2017年8月アーカイブ

  • 今、話題のテーマについて各界で活躍している方々と対談をする一問一答形式のブログの第19回目です。
  • 第19回目は 株式会社サイバーエージェント人事本部事業推進室長野島義隆様です。

 


 

■ ■ ■ ■ 時流を探る~高井伸夫の一問一答 (第19回)■ ■ ■ 

株式会社サイバーエージェント
人事本部事業推進室 室長  野島 義隆 様 

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野島様[株式会社サイバーエージェント 
人事本部事業推進室 
室長 野島義隆様プロフィール]

1973年神奈川県鎌倉市生まれ。

 ベンチャー企業の立ち上げを経験後、2003年サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業本部営業局長を経て、2013年新規事業子会社の取締役に就任。2013年に人事本部へ異動後、2015年より現職。

 


[今回のインタビュアーは以下の通りです]

  • 高井伸夫 
  • 宮本雅子(秘書) 

 

 


 

高井

御社の業績はいかがでしょうか。

 

野島様

7月に第3四半期決算発表をさせていただきましたが、年間の予算計画に対して堅調に推移しております(注2017年7月末現在)。注力事業であるインターネットテレビサービスであるAbemaTVのダウンロード数も順調に伸びていて、今(同上)開局1年4ヶ月で2,000万ダウンロードを超えました。利用者もだいぶ増えてきて、手探りから手応えを感じている状態です。

 

高井

インターネットとテレビの融合という企画にチャレンジし始めて、融合はどんどん進んでいるのでしょうか。テレビ事業の資金源はゲーム事業ですか?

 

野島様

おかげさまで一定の手ごたえを感じています。若者のテレビ離れに対しスマートフォンで動画視聴が進めば「新しい視聴習慣の創造」を実現できるのではと思っています。実際は若者中心ではありますがその他の世代にも使われていて、月間900万人以上(同上)の利用者の方に使っていただいております。

積極投資は広告やゲームといった既存事業が支えている形になっております。ゲーム事業はスマートフォンゲームが堅調に推移しております。また、広告事業も動画広告中心に好調に伸びております。海外拠点も増やしさらに拡大中です。AbemaTV以外のメディア事業も市川海老蔵さんなどに活用していただいているアメーバブログや若い世代に人気のマッチングサービスなどが伸びてきております。

 

高井

ところで、御社ではAIは活用されていますか?

 

野島様

社内にAI研究機関である「AI Lab(エーアイラボ)」があります。現在大阪大学、東京大学、米イェール大学、東京工業大学、理化学研究所など複数の機関と産学連携を行っております。また、事業としてはAIを活用したチャットボット(注1)事業である「AIメッセンジャー」を展開しております。

人事領域でのAI活用については、現在人材科学センターと人事システム室を設置し活用の検討をしている状態です。

(注1)チャットボット:人工知能を活用した「自動会話プログラム」

 

高井

御社ではインターンシップがかなり活発ですね。

 

野島様

そうですね。サイバーエージェントのことをもっと知ってほしい、事業の現場をリアルに体験してほしいということで積極的にやらせていただいております。

インターンの種類もいくつかあって、ワンディ(1日)か、3日間が多いですが、長期インターンも実施しています。広告をやりたい、ゲームをやりたいなど分野で選ぶ方と、経営者とか新規事業の立ち上げをやりたいなどキャリア軸でのコースの両方があるんですけど、どちらにも、まんべんなく集まっています。

 

高井

インターンの面接ではどういった人を採るのですか。

 

野島様

まずは弊社のビジョンである「21世紀を代表する会社を創る」に共感していただける方です。一緒に会社を創っていく方を求めているのでその考えに賛同していただけるかが重要です。

また、素直で良い人を多く採用するようにしています。インターネット業界は変化の多い業界です。頑固で変化に対応できない人はうまくいかないことがあります。採用基準ということではないのですが人事で活躍している人材の特徴を話したことがあります。野心があり、行動力があり、成果が出せるかどうか。野心と行動力、この二つができている人は多いのですが、最後に成果を出すところにこだわれるかが重要ですね。最後、球際(注2)で成果を出すところまで頑張らなきゃいけない時も多く出てくるので。

