となった今、13億の人民を統治する権力の継承はいかなる担保により為されるのか、誠に興味深い。英国「フィナンシャルタイムズ」とこれを引用した香港「明報」を元に「中央政治局常務委員」9名の顔ぶれを列挙して見る(敬称略)。先ず、現在、副主席の習近平の主席昇格及び李克強副総理の総理昇格は動かないだろうとは衆目の一致するところである。残る7人に付いては、現副総理の王岐山、張徳江、現中央組織部長の李源潮、現中央宣伝部長の劉雲山、現上海市党委書記の兪正声、広東省党委書記の汪洋、そして、重慶市党委書記の薄熙来と言った顔触れが取沙汰されている。但し、薄熙来に付いては、重慶の’打黒’(暴力団の壊滅)に功のあった王立軍副市長を解任、同副市長の在成都米国領事館への駆け込み事件から、その眼が無くなったとし、’維穏’(安定維持)の重要性から現公安部長の孟建柱の大抜擢を予測する向きもあるようである。ともあれ、個人の血脈ではなく、(権力継承の道筋はblack boxであっても)’党’と言う組織で権力継承を行う方式は、約5000年の王朝政治の歴史を有する中国では画期的であり、これを過ぎてこそ初めて直接選挙の道筋が見えて来るのではないか。前述した胡錦涛主席の重要演説で、所得格差の元凶である「反腐敗闘争の情勢は依然として緊迫しており、任務は依然として極めて困難である」としながらも「中国共産党成立100年の時(2021年)までに高い水準の小康社会を打ち立て、新中国成立100年の時(2049年)までに調和のとれた社会主義の現代国家を築き上げること」と述べている。最初の、2021年と言えば、2013年に権力が移行する新指導部の任期の範囲内である。論語で言う「貧しきを憂えず、等しからざるを憂う」を意識したものであろうが、これは、同じく論語・泰伯の「任重而道遠」(任重くして道遠し)と言うべきか、新指導部の責任は重い。

【東京春秋】アジアにおける宇宙開発について  東京中国室弁護士 五十嵐充

 2012年2月14日、中国の宇宙開発を担う国営企業「中国宇宙科学技術集団」が今後4~5年の間、ロケットや人工衛星を平均して毎年20回打ち上げる方針を示しました。また、3月13日には、中国の国家国防科学技術工業局が、2013年に月周回衛星を打ち上げ、無人探査機の月面着陸を実施する計画を明らかにしました。前号の〈巻頭言〉でも紹介しましたように、中国は、2011年11月に宇宙ドッキングを成功させ、2020年頃を目処に有人宇宙ステーションの建設を計画するなど、宇宙開発分野における成長はめざましいものがあります。

 一方、日本は、2010年6月、小惑星探査機「はやぶさ」が、60億キロにも及ぶ長い旅を終え、小惑星「イトカワ」の微粒子を持ち帰り地球に帰還したことが話題となりましたが、宇宙開発分野に関して中国の後塵を拝しているともいえる状況にあります。そのような状況のなか、日本政府は、日本の宇宙開発利用を強化するため内閣府に「宇宙戦略室」を設置するほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)設置法も改正して民間にも技術を解放する方針を、2012年2月14日に示しました。また、同法から「平和目的に限る」という規定を削除し、国の安全保障という観点での防衛利用も可能とするそうです。

 今後ますます激しくなることが予想されるアジアの宇宙開発競争が、日本や中国を中心としたアジアの軍拡競争に転じないよう切に願います。日中共同事業としてアジアにおける宇宙開発ができないものだろうか。

【最近の法令から】

(2011年12月~2012年3月)

1.「船舶頓税暫定条例」(国務院常務委)(国務院令第610号)
及び「車両船舶税法実施条例」(国務院令  611号)(2011年12月5日公布、2012年1月1日施行)

2.「放射性廃棄物安全管理条例」(国務院常務委)(国務院令612号)
(2011年12月20日公布、2012年3月1日施行)

3.「入札応札法実施条例」(国務院常務委)(国務院令第613号)
(2011年12月20日公布、2012年2月1日施行)

4.「宝籤管理条例実施細則」(財政部、民生部、体育総局)(2011年第67号)
(2012年1月18日公布、3月1日施行)

5.「タクシー運転者従業資格管理暫定規定」(交通運輸部)(2011年第13号)
(2011年12月26日公布、2012年4月1日施行)

6.「農業部規範性文書管理規定」(農業部)(2012年第1号)
(2012年1月12日公布、2月15日施行)

