時流を探る~高井伸夫の一問一答(第27回)日比谷パーク法律事務所代表弁護士 久保利英明先生

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  • 今、話題のテーマについて各界で活躍している方々と対談をする一問一答形式のブログの第27回目です。
  • 第27回目は 日比谷パーク法律事務所 代表弁護士 久保利英明先生です。

 


 

■ ■ ■ ■ 時流を探る~高井伸夫の一問一答 (第27回)■ ■ ■ 

日比谷パーク法律事務所
代表 弁護士 久保利 英明 先生 

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[日比谷パーク法律事務所代表 弁護士 久保利英明先生 プロフィール]

http://www.hibiyapark.net/lawyer/kubori.html

1944年、埼玉県生まれ。東京大学法学部卒業。ヨーロッパ・アフリカ・アジアを放浪した後、71年に弁護士登録。第二東京弁護士会会長、日弁連副会長などを歴任。現在、日本取引所グループ社外取締役。2002年から2005年まで、金融庁顧問、金融問題タスクフォースメンバー。

現在、第三者委員会報告書格付け委員会委員長、一人一票実現国民会議共同代表も務める。

著書に『破天荒弁護士クボリ伝』『想定外シナリオと危機管理』『「交渉上手」は生き上手』など全76冊。専門分野は、コーポレートガバナンス及びコンプライアンス、M&A、株主総会運営、金融商品取引法、独禁法等企業法務、知的財産権など。

久保利先生

(久保利英明先生 取材日に撮影)

[今回のインタビュアーは以下の通りです]

  • 株式会社民事法研究会 取締役編集部長 田中敦司様 
  • 高井伸夫 

(取材日:2017年9月4日(月)14:30~於:日本工業倶楽部会館2階ラウンジ)


 

対談のテーマ
東芝、富士ゼロックスなどに見られる、日本企業の海外子会社戦略の破綻は
「経営者の経営力の劣化に起因し、専門職たる弁護士や会計士の質と量の不足による」

 

久保利先生

最近小城武彦氏の『衰退の法則』を読みましたが、倒産した企業と隆々とやってる企業はどこが違うのか、なぜ衰退するのかについて分析しています。カルロス・ゴーン氏の言葉を紹介していますが、ゴーン氏登場前の日産がなぜダメになったかという理由を「収益性を志向する、その志向性の低さ」、「ユーザーを考慮に入れない発想」、「危機感の欠如」、「セクショナリズムが強く、いわゆる縄張り意識が社内のコミュニケーションを妨げてることに認識がない」、「ビジョンがない」と総括しています。また西浦裕二氏の編著『企業再生プロフェッショナル』を挙げて、衰退する理由を、「見えっ張り症候群」と「青い鳥症候群」と「ゆでガエル症候群」と、「いつも他人のせい症候群」の4つだと言っています。これは全て東芝にも当てはまると思っています。

 

東芝のことが表沙汰になり、「これって本当に東芝だけなのか」、「もう日本の大企業がみんなこんなもんじゃないのか」と思っていたところ、この本が出版され、日本の大企業で業績が悪化する企業は、みんなこの法則に適っていると説明されていて、その通りだと思ったんです。

 

高井

先生がこの問題全体に関心を持ったきっかけは何ですか。

 

久保利先生

東芝事件は内部通報を無視したため、監視委員会に情報が入ってきたのが発端でした。その時に「やっぱり」と思いました。内部通報を無視したから外部への告発が起きるのです。

要するに今の日本企業は内部通報者を大事にしてないんですよね。内部通報を受けて経営陣が「ありがとう」と、「立派な人がうちにもいたね」と、こういう発言をしないで、「誰が言ったんだ、これは」と憤慨する。匿名の通報に対して犯人捜しに入るんです。僕はそれが日本の企業の一番のダメなところじゃないかと思っています。

内部通報に対して、内部監査部に真相をしっかりと君らが調べろと言った社長なんかいないんですよね。

 

高井

日本はいつからそういった体質になってしまったんですか。経営者の経営力の劣化を引き起こした原因は何ですか。

 