(注2)球際:野球やサッカーで,ボールを勝負どころぎりぎりで打ったり捕球したり,あるいは蹴ったりすること。


高井

御社の平均年齢と社員の男女比について教えてください。

 

野島様

平均年齢は31歳強です。私が入社した時は平均年齢27歳ぐらいだったので、少し上がりました。男女比は、男性7対女性3ぐらいです。ビジネス職は、女性比率が高いのです。エンジニアの職種は、ほぼ9割近くが男性です。執行役員は10人中1人のみ女性ですが、マネージメントをする管理職は20%くらいが女性です。女性で2年目から管理職になる人もいます。

 

高井

女性が多いということで気を付けていることはありますか。

 

野島様

あまりマネージメントとしては変わらないですかね。あるとすれば、女性はライフイベントがあるので、目標設定のところで短期的に一番頑張れるところを引き出せるようにしています。

 

高井

今の若者がゆとり世代という感覚はありますか。

 

野島様

感じることは少ないですね。面接の際に、何がやりたいですかって聞くと、「裁量権がある仕事がしたいです」「新規事業をやりたいです」という人が多いのでよく言われるようないわゆるゆとり世代の人は当社には少ないのかもしれないですね。

 

高井

新規事業と裁量権がある仕事がしたいと。若手での実績はありますか。

 

野島様

内定者が入社までの間にアルバイトをしていた時に社長に抜擢されたことがあります。毎日日記のようにスマートフォンに写真をアップしていく写真共有アプリを本人が趣味で作っていたところ、それを会社化しました。その会社は、今、業態を変えて、スマートフォンのマーケティング会社になったものの、大きく成果を出しています。このように入社年次の若い世代が事業責任者や子会社社長に抜擢される事例は数多くあり、若手の活躍土壌としてはチャレンジしやすい環境だと思っています。

 

 

高井

それは素晴らしいですね。他に例はありますか。

 

野島様

女性が2年目からマネージメントに登用されることがあったり、20代のうちにサイバーエージェントの取締役に抜擢されることもあります。若手の抜擢機会は、会社全体にもチャレンジを実現できるという意識が増え、実際実現する機会も増えて行く良いサイクルになっていると思います。

 

宮本

会社としての大きな目標、掲げていらっしゃる社是というのは何があるんですか。

 

野島様

社是というものはありませんが、ビジョンとして、「21世紀を代表する会社を創る」というものがあります。このビジョンができて、会社の雰囲気も変わったと思います。私が入社したころは、目標が複数あり、何を目指せばよいのかわかりませんでした。そこで1つのビジョンに絞ったことで、みんながビジョンに向かって個性ある様々な発想を持ち始めました。

 

宮本

野島様にとっての21世紀を代表するっていうのは、どういうことになりますか。

 

野島様

この質問は学生にも面接で聞かれることが多いんです(笑)。私の個人的な意見になりますが、みなさんの想像する20世紀を代表する会社であるトヨタやソニーのように、世界的に圧倒的な成果を出し、かつその企業自体が多くの方に愛されているという2つが成り立たないといけないと思っています。これからも世界中で使われるようなサービスを提供し、みなさんに応援してもらえるような会社をつくらなきゃいけないと思っています。

 

高井

社会貢献、社会のため、国家のため、企業のためとよく言いますが、何をやったら社会のため、国家のため、企業のためになるのか、どうしても利益を上げることに目が行きがちですが、それを具体化することが愛されることにつながる。社員がこうなればいいとそれぞれ思うことを実現していくということ、21世紀を代表する会社、21世紀に誇れる会社になるというのは素晴らしいと思います。頑張ってください。

以上

 

 

 

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2017年7月29日(土)7:28 中目黒公園にてアガパンサスの蕾を撮影
花言葉:「恋の訪れ、知的な装い」

 

 

第8回 リストラの攻防


株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木昌一

 

