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「仕事人のための接待学」第7回 高井伸夫

ホームパーティー一番

日本経済新聞(夕刊)連載 1998年5月25日掲載


外国人の接待について、特に気をつけなければならないのは、好みがはっきりしていることだ。

かつて日本が輝いていた時代、銀座松坂屋の近くに超高級クラブ「アポロン」があった。ジョージ川口氏が毎日のように出演し、バンド演奏の幕あいにバイオリン弾きが登場するなど、しゃれた趣向が凝らされていた。

そのクラブでは、ロンドン、ニューヨークから欧米人が数多く楽しんでいた。彼らは日本に出張するに際し、「アポロン」を指定し、そこで接待を受けることを半ば目的にしていた。「アポロン」社長の清水昭氏から「外国人は極めてはっきりしている」というお話をうかがったことがある。

また、新橋「京味」の大将、西健一郎氏からも同じようなことを聞いた。花柄プリントで著名なブランド「レオナール」社長のダニエル・トリニアール氏は日本へ出発するに先立って、わざわざ「京味で食事を」と指定してくるという。

いずれにしろ、外国人はそれぞれ固有の価値観を持ち、価値判断が明確なのである。日本の社会では、接待先に「どこで接待申し上げましょうか」とお伺いをたてると、大抵「おたくに任せた」とか「どこでもいいよ」といったあいまいな答えが返ってくる。これもまさに国民性を物語っている。外国人の接待の前には必ず相手側の意向を確認して臨まなければ、満足してもらえず、百の準備も無意味になってしまう。

さて、例えば私が外国人を接待するときは、日本精神の神髄に触れることのできる神社仏閣に案内する。歌舞伎、相撲にはもう慣れている外国人が多いから、西芳寺(苔寺=こけでら)に案内して写経してもらうのが一番。

それが時間的に無理なら明治神宮に案内し、さらには浅草寺にお連れして、その隣で蕎麦(そば)屋十和田のママであり、かつ「浅草かみさん会」理事長の富永照子さんにお願いして「振りそでさん」を配置してもらう。これがことのほか評判がよい。

外国人の接待で最も有効なのはホームパーティーである。私は、八年前、モスクワ大学で講演したことがあるが、そのお礼にログノフ総長を自宅に招待した。ログノフ総長持参のウオッカと我が家で用意した日本酒を酌み交わしながら談笑したが、それ以来極めて親しくさせていただいた。

要するに、自宅に招いてアルコールをいただきながら談笑することは、言語の障壁を超え、民族を超えて親近感を抱く最たる術と言ってよい。

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