【最近の判例と注目事件から-中国法院網―(http://www.chinacourt.org/index.shtml):6月】

【北京春秋】北京での交通事故その4  北京代表処首席代表弁護士 萩原大吾

 交通警察の事故証明を取得したあと、病院に行きました。中国では病院にランクがあり、診療の値段も違いますし、質も異なるといわれています。北京大学近くに所在する第1ランクの病院に行き、流暢な英語を話す医師から全治6週間との診断を受けました。骨には異常がないが、左足と左手手指の捻挫がひどいとのこと。骨折がないことに安堵しつつ病院をあとにし、いよいよ示談交渉となりました。賠償の話になると、付き添っていた加害者(米国人留学生)との間に、微妙な空気が流れます。

 私は、迷いながらも加害者が25歳の留学生である点に十分配慮した金額を提示したところ、彼は友人の中国人弁護士を呼ぶと言い出しました。私は数万円程度の話で弁護士対応することを面倒に感じましたが成り行き上やむをえません。1時間後に来た中国人弁護士は、当初あまり態度がよろしくなく、壊れた自転車代と医療費のみ弁償すると言っただけでした。

 これに対し、私からは、比較的重傷で通院も必要であること、加害者の100%の過失を認めた調書があることなどを中心に反論し、3時間程度のやり取りのあと、私の当初の提示額で決着がつきました。しかし、今思えば、加害者が呼んだ中国人弁護士の顔を立てて、数パーセントでも減額すれば、同じような話を3時間もぐずぐずと繰り返さずともすぐに話は付いたと思います。中国人との交渉では、形だけでも良いので相手の面子を立てた形を作ることがとても大切なのですが、当時はそのような知恵もなく、ひたすら同じ話の繰り返しになったことは苦い思い出です。この時に我が身をもって学んだことは、今では仕事でとても役に立っています。

【閑話休題】~50年前毛沢東は2012年の中国を如何に予言したか~中国室顧問 千葉勝茂

 本年1月、中国の「新華網」(新華ネット)に掲題の記事が掲載された。以下これを引用してみたい。

 同文章は、1962年1月30日の《毛沢東:拡大中央工作会議上の講話》の第4部分の抜粋として始まる。毛沢東は、1960年のエドガー・スノウ(注:「中国の赤い星」の作者)との会話を披瀝する。彼に対し、’我々は政治、軍事、階級闘争には一定の経験も、方針も、政策も知っているが、社会主義経済建設はやったことが無い’と言うと、彼は’(建国後)もう11年も経っているのだから、中国建設の長期計画に付いて述べて欲しい’と言うので’分からない’と答えると、彼は’とても慎重ですね’と言うので、’慎重なのではない、分からないものは分からないし、経験が無いのだ’と答えたと言う。更に、1961年のバーナード・モンゴメリー将軍(注:英国の陸軍元帥、エル・アラメイン戦役とノルマンディ上陸作戦の指揮官)との会話を紹介する。曰く、同将軍は’今後50年が過ぎたら、壮大な国家になり、他国を侵略できる程になるでしょうね’と言った。これに対し、’我々はマルクス・レーニン主義者で、且つ我が国は社会主義国家であり、資本主義国家ではない。従而、100年、1万年経っても他人を侵略することは有り得ない。強大な社会主義経済建設には、中国は50年では無理、100年、イヤ更に長い時間がかかるだろう。貴国の資本主義の発展は既に数百年になる。17世紀以降から現在まででも既に360数年になる。我国で強大な社会主義建設を達するには、自分の予測では100年以上掛かるだろうと思う’と答えたと披露した上で、’我が国は、今後50年乃至100年前後で強大な社会主義経済を建設しようではないか’と呼び掛ける。1958年、「大躍進政策」を発動、「土法高炉」による大量の鉄増産運動或いは「人民公社」を組織したが、これは失敗に帰したことが明らかになった時期であった。この演説の4年後には「文化大革命」が発動され、10年に亘り国中を混乱に陥れ、1976年1月に亡くなった周恩来の後を追うように、同年9月に世を去る。この2年後の1978年、3度目の復活を遂げた鄧小平が「改革・開放政策」へと舵を切り、今日の繁栄へと導くのである。毛沢東が予想した’50年後’は、鄧小平という稀有な指導者により、資本主義社会に頼られるまでの国家に変貌した。その意味では、正にバーナード・モンゴメリー将軍の予言が当たったと言えるのだが、毛沢東は果たして今の中国をどんな感慨で見ているのだろうか?         

