『労働新聞』高井伸夫の四時評論<第34回 人事・労務の未来(3)>

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第34回 人事・労務の未来(3)
(2009年10月19日)

 

人事・労務を軽視すると、後に述べる労働力人口の急激な減少と相俟って、企業にはどのような弊害が生じるのだろうか。

 

崩壊する労使協調路線

人事・労務の軽視は、人を大事にしないということであり、その結果、従業員の勤労意欲の減退・士気の低下を招き、社員・従業員のロイヤリティーが徐々に薄れていくことは言うまでもない。そして、社員の能力が発揮されず組織のパフォーマンスが落ちることにより、創造性(製品開発力)、生産性(営業力・品質・コスト管理力)も当然に低下し、労務対応のコストが増大する。その代表的な事象として、訴訟が提起されるなど経営の求心力が失われ、労働側の意見を集約しづらくなることが挙げられる。さらに、労使関係が悪化し、日本の良き風土として利点であった経営と労働側の協調路線も崩れていくだろう。

そして、企業は人なりという本筋が失われ、優秀で貢献度の高い社員は退職し、他の企業へ流出する。また、社員の育成も進まず、人事労務の責任者や管理監督者も育たなくなり、他社と違ったユニークで戦略的なポジションをとるためのマネジメント層も不足し、組織の存続が一層脅かされる。こうして企業競争力は劣化し、最終的には淘汰されてしまうのである。

このように、人事・労務を軽視することにより様ざまな弊害が起こり得るが、最も大きな弊害の一つに、風評被害(レピュテーションリスク)が挙げられる。

従来、企業はヒト・モノ・カネの三資源でできていると言われていたが、本稿第1回で述べたとおり、私は数年前から信用と組織がそれらに追加されるべきであると説いている。企業間競争が激しくなればなるほど、信用の重要性が高まり、その反作用として、レピュテーションリスクが顕在化するのである。つまり「一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝う」(『潜夫論』より)という故事成語のように、まさに噂が噂を呼び、悪評が企業の負荷になるのである。その対象は、マスメディアのみならず、ネット上の数多くの情報(書き込み・掲示板・ブログ・SNSなど)まで及ぶ。情報量の急増により、利用者が個々の情報の真偽を判断することは難しく、間違った情報でも情報量が多ければ、人間の心理として信用する傾向がある。リスクが顕在化した場合の顧客離れ・売上減少・株価下落・訴訟等によるブランドおよび信用の失墜・損失は計り知れず、会社の存亡に大きな影響を与えかねない。

ところで、こうしたレピュテーションリスクの問題はコンプライアンスとも大いに関連がある。そして、コンプライアンスは企業倫理のごく一部を把握しているものにすぎず、例えて言うならば、“企業倫理の浮島”とも言うべきなのである。それゆえ、企業経営においては人事・労務の面でも、法令遵守義務を果たすだけではなく、企業倫理を極めようとする姿勢が必要不可欠となる。そして、前述のような風評被害のリスクが蔓延する社会状況であっても、経営陣以下全員が、わが社は倫理上も誤った対応をしていないという確信を持てるように、人事・労務の仕組みの中で、従業員らに企業倫理・コンプライアンスの重要性を徹底的に叩き込まなければならないのである。

 

後継育成が大きな使命

さて、日本の総人口は減少の一途を辿っており、このままでは労働力不足による経済の縮小は避けられない。日本の現在の人口は約1億2770万人であるが、2055年には8993万人となり、50年もしないうちに3割もの日本人が姿を消し、さらに2105年には、4459万人にまで激減すると予測されている(国立社会保障・人口問題研究所)。また、厚生労働省の推計によれば、2030年の労働力人口は、女性や高齢者などの就労が進まない限り、現在より約1070万人減の5584万人(約16%減少)まで落ち込むという。これは「生産性の伸びによって補える人口減少規模でなく、労働力人口の減少は、確実に経済成長を抑制する」と指摘されている(日本経済団体連合会「少子化対策についての提言」より)。この人口激減リスクに対する抜本的な処方箋の一つとして、移民法制も視野に入れなければならなくなるであろう。

さて本稿第2回でも述べたとおり企業の成長に資する能力を持つ者は限られた割合でしか存在しない以上、人口減によって企業に有用な人材の絶対数が減少し、社内人材の衰退・対価が急速に進行すると予測される。

そのような状況下で、必要となってくるのが、若年労働力の確保と活性化である。

ドラッガーも「若年人口の減少が国内市場を根本的に変える」「人口構造の変化こそ、ネクスト・ソサエティーにおいてもっとも重要な要因である」と述べているとおり、それを実現するための教育等の諸施策が必要となってくるであろう。各企業は生涯にわたり教育を施し、特に若年労働者に向上心を持たせ続ける努力を行うとともに、企業が仕事を通じ、従業員の知的能力・体力・精神力を鍛えることができるようなプログラムを実施すべきである。企業の指名は利益の追求にあるのは当然だが、人材を育てて初めて企業は継続する価値があると言えるのである。

具体的には、企業が給与以外の恩恵ももたらしてくれると考え、仕事そのものにやりがいと生きがいを感じる従業員を育て上げ、人間としてのレベルアップを継続させることが必要である。そして経営者は一人でも多くの良き後継者を育てるべく、自ら率先して一生勉強を怠らない姿を見せるとともに、一緒になって勉強することである。

 

修正すべき年功型賃金

さらに、若年労働力の確保と活性化についての施策として、年功型賃金制度を見直し、職務や成果を適切に反映した報酬体系に組み直すことが考えられよう。労働力不足になれば、需給のバランスが崩れるのであるから、初任給を含む年功給的体系から今以上の能力給あるいは成果給体系に移行せざるを得ないだろう。従って、現在ほぼ新卒共通の初任給水準も、会社の事情に応じて個別に設定することになろう。

一般的に年功型賃金制度のもとでは、業務に習熟する入社数年後から、職位を与えられる30代半ばくらいまでが、業績への貢献度に対して報酬水準が比較的低い年代と位置付けられる。一方で、40代以上の社員のなかには、貢献度に対して報酬水準が高すぎる者が一定量発生する。コストパフォーマンスの高い若年労働者が不足し、その業務を割高な中高年労働者でカバーしようとした場合、人件費負担が増大し、これまでの収益モデルは破綻に向かい深刻な問題となるのは明白である。そこで、貢献度に対して報酬水準が高すぎる中高年社員のそれを適正化し、雇用を維持しながら若年労働者に代替していくことが考えられるのである。

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