久保利先生

日本は150年前に明治になりましたが、その前の江戸時代の日本の体質は、基本は儒教、論語といっても朱子学なんです。体制護持で親分の言うことには歯向かえないという体質でした。明治になって、初めて渋沢栄一が、正しい論語をしっかり勉強して、正しい倫理・道理にかなった経営をやっていきましょうということを言い始めた。僕は渋沢資本主義と呼んでいます。この精神が日本の経済発展を支えてきたんですが、それは、太平洋戦争で壊れたというよりも昭和・平成のバブルで壊れたんです。

 

高井

経営力の劣化を引き起こしたのは、バブルが影響しているんですか。

 

久保利先生

1980年代から30年間のバブルで、どんどん拝金思想が表面に出てきました。敗戦後も「金」「金」と言う人は一部いましたが、立派な経営者もそれなりにいたと思うんですね。その人達がパージ(注1)されて、次に会社を経営したのが、いわゆる「三等重役」です。彼らは創業者のような経営力も威厳も何もない、ただ真剣に働かないと会社が潰れる、という思いでただただ真面目に働いた。戦後の日本の復興というのは、ある意味で彼らが支えてきたと思っています。

注1 パージ (purge) とは、一掃・抹消または粛清の意味

ところがバブルになった時には、指導力のある経営者はもういないので、組織が無政府状態になってしまった。時流に流されて、トップが「金を儲けろ」と言っても、「まともにやんないとダメでっせ」という番頭がいなくなっちゃったわけです。会社全体がそうなってくると、サラリーマン全体主義、それと周りの空気を読む共同体至上主義が蔓延していきます。立派なリーダーがいないわけですから、結果的にはみんな社内政治でもたれ合い、仲良し、あるいは若干の足の引っ張りぐらい。これでやってきたから自立した経営者はいなくなり、結果的には経営力が劣化したというのが僕の考えです。

 

高井

今でも社長が後継者を指名していますが、それがダメなんでしょうか。

 

久保利先生

ダメです。どんどん小粒化しています。それではダメなので、サクセッション・プラン(注2)を作ることをコーポレート・ガバナンスコード(注3)に入れたわけです。驚くことにほとんどの会社が「サクセッション・プランを作っていますか」という問いに対し、「コンプライ(やっています)」と回答しています。ところが実際にサクセッション・プランを出せといって、ちゃんと出せる会社はないんですよ。ないのにサクセッション・プランがあると言う。また嘘をついているわけです。

そういう意味で言うと、相変わらず会長だったり、相談役だったりが、次の社長はあいつが良かろうということを言って決めているんではないかと。相談役や会長が、ひいきとか好みとか、俺のことを大事にしてくれるだろうかとか、そういうことで社長を決めているから、相談役より立派な会長、会長より立派な社長、社長より立派な次の社長が出るわけがないんです。

注2 サクセッション・プラン(Succession Plan)とは、もともとは「後継者育成計画」のことで、重要なポジションの後継者を見極め、育成すること 

注3 コーポレート・ガバナンスコードとは、上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針。2015年3月に金融庁と東京証券取引所が取りまとめ6月から適用が開始された。法的な強制力はないが、「Comply or Explain(同意せよ、さもなくば説明せよ)」との原則に基づき、上場企業はコードに同意するか、しない場合はその理由を投資家に説明するよう求められるようになった

 

高井

もう一つ、弁護士や公認会計士が劣化したと言いますが、具体的にはどういうことですか。

 

久保利先生

弁護士が劣化しています。根本にあるのは“競争嫌い”です。弁護士が競争して切磋琢磨しようという発想がない。元々、司法制度改革の根本は毎年3,000人の合格者を出して、法曹人口をどんどん増やして、みんなで競争して、いい弁護士になっていこう、というものでした。当然、司法のマーケットはまだ小さいので、訴訟だけでは生きていけない。そうすると、未然防止だとかコンプライアンスだとかガバナンスという分野へ弁護士がどんどん進出し、いい国になると思っていました。 

ところが日弁連は逆方向に走ったわけです。みんなが訴訟で飯が食えないから、年間合格者を3,000人から1,500人に戻せと。一部地方の会では、1,000人以下に減らせといっています。弁護士会のこういった主張が劣化の原因だと思っています。

