• 今、話題のテーマについて各界で活躍している方々と対談をする一問一答形式のブログの第33回目です。
  • 第33回目は、NPO法人信州まちづくり研究会 副理事長・事務局安江高亮様です。

 


 

■ ■ ■ ■ 時流を探る~高井伸夫の一問一答 (第33回)■ ■ ■ 

NPO法人信州まちづくり研究会
副理事長・事務局  安江 高亮 様 
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[NPO法人信州まちづくり研究会 副理事長・事務局

安江高亮様 プロフィール]

1962(昭和37)年、長野工業高等学校土木科卒業。父 の建設会社 三矢工業株式会社に入社。1984(昭和 59)年、長野県北佐久郡立科町の姉妹都市オレゴン市 を代表団と共に訪問。ポートランド市とオレゴン市の“まちづ くり”にショックを受ける。平成元年に父より代表取締役社 長を引き継ぐ。

1990(平成2)年、ニューヴィレッジプラン (新しい暮らしの提案)を発表し、経営の主目標にすることを 宣言。「オレゴン市との友好町民の会」結成。パートナーシ ャフト経営研究会に入会し、篠田雄二郎教授と大須賀発蔵師の指導を受けドイツに研修訪問。1992(平成4年)、“まちづく り”開発第1号フォレストヒルズ牟礼(むれ)発売。1997(平成9年)、 『サステイナブル・コミュニティ』(川村健一、小門裕幸共著)を読み傾注する。川村氏のコー ディネイトで、カリフォルニア州デービス市の「ヴィレッジ・ホ ームズ」やデンマークのエコヴィレッジ「モンクスゴー」を視察。

2001(平成13年)、NPO法人信州まちづくり研 究会設立(発起人代表、現在副理事長)。2008(平成20)年、“まちづくり”事業不振の責任をと り、会社を営業譲渡し辞任。以後“農楽”をしながら「田舎 暮らしコミュニティ」創りを画策。

2014(平成26年)、「スマート・テロワール・農村消滅論からの大転換」(松尾雅彦著学芸出版社)を読み、取組開始。

(写真は安江高亮様)

安江様

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安江様より 『私の思想と理念と行動』をご紹介いたします。

高校時代にロシア文学、特にトルストイの「戦争と平和」、ドストエフスキーの「罪と罰」を愛読した。トルストイの人物より大きな時代の流れを見る歴史観、「罪と罰」の殺人に対する多様な見方が価値観の土台になっている気がする。

高校で土木を勉強し、建設業を続ける中で、公共事業とは何か、住宅を造る、街を造るとは何かを考え続けていた。そこに「サステイナブル・コミュニティ」(川村健一・小門裕幸著 学芸出版社)が現れ、本当の”まちづくり”を知り、理想の”まちづくり”に取り組んだ。建設業の仕事は、”まちづくり”だという使命感を強固にした。公共事業を金儲けの具にしてはいけないと考えた。しかし、理想を追いすぎて経営に失敗し、引責辞任に「追い込まれた。しかし、”まちづくり”開発した県内6箇所の住宅地は21世紀のモデルとなると自負している。

 ”まちづくり”を社会に広める目的で平成13年にNPO法人信州まちづくり研究会を発起人代表として設立した。活発に海外視察を行い研修を重ねたが、バブルの崩壊、建設業界の崩壊に伴い、活動は縮小した。平成20年に三矢の代表取締役を引責辞任し、意気消沈し、NPOを解散しようかと考えていた時、「スマート・テロワール・農村消滅論からの大転換」(松尾雅彦著学芸出版社)を読んで、新しい”まちづくり”の目標を見つけた。自給圏(スマート・テロワール)構想しか地方創生の策はないだろうというのが現在である。

 

 

[今回のインタビュアーは以下の通りです]

  • Farm めぐる 代表 吉田典生様
  • 高井伸夫 

(取材日 2017年12月9日(土)於:いっとう(蓼科牛レストラン))

 


高井

立科の農業生産は、何ですか。

 

安江様

生産量が多いのは、やはりお米です。次は、リンゴです。20年ぐらい前までは、畜産が長野県でトップクラスだったんですよ。ところが、もうほとんどの方が辞めて、今かろうじて、数軒が残っているだけになりました。

リンゴについては、ほとんどが生食用出荷ですが、品質には定評があるので、贈答用が多いです。10年ほど前から、「たてしなップル」が中心になって、立科産のリンゴを使って加工品を製造・販売しています。付加価値を大きくするので素晴らしいことだと思います。リンゴで作ったお酒のシードル、それからワイン、フルーツケーキ、ジュース等を販売しているんですよ。たてしなップルの特徴は、原材料のリンゴの品質に拘っていることです。特に栄養ドリンク「林檎美人」は最高の品質だと思います。アンテナショップもありますから、先生、ぜひシードルを飲んでみてください。美味しいですよ。

高井

他に将来性がある特産品はありますか。

 