【上海春秋】上海交通小学  上海代表処首席代表弁護士 東城聡

 私が上海に赴任してはや1ヶ月以上が過ぎようとしています。色々と驚くことばかりですが、いつまでも慣れないのは、歩行者の脇を猛スピードで通り過ぎていく電動モーターのついた自転車やスクーターです。

 中国においては、電動「自転車」は、「最高時速20キロ以下、車重40キロ以下」と規定されているはずですが、明らかにそのスピードを超過する自転車(又はスクーター)が行き交っています。

 この電動自転車又はスクーターの厄介なところは、音がでないところです。歩道だからと安心して夜道をふらふらしようものなら、すぐ脇を猛スピードで二輪車が駆け抜けていき、冷や汗をかくことになります。

 種類も多彩で、スクーターや自転車型の他に、三輪車やリヤカーを引いたものなどがあり、そのような音を立てない電動の乗り物が自由自在に行き交っています。そういった交差点の様子や、個人商店の自転車屋の店先に充電用の大きなコンセントがつけられている様子をみると、電動の二輪の乗物という分野では中国に先を越されてしまっているのではないかと少し危惧を覚えます。

 とにかく上海出張などで来られて、地元の方の多い方面に行かれる際は、進路変更時の後方確認を歩行中でもお忘れなく!

【都市住民と農村住民人口逆転】 中国室顧問 千葉勝茂

 本年2月22日付けで公表された国家統計局の「2011年国民経済と社会発展統計公報」によれば、大陸総人口は13億4735万人、2010年比では+644万人とある。興味を引くのは、都市人口が6億9079万人、農村人口が6億5656万人と、都市人口が農村人口を逆転し、初めて51.3%に達したことである。2010年11月に実施された国勢調査では、都市人口比率が49.7%であったから、僅か1年で都市人口が1.6%増加したことになる。現在、中国には20万人以下を含め’都市’としてカウントされる数が655都市あるが、その内100万人以上の都市は122都市である。2009年時点で、世界には50万人以上の都市が961都市であったが、その内中国の都市が236都市を占めており、1980年には僅か51都市に過ぎなかったことから見ると、都市化スピードは世界一と言われる由縁である。この動向に関する中国国内の議論は喧しい。或る経済学者は、世界各国では1人当たりGDPが3000㌦台の時に平均都市化率は55%に達しており、中国が4000㌦を超えた現在、明らかに低水準である、更に一層都市化率を高め、現在の輸出主導型のGDP構成を内需主導型に転換する起爆剤とすべきであると主張する。一方、或るエコノミストは、急速な都市化は、大都市病とスラム街の出現により、治安の悪化も懸念され、都市化の急速な進行は良いことばかりではない、と警鐘を鳴らしている。前述の国家統計局統計では、登録住所を離れた、所謂、農民工人口が2億7100万人と記載されている。食糧生産確保の為、120㎢を標榜する中国政府にとり急速な都市化が何をもたらすのか、今後も注意深く見守る必要があろう。

【李茂生の日本考現学:第十四回】「 ~虎の尾を踏む~」

 最近、名古屋市の河村たかし市長が、こともあろうに南京市政府代表団に南京虐殺事件の存在を否定する発言を行った。あまつさえ、愛知県大村秀章知事の忠告にもかかわらず、重ねて不存在を主張し、陳謝を拒否したという。当該代表団の困惑はいかばかりであったかと同情を禁じ得ない。同代表団は、暫く中国に帰国できなかったと聞けば尚更である。南京虐殺事件が、中国側の主張にもかかわらず未だ議論が尽きぬ案件であることは誰しも知っていることであり、故にこそ日中双方の学者が共同研究を進めているのである。それをよそに、個人的発言としても、余りに無神経と言わざるを得ない。今年は日中国交回復40周年、記念すべき年の多数の行事の遂行に暗雲を投げかけかねず、同市長の罪はいかにも重い。龍には’逆鱗’と言われる急所がある。同市長はその逆鱗に触れ、虎の尾を踏んでしまった(履虎尾-「易経」-履卦)のである。昨年の東日本大震災で日本国民の民度の高さは、世界で、勿論中国でも大いに称賛を受けていたのに、この一言で帳消しになりかねないことは誠に残念である。論語に曰く、「過而不改、是謂過矣」(過ちて改めざる、これを過ちと謂う)とある。げに、口は災いの元である。

以上