1.初めての高井先生の著書

ご案内の通り、これまで高井先生は数多くの著書を出版されています。私がそれらの著書の中で最初に読ませていただいたのは「リストラの攻防」(1994年民事法研究会)でした。

前職西洋環境開発がいよいよ尋常ではない状態だということで、密かに管理部門で再建策を練らなければならなくなりました。そのことが当時の人事部長から私の上司であり先輩であった課長と私の二人に知らされ、人員を減らすことまで含めて検討しなければならないところまで逼迫していることを告げられました。

ですが、本連載の第一回目に書いた小さな関係会社撤退に関しては高井先生の指導を受け、なんとか対応しきれたものの、本体および他の関係会社をどうすれば良いのかさっぱり分かりません。そのとき「これを読むと良いよ。」と教えてくださったのが、最初に高井先生をご紹介下さった西武百貨店の人事部の課長でした。

その本が「リストラの攻防」でした。このブログの読者の方の中にはご存知の方も多いと思いますが、この本、並みの本ではありません。

 

2.大きな衝撃

まず、タイトル。

「リストラ」などという言葉がタイトルに入っている本など、当時は見たことがありません。このタイトルだけで十分衝撃的でした。

さらにカバーが真っ黒。これから学ぼうとする中身を暗示するような黒いカバーでおおわれています。

そこには後々高井先生から口を酸っぱくして叩き込まれた「短期集中、中央突破」で企業の苦境を脱するための人的リストラの方策が記されていました。

今も高井先生は「原則倒産の時代」であるとおっしゃいます。この本は誰しもが今所属している会社に倒産の危機が訪れる可能性があることを前提に企業人、とりわけ企業経営者や企業の幹部、人事担当者に向けて書かれています。

特に印象深かったのは、リストラを進める際に「神棚にお参りをしなさい」といった趣旨のことが書いてあることでした。そこまで腹をくくる必要があることなのか。私にとっては大きな驚きであり、覚悟をするきっかけにもなりました。

そして内容はというと、率直に言って、最初は意味が分かりませんでした。もちろん言葉は理解できます。ですが、そこに書いてある、しかもかなり平易な言葉で分かりやすく書いてある文章なのに、私の脳みそが勝手に拒否反応を示すのです。「そんなこと無理、とてもできる訳がない。」そうした潜在意識が邪魔をするのです。

後で考えると、もちろん限られたページですからすべてを書き記してあるわけではありません。しかし、逼迫した企業が何をすべきかは、その方策と具体的な方法が丁寧に紹介されているのでした。

 

3.人事権の法的展開

「リストラの攻防」に加えてもう一冊、先生の著書の中で人事担当者としての私が極めて実務的に参考にさせていただいた本があります。それが「人事権の法的展開」(1987年有斐閣)です。

これは当時頻繁に訪ねていた西武百貨店の人事部の方から1995年頃にたまたま

二冊あるからあげるよと頂いたものです。

この本は出版が有斐閣というということからもお分かりいただけるように、極めて専門的な書籍です。労働判例を紹介しつつ、法的な論点を挙げながら高井先生が解説をされている本格的な労働法務の本です。

労働法務と書きましたが、労働関係の問題は法律通りにはいかない部分が数多くあります。とくに解雇関係の問題は民法や労働基準法通りに定められている通りで良いと思ったら大変な問題になりかねません。

そのあたりの法律家でも恐らく分かりにくいと思われることを、丁寧に解説されています。人事担当をしていた当時、この本を読み込みいろいろな問題を想定しながら問題解決の方策を練る、そういうことで大変役に立った本でした。私にとっては人事実務の教科書でした。

西洋環境開発で人事部から異動になったとき、人事部の本棚に置きっぱなしにしておいたために手元に残っておらず、また、すでに絶版になってしまっていたために20年間目にすることができなくなってしまいました。

コンサルタントの仕事をするようになり、労務的な相談を受けたときに、「あの本があれば、似たような事案が紹介されていたよなあ」と思ったことが幾度もありました。

余談になりますが、それがこの4月にたまたまAmazonで検索してみると古書ですが、入手できることが分かり一も二もなくクリックをしました。

こうして改めて「人事権の法的展開」を読んでみると、紹介されている判例は、30年前の本ですから古くはなっています。しかし、その内容は今でも十分に参考になるものです。その一方で昭和50年前後の裁判では今ではとても考えられないようなことが起きていたことがよく分かります。