安江様

特産品ということについて、今、“農業”っていいますと、日本で一番まずいなと思うのは、特殊なものを作って高く売ろうというのが基本になっていることです。これはおかしいのではと感じています。大事なことは、コモディティー商品というか、一般に住民が普通に食べるものが地元で作られて、しかも良品であることが大切だと思うんですね。それが評判になって他所から食べに来ていただくという。

ところが、今はそうなっていなくて、例えば、畜産は衰退していますが、“手作りハム”を作っている会社がありますが、その人たちが作ってるものは地元の人の口に入りづらい。どうしても価格が高くなってしまうからです。家畜に高い輸入餌を食べさせているので、安くならないのです。これは非常に不自然な形の農業なんですが、現状では仕方ありません。やはり、地域の皆さんが誇りを持っておいしく食べられるものを、ほどほどの値段で、基本的にはナショナルブランドよりは安く作れる、食べられる状況を作り出す必要があります。私が事務局を務めているNPOでは、そのために2年前から、自給圏(スマート・テロワール)(注)をつくろうという活動を進めています。

自給圏(スマート・テロワール)(注):地域内でのできる限りの自給を目指す地域単位のこと。

 

高井

今食べているのは、“蓼科牛”ですが、これについてはどうですか。

 

安江様

蓼科牛は、コシヒカリのサイレージ飼料(青い稲を刻んで袋詰にし乳酸発酵させたもの)と輸入飼料で育てられています。この状況は日本中どこでも同じだと思います。ただ、本当の意味で蓼科牛と言えるためには飼料を自給できる体制を作る必要があります。例えば、フランスのボルドーで作っているワインの原料であるブドウが全て輸入品だとしたら、世界中の人が買うでしょうか。ボルドーではそんなことをしていないと思いますが、現状の日本では、そういったことが許容されています。国産のワインと言いつつも、原料であるブドウジュースや濃縮ジュース、粉末を輸入して日本で発酵させたら「国産」と言えるんです。それが法律的に許されています。もちろん、自分で作って自分で醸造しているところもありますが全体から見れば、ごく一部です。でも、本当は、それがたくさん重なることによって、産地形成ができて循環型になりますよね。

 

畜産業の話に戻りますが、畜産業の振興はスマート・テロワール構想の中核的課題のひとつなんです。循環型に畜産業が欠かせない一番大きな理由は、日本人が肉を食べる量が多いことが上げられます。重量で、お米の約2~3倍の肉を食べているんですよ。農水省の統計ですが、お米が、約年間60キロ、それに対して、肉は年間150キロ食べています。その肉のほとんど、8~9割を輸入に頼っています。これを基本的に変えなければなりません。

また、畜産があることによって、堆肥ができるでしょう。その堆肥を畑に入れることによって、いい作物もできるし、全体が循環する。今は、残念ながらその堆肥がお荷物になってしまっているんです。ちゃんと処理をしていないので、臭いから嫌われて、捨て場がないという問題もあります。つい最近、この地区で何十年もため込んだ堆肥が、去年の台風でドンと崩れまして、すごい被害を出したんですよ。日本では牛の糞尿が循環していないんですよ。しかも社会問題にもなったりして、畜産業が敬遠されて、嫌われてしまって、結局、どんどん衰退しています。これはものすごく不自然です。これでは食の循環というのは成り立たないんですよ。

 

高井

蓼科牛の飼料を全て立科町で賄うのは難しいのでしょうか。

 

安江様

現状ではほとんど不可能です。広々とした大きな畑が大量に必要ですが、ほとんどありません。田んぼの耕作放棄地が問題になっていますが、『スマート・テロワール : 農村消滅論からの大転換』を執筆した松尾雅彦さん(注)は、田んぼの土手を崩し、一枚の大きな畑にして穀物を作る、あるいは牧草地にすることを提唱しています。我々もそう思います。そして、その畑で、小麦、大豆、トウモロコシといった畜産の餌、飼料を作るべきと考えています。

松尾雅彦さん(注):元カルビー株式会社代表取締役。2018年2月12日にご逝去されました。

 

高井

安江様は、地方創生の策として自給圏(スマート・テロワール)構想を提唱しておられますが、具体策、そのメリットと課題、行政(国)への働きかけをどう模索するかについて教えてください。

 

安江様

具体策として、第一着手点(ホップ)を約5年としています。その5年で地域の食の実態を調べ、「実証展示圃」で反収増ラインを検証します。また、「30年ビジョン(未来像)と農村計画書の描出」及び、先進地(ヨーロッパ)視察、農地のゾーニング計画、地域内循環モデルを策定し、営農実現計画を考えています。

次の第二の手(ステップ)として、プロトタイプ(注:お手本)で経済性を検証するのに約10年としています。この10年では「互酬経済の承認」、これは加工場のリーダーシップが要でしょう。その他にも、水田を畑地に転換し、水利と灌漑の改修を行い、地域住民・農家・水利組合・土地改良組合などの賛同を得ていく。また、「美食革命」を起こし、地域の特性を持った美味しさを作り出す。食の誇りは地域の人々の意欲を高めると考えています。