飯が食えないといっても、高井先生だって僕だって飯を食っています。ただ昔とおんなじ仕事で食ってるかというと、全然違う仕事で食ってるわけですよね。訴訟よりコンサルや行政への対応やコンプライアンスの指導です。そういうふうに時代の変化に応じて、違う仕事をしていく必要がある。今までの前例踏襲では持たないと思ったら変えなければいけない。これは経営者の場合と同じです。

弁護士が業務内容を変えない、そのまま無競争状態でバッチ1つ持ったら、勉強もせずに一生、生きていけるという考えでいるので、結果的に劣化してしまった。既得権益に執着しているお偉い弁護士さんはどんどん劣化しているように感じます。

ただ、若い人の中で必死に頑張ってる人は、それなりの力がついてきてるし、違う分野も勉強しています。ロースクールに他学部から進学する。例えば建築士と弁護士、医者と弁護士、科学者と弁護士というダブルタイトルの人が必要なんです。アメリカでは法学部がなく、法律はロースクールの3年間で勉強するしかないんです。それまでは哲学をやっていたとか、心理学をやっていたとか、医者をやっていたとか、そういう人が弁護士になるんです。原発の事件でも、アメリカの原発弁護士はみんな原子力工学出身です。日本で原子力物理を出た弁護士で原発問題に取り組んでいる弁護士なんて一人もいません。専門性を売り物にする弁護士は、本当はPh..D(博士号)を持っていてちょうどいいと思っています。日本にはそういう人がいないんですよ。

 

高井

弁護士はなったら安泰ではなくて、これからの時代はダブルタイトルが必要になる。ところで、公認会計士はどうなんでしょうか。

 

久保利先生

公認会計士はある意味でもっと悲惨です。公認会計士試験に受かっても監査法人で実務を一定期間しないと公認会計士になれないんですよね。それが狭き門なのです。そうすると結局、監査法人に入りたいと思いながらやっているから、昔のビジネスモデルが何も変わらないまま、公認会計士試験に受かっても、誰も企業に入らないわけです。でも、本当は企業の財務部や経理部の中に会計士がいないと、しっかりした決算が作れないんだと思っています。

監査法人というのは会計の監査をする人です。会社の会計を見て、この会計でいいか悪いかのどっちかしかないんです。ところが、今の日本企業は監査法人と“相談”“談合”する。監査法人がコンサルみたいになってしまっています。

 

高井

日本に改善の余地はあるんでしょうか。

 

久保利先生

もうかなり絶望的だと思っています。僕は、いままで普通の社員がやっていた経理部や財務部、監査部のスタッフは全部公認会計士に替える、それから法務部や内部監査部とか、取締役会の事務局だとかは全部、職業倫理をわきまえた弁護士にしろと言っていたわけです。

ところが、最近しみじみ考えたら、弁護士がそんな立派かと、会計士が本当に独立不羈(ふき)で頑張ってるかというと、どうもダメだなと思うようになりました。法科大学院で弁護士倫理を学んでいない予備試験経由の弁護士が増えています。素晴らしい経営者が今、どこからかどんどん育っているかというと、それもいないでしょう。そう考えてくると、人がいない。少子化のせいではなくて、教育行政のせいです。スターがいないんですよ。輝く男たち、女たちがいないのですよ。

 

高井

日本は、みんなダメになってしまったとして、どうしたらよいんでしょうか。

 

久保利先生

そうなると、極論ですが、企業を支える人間がいないと。というなら、そんな人財を有する外資に買ってもらうのが一番いいんじゃないかと思っています。外資やアクティビストによる敵対的買収。東芝なら、ウェスタン・デジタルの会長さんは会計士出身のこわもての人だから、“進駐軍”で来て、一遍、日本をマッカーサーが叩き直したようにやってもらうほうが早いんじゃないかと思っています。

日本の弁護士が企業のナンバー2のポジションに座るゼネラルカウンセルになれず、会計士が独立性とアカウンタビリティ(注4)を持ち、財務や経理を仕切れないなら日本の企業は少しも変わらないでしょう。情けない限りです。それが悔しいなら、遅ればせでも、弁護士、会計士を国策として10万人ずつ、創るべきです。そこからは、新タイプの経営者も輩出するでしょう。米国には125万人の弁護士と30万人の会計士がいて、トップ企業のCEOにもなっているのですから。

注4 アカウンタビリティー(accountability) 説明責任

以上

 

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