企業で人事労務を担当されている方には古書でもぜひ入手して参考にしていただきたい一冊です。

以上

 

 

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~アメリカ留学生活の所感~

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2017年7月9日(日)5:26 山中湖付近で撮影

 

 

~アメリカ留学生活の所感~

 

日向小夏

 

大学入学に当たり渡米してから、衝撃ばかりだった。十年間インターナショナルスクールで培ってきた遠い大陸の知識と、その実態があまりにもかけ離れていたからである。以下では、私が体験し、感じた「アメリカ人」という民族の特殊さを述べていこうと思う。

 

1.メディアに対する信頼の低さ

 

昨年、アメリカは大統領選挙で盛り上がりを見せていた。4年前のオバマ氏が勝利した選挙も見ていたが、とにかくアメリカ人はマスメディアに対する信頼度が低い。放送の内容、そして両候補が画面に映る時間などにも敏感で、偏ったメディアを嫌う傾向がある。特に20代の若者にその傾向が顕著で、彼らの間では国などの影響が少なく、言いたい放題言うことができるネットニュースが人気だ。中でも人気が高いのは、週に一度30分ほどその週に起きた政治ニュースについて語る「Last Week Tonight」というチャンネルだ。多いときは数千万回もの再生数をたたき出しているこのオンラインニュースチャンネルを筆頭に、今後、メディアはネット上での成長を遂げて行くだろう。

一方、日本では他の先進国に比べてマスメディアに対する信頼が著しく高い。話のソースを聞くと、「テレビで言っていた」と説明する人も少なくない。しかし、メディアに対する信頼が高いほど、世論誘導に流されやすくなる点には注意が必要だ。情報社会である現代では、メディアの情報を鵜呑みにせず、自分で考え、何が正しくて何が正しくないかを判断しなければならないと思った。

 

2.信頼しない信頼関係

 

アメリカ人は、フランクで友好的だとよく言われている。それを否定するつもりはない。アメリカでは挨拶も明るく、知らない人でも目を合わせただけで笑顔を見せてくれる気さくな人が多い。しかしそれと同時に、アメリカ人の交流関係は広く浅いというのも、よく言われることだ。実際にアメリカで知り合った人たちは、初対面から仲良く接することはできるが、深くその人物を知ることができないのがほとんどだ。

同じくアメリカの大学に通う日本人留学生の友達に、どうやったらアメリカ人と信頼関係を築けるか聞いたことがある。彼は「そもそも信頼関係なんてない」と答え、私はその時一見適当に放ったようにみえる友人の言葉に納得した。様々な背景を持つ人間が集まる場所だからこそ、本当に互いを理解するのが難しく、警戒心を解けずいつまでたっても友人に対して壁を作っているのかもしれない。アメリカ人はコミュニケーションにおいて、育ちも文化も言語も何もかも違う相手に対し、どのような言葉が適切でどのような言葉が適切でないか常に慎重に言葉を選んでいるような気がする。全てが自己責任な個人主義の社会が故に、信頼が深まりにくい環境となってしまった可能性も十分あり得るだろう。

 

3.ポリティカル・コレクトネス(PC)に敏感すぎる世間

 

日本ではあまり浸透していないが、アメリカやヨーロッパなどではポリティカル・コレクトネス(Political Correctness)という言葉がある。これは、政治的、社会的に公平で差別や偏見が含まれない表現を指す。例えば英語にはヒストリー(History)という言葉がある。歴史を意味する単語だが、近年はこの言葉すらも差別的な表現でないのかと議論されている。Historyは彼の(His)、ストーリー(story)の二つの単語から成り立っているため、まるで女性が築いてきた歴史が含まれていないようだと抗議の声が上がっているのだ。他にも似たように使い慣れた不適切な言葉に対する言語改革が求められている。しかしPCに敏感になり過ぎていることが多々あることも事実で、発信が窮屈に感じることがある。