 

高井

プロトタイプ、お手本になる自給圏の広さはどのくらいでしょうか。

 

安江様

モデルとなる自給圏の規模は、10ヘクタール〜20ヘクタール規模で考えています。第三の手(ジャンプ)では、いよいよ自給圏内全面展開・都市部への攻略をします。自給率目標は、自給圏内50%超+国内他地域産20%=70%を目標としています。海外から30%です。スマート・テロワール構想のメリットは、何といっても、地域が活性化し、人口増加に転じること、そして、日本で一番遅れている農業を科学することにより、文明国になれることです。

 

高井

農業を科学するとはどういうことでしょうか。

 

安江様

農業を科学するとは、農業に関する情報を求め、研究し、科学的に取り組むことです。農業、畜産業を基盤に食料自給率をアップすることで、地方創生のモデルケースを作る。日本人は、創造は苦手のようですが、全国で1つ、2つモデルができ、それを理解し良いことと判れば、真似るのは上手ですからあっという間に広まるでしょう。山形県では、プロトタイプの農場が来年からスタートしますが、他はまだまだです。私は、自治体の長や担当課に働きかけていますが、相槌を打つだけで、全く動きません。恐らく、理解できない=理解しようとしない=本も買わない、これは票に結びつかないことが原因でしょう。もちろん私の力不足もあるかもしれません。この面では阿部長野県知事はすばらしいです。松尾雅彦さんを、昨年(注:2016年)「食の地消地産アドバイザー」に委嘱し、農政部に実証試験を指示し、予算をつけ5年計画で開始してくれました。

現在の戦略は、世論を高めることです。そのために一般社団法人「東信自給圏をつくる会」をつくる計画です。世論を高めれば政治は寄ってきます。もう一つは、ミニスマート・テロワールを実際に作って見せることです。具体策の第二にあるプロトタイプがそれです。

 

高井

自給圏(スマート・テロワール)構想を実践していて、いちばんの障害は、ずばり行政でしょうか。

 

安江様

行政というか、農業の本家本元であるJAと農業会議(注)が全く興味を示さないことです。唯一山形県では山形大学農学部と山形県農業会議が主導しておりますが、他は、悲しいことに、勉強する気持ちがないとしか言いようがありません。農業界全般に農業を科学する気持ちが見られません。今の農地法改革によって、新しい方針が出されました。集約と、後継者養成が大きな柱になっていて、その集約だけは確かにやっているんです。ですが、ビジョンがないんです。ただ「俺は辞める」っていう農地を引き受けているだけなんです。そして、残念ながら多くの農業会議はその次元に留まっています。

農業会議(注):都道府県農業会議は市町村に設置された農業委員会の上部団体。都道府県ごとに組織されている。市町村の農業委員長により県単位で構成されている。

 

高井

ところで、吉田さんは、国税庁から“脱サラ”して、なぜ農業を始められたんですか。

 

吉田

私は国税に入る前に長野に農業のバイトに来ていて、農業の「気持ち良さ」というのを感じ、いずれやりたいなと思っていました。いったん国税に入庁したんですが、いずれ農業をやるにしても、若いほうがいいなと思って10年で切り替えました。32歳で辞めて、自分で始めたのが34歳です。その間は研修したりしていました。追随してくる後輩はいませんが、新たに農業をやりたいという人は受け入れて、育てるっていうことを、これからやっていかなきゃいけないなと思っています。といっても、まだ私も、始めて6年しかたっていませんので、そんな人に教えられるほどの知見があるわけでもありませんが。

 

高井

吉田さんのような若い力は頼もしいですね。安江様の大きな夢は何ですか。

 

安江様

日本が世界のモデルとなる文明国になることです。文明国というのは、福澤諭吉が『現代語訳・文明論の概略(福沢諭吉著齋藤孝訳ちくま文庫)』中で述べている文明国であり、自己流に表現させていただくと、自律性、向上性、合理(真理探求)性、審美・文化性、徳性を備えた国だと思います。

現在の日本はどう見てもまだ半開だと思います。日本はその気になれば、文明国になれると思っています。ポテンシャルはあると思うので、スイッチがはいれば実現すると思います。自給圏(スマート・テロワール)構想の実現がそのスイッチになれれば最高です。

 

 

<ご参考>
「文明論の概略」から「第三段階文明国とは」より引用します。
「自然界の事物を法則としてとらえる一方で、その世界の中で、自ら積極的に活動し、人間の気風としては活発で古い習慣にとらわれず、自分で自分を支配して他人の恩恵や権威に頼らない。自身で徳を修め、知性を発達させ、過去をむやみに持ち上げず現場にも満足しない。小さなところで満足せず、将来の大きな成果を目指して、進むことはあっても退くことはなく、達成することがあってもそこに止まることはない。・・・」

 

 

以上

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