 

以上が私の体感した「アメリカ人」という民族の特徴だ。時に偏重的でもあるが、ネットリテラシーの高さなどを含め、日本人に足りないものを多く痛感した。日本人は内に籠りがちだが、積極的に外の世界に出て行き、他国・他民族の優れている点を学ばなければ、これからますますグローバル化し、情報化していく時代を乗り切ることはできないだろう。

 

以上

 

 

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<イッピン>
光國本店「夏蜜柑丸漬」

 

 

20170809IMG_3679.JPGのサムネール画像

 

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先日、萩市を訪問した際に、夏みかん菓子の専門店「光國本店」にお邪魔した。

 

このお店の看板商品「夏蜜柑丸漬」を、私はここ数年、親しい方やお世話になった方に決まってお贈りしている。

テレビ番組で取り上げられたことで有名になり、一時は入手困難になったほど、その美味しさは誰もが認めるところである。

 

 

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光國本店の夏蜜柑丸漬は、大正5年、3代目光國により考案された。

 

アクを取り除いた夏蜜柑の皮を、大正5年の創製時から使用している糖蜜で煮込み、穴を開けて身をくり抜いたところに白あんの羊羹を流し込んで作られるこのお菓子は、なんと、1個を作り上げるまでに5日もの時間を要するという。

一つ一つの行程における手の込みようが窺われるが、その甲斐あって、皮のほろ苦さと羊羹の甘味がマッチした、稀に見る美味しさのお菓子となっている。

 

私が贈った方々からも「とても美味しい」と好評で、中にはわざわざ手紙で「確かな匠の技術を感じた」とその感動を伝えて下さった方もいたほどだ。そういった時は、私の親愛の気持ちや感謝の気持ちが、このお菓子を通してその方に伝わったことが分かり、いつもとても嬉しく思う。

 

上質なお菓子は、人と人とを繋ぐ力をも持つのである。茶会で上質な和菓子が出されるのも、そのことの表れであろう。

 

以上 

 

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2017年7月29日(土)7:26 中目黒公園にてカワラナデシコを撮影
花言葉:「大胆、可憐」

 

 

第30回 経営理念と賃金ダウン(上)
(2009年7月13日転載)

 


賃金ダウンは、細心の注意を払い、思いやりと愛情を持って―高井伸夫弁護士は、日本経済が長期停滞期に突入し、賃金ダウンもやむなしの状況にあると訴えている。説得力のある大義名分を掲げ、従業員から共感を得る努力がその前提である。

 

「我というその大元を尋ぬれば、食うと着るとの二つなりけり」、人間世界のことは政治も教法(物事を教える方法)も、みなこの2つの安全を図るためのものであって、その他は枝葉である潤色にすぎない(『二宮翁夜話』参照)。

江戸時代後期の農政家・思想家二宮尊徳(1787~1856)は、こう説いて「衣食足りて礼節を知る」の道理を明らかにした。

仕事を持つ者の約8割強が雇用者(正規・非正規・派遣・契約等を含む。役員を除く)として就業する雇用社会であるわが国において、衣食を支える生活の糧は何よりもまず賃金である。そこで、フルタイム労働者の平均月額賃金(男女計・残業代除く)の推移をみると、2001年に最高額30万5800円となったあと翌02年から前年を下回り始め、05年にほんの僅か持ち直したものの再び下落し、賃金ダウンの時代が続いている。

また、消費者物価指数を勘案した実質賃金も98年から下がる傾向がみられる。00年・05年を除き01年以降下落基調にあり、日本人が統計的にも01~02年頃から貧しくなっていることが窺える。加えて、確かな統計はないものの退職金や企業年金もこの時期減額されたはずである。衣食の確保が危うくなりつつある貧困化の状況は長引く不況のもとますます進行すると予想される。ちなみに08年の平均月額賃金は29万9100円(男女計)で、10年ほど前の98年当時の水準に戻っている。またこの夏の賞与は、近来にない激しい落ち込みをみせるだろう。賞与を全く支給できない企業も相当数に上るはずであり、賞与時に増額する住宅ローン返済では特に支払いが滞り、自宅を手放す人が増えることも危惧される。

 

重要性増す「経営理念」

日本を含む世界経済は「L字」型の長期停滞時代に入ったという分析もあり(『エコノミスト』平成21年6月16日号)、各企業は「社会情勢や当該企業を取り巻く経営環境等の変化に伴い、企業体質の改善や経営の一層の効率化、合理化をする必要に迫られ」(みちのく銀行事件=最判平12・9・7)ており、引き続き賃金ダウンやむなしの状況に直面している。

そこで本欄「夏号」では、不況下における賃金ダウンのあり方について、主に経営理念との関係を念頭に置いて論じたい。

経営とは、事業・企業を運営していくことであり、経営理念とは、経営者が「どのような会社にしたいか」「どのような会社として社会に貢献したいか」を明らかにし、同時に日々の経営活動において重視する姿勢・価値観・目的等を表すものである。とすれば、経営者による評価の結果である賃金は、「株主に対する配当」「内部保留」等とのバランスにおいて経営理念が反映される重要な一場面であり、従業員等に対する最も分かりやすい経営者の意思表示である(この点、企業の将来のための経営判断事項である内部留保はともかく、生活の糧である賃金には株主への配当以上に重きが置かれて然るべきである)。

それゆえに、経営者には賃金の決定について大きな責任と覚悟が求められることは言うまでもない。事業体を運営する経営者が、ある局面では自らと対峙する立場にある従業員等に支給する賃金額は、経営理念即ち経営体の選択する価値観等によって大いに左右されるのである。

回を改めて論じる「みちのく銀行事件」等最高裁判決および労働契約法9条・10条によると、必要性・相当性・合理性等が然るべく備わっていれば、従業員等の個別の同意がなくとも就業規則による賃金の不利益変更は認容されるので、これに反対する従業員に対しても就業規則の変更によって賃金を引き下げることは可能である。このように企業の人事労務の基本である就業規則・賃金規程には経営理念のエッセンスが反映されるべきことに鑑み、経営理念と賃金制度・賃金ダウンは直結していると言ってよいことになる。

 

説得力ある大義名分

本欄「09年春号」でリストラ問題を論じた際にも指摘したとおり、企業の社会的責任とは、まずは企業が存在し続け雇用の場を提供し続けることであって、存亡の危機に万策尽きた場合には、まがりなりにも企業を存続せしめて従業員等に賃金を払い続けるために、賞与・手当等を含む賃金の額を削減することはやむを得ないことになるのである。

そしてそれと同時に、「企業は人なり」という至言のとおり、正に企業は人によって成り立つ集合体・協働体であることを忘れてはならず、賃金は労働の対価であることはもとより、従業員等の「人」としての生活と生存を保障するものでなければならない。彼らにとっては、一家の収入源としての賃金の総額が何より重要な問題なのである(ドラッカー著『企業とは何か』参照)。もし、賃金の引き下げにより従業員等の生活保障が危うくなれば、衣食が満たされなくなり、生活もその家族をも含む人生そのものが毀損されてしまう。そうなると彼らから大きな反発を受けるのは必然であり経営も成り立たなくなる。こうした事態にならないよう、賃金ダウンには細心の注意を払い、思いやりと愛情をもって行わなければならない。

賃金ダウンを実施すると、①優秀人材が退職するリスク、②とかく“含み損社員”が組合に加入ないし結成するリスクが生じるが、前者のリスクを回避するためには、賃金ダウンの状況を従業員等に納得させ、少なくともそれを納得させるための努力を尽くさなければならない。

加えて、賃金ダウンを実行する経営者には、「以って範を示す」態度と、万策尽きて人件費に手を付けるという悩み抜いた姿勢が求められる。そのためにも、従業員等に先んじて経営者自身が大幅な報酬カットを甘受し、痛みを伴わなければならない。そうした共感を形成してこそ初めて、従業員等の諦念、納得を得られるからである。

そして、優秀人材を引き留めて、彼らが将来展望があることを確信し当該企業で活躍し続けるためには、賃金ダウンを選択せざるを得なかった経営者自身が、自らの経営力の衰えと陳腐化という事実を十分に自覚し、経営の現場から退場するという覚悟をもって、強く省みかければならない。それには、経営陣の交替や他社との合併・統合をも視野に入れた様ざまな経営刷新を断行することが必要となることは言うまでもない。

このように、企業の将来を見通しながら、説得力ある「大義名分」をいかに従業員等に示すかが、賃金ダウンを成功させる大きなカギとなるのである。

 

 

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  • 今、話題のテーマについて各界で活躍している方々と対談をする一問一答形式のブログの第18回目です。
  • 第18回目は、法政大学名誉教授諏訪康雄先生です。

 


 

■ ■ ■ ■ 時流を探る~高井伸夫の一問一答(第18回)■ ■ ■ 
法政大学 名誉教授 
諏訪康雄 先生 

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[法政大学名誉教授 諏訪康雄先生 プロフィール]

1972年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了、1974年~76年ボローニャ大学(欧州最古の総合大学)留学。1977年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学、法政大学社会学部専任講師、教授を経て、2001年法政大学大学院政策科学研科教授、2008年同政策創造研究科教授、2009年労働政策審議会会長、2013年法政大学名誉教授、2013年~2017年2月中央労働委員会会長。

2017年6月より、認定NPO法人 キャリア権推進ネットワーク 理事。

著書に「雇用と法」(放送大学教育振興会・1999年)、「キャリア・チェンジ」(編著・生産性出版・2013年)、「雇用政策とキャリア権―キャリア法学への模索」(弘文堂・2017年)等。

諏訪康雄先生と高井伸夫

写真左から諏訪康雄先生、高井伸夫

[今回のインタビュアー・同席者は以下の通りです]

  • 高井伸夫 
  • 宮本雅子(秘書) 

取材日:2017年6月15日(木)日本工業倶楽部会館2階ラウンジ

 


 

高井

キャリア権というものを発想して何年ですか。

 

諏訪先生

キャリア権の基本構想が自分のなかでまとまったのは1995年ころですから、22年ぐらいでしょうか。初めて海外の国際学会で発表したのが1996年です。オーストラリアのホバートの国際労働法学会のアジア支部大会で報告しました。その時はまだキャリア形成への権利という感じで説明をいたしておりました。

それを今のような姿に近い形にまとめて説明をしたのが1998年ボローニャ(欧州最古の大学がある)での国際労使関係研究学会の世界大会です。総括報告者として提唱をいたしました。これは多少反響がありまして、スウェーデンの研究者がいたく関心を示してくださいました。スウェーデンでは、失業給付を出す条件として然るべく教育訓練コースに行くことなどを義務付けるわけです。さまざまな再チャレンジ措置などの一連の政策措置はキャリア権という概念を使うと位置づけしやすくなるということのようです。

 

高井

今、キャリア権を勉強している学者はいるんですか。

 

諏訪先生

日本でキャリア権は随分、反応が出てくるようになりまして、労働法学者だけでも10人以上がキャリア権に関して議論や言及をしてくださっている(他分野の研究者でも少なからぬ言及がある)。比較的、有力な研究者が反応を示してくれています。実は今、労働法学会は新しい「労働法学会講座」(全6巻)を刊行していますが、ついに「キャリア権」を扱う1章が登場し(慶応義塾大学の両角道代教授が担当)、いわば学会に認知された形になりました。おかげさまで、ようやく単独説状態を脱して「有力説」扱いとなったようです。しかし、多数説になるかどうかは世の中の流れを見ませんと分からないですね。ともかく、塩崎恭久厚労大臣(注:インタビュー当時)もキャリア権という言葉を知っているところにまでは今、来ています。

 

高井

若手でキャリア権を研究している人はいるのでしょうか。

 

諏訪先生

先日、東大の労働法研究会からの依頼で、キャリア権をめぐる諸問題について報告いたしました。辛抱強く種を撒き、育てていけば、研究テーマにキャリア権を選ぶ人が、いずれ出てくると思っています。例えば、就労請求権をもっときちんと考えるというのはキャリア権を具体化していくときのコアになる重要な権利概念ですから、誰か若い人にドクター論文等でやっていただきたいと希望しています。

ただ、どうしても、日本型雇用慣行の中で、就労請求権を強く言うと、いろんな形で難しい副次的な問題が起きます。今さら言うまでもなく、消極説をとる裁判所もそういうふうに見ているのでしょう。そういった問題があるだけに、私は若い人にとっては非常にチャレンジングないいテーマだと考えています。

 

高井

キャリア権が多数説になるにはどうすればいいのでしょうか。

 

諏訪先生

結局は、仕事の世界と日本型雇用形態がどう変わっていくかが影響するでしょう。日本型雇用が変わっていったとき、これまでの人材育成や処遇の方式が変わって、キャリアをもっと正面から重視しないと企業も従業員も前へ進めないということになれば、少なくとも理念的には、キャリア権という考え方への関心も高まってくると思います。

 

高井

先生の考える、キャリア権の今後の展望について教えてください。

 

諏訪先生

これからの時代は間違いなく個人のキャリアを大事にしないと回らなくなると思います。AIやロボット化などのイノベーションが起こる。そういう中で人が持つ創造性、統合力、コミュニケーション能力や人間的な魅力がますます重要になってきます。創造性や人間的な魅力は、外から他人が押し付けてどうなるもんではないです。外から刺激を与えて人々がその方向に動き出すようにすることは大切ですけれども、その後は個々人が主体的に対応しなければ能力形成はとても無理です。これからの労働、仕事の世界で非常に重要な部分は、人が主体的にキャリアを形成していくという基本線に依拠していくと思います。

 

例えば、グーグルの人事担当者が書いた「ワーク・ルールズ!」という本には、読むとびっくり仰天するようなことがいろいろ書いてあります。それを読み、また、日本でのクリエイター企業の人事の話を聞くと、最先端のコンテンツ産業とか、IT産業はどういう働き方をさせなきゃいけないのかというのがかなり見えてきます。さらにそういう産業の最先端では、従来、製造業をはじめとする企業でやっていたような査定という問題、人事評価をこれまでと同じような形ではできないのではないかと思えます。

 

高井

従来の査定、人事評価ができなくなるのですか。

 

諏訪先生

評価の仕方は、徐々に、専門領域などを理解し、かなり中長期的な視点で見ていかなくてはいけなくなってきます。そうすると、まるで大学の先生や芸術家への評価みたいなものに近づいていくようです。そうなってくると、ここでも重要なのは当の本人がキャリア意識を持って、キャリアを形成していくという意欲や習慣やスキルを持つことではないかと思っています。

このように考えると、100人働く人がいたとき、全員がそうだとまでは思いませんが、最先端を走る人たちにとってキャリア形成が喫緊の課題となるだけでなく、知的なものを含めたサービス業や感性労働に従事する人たちにとっても、また、組織内でさまざまな仕事をする人にとっても、この仕事なら〇〇さんだよねという、独自の個人ブランドの形成が要請されていくことでしょう。物を売るにしても、商品やサービスをめぐるストーリーを作って、消費者の要望を満足させていく、そのような働き方をする人たちにとっては、キャリア形成というものがさらに重要になってくると思います。

知識集約産業ではこういう知識を担う人材の争奪戦が起きていますが、各種の知識サービスや感性サービスを担う人材の能力形成も重要な課題になり、そのためにはその人たちのキャリア権みたいなものをしっかり踏まえて、それを支援したり、尊重したりしていくことが不可欠になるのではないかと見ています。

 

高井

キャリア権の法制化が具体的に実現するのはいつ頃でしょうか。

 

諏訪先生

私は今から30年くらい前に、テレワークについて熱心に調査していました。当時は世間の反応が乏しかったのですが、今や働き方改革の目玉の一つとなっています。それらの経験からしますと、時代が追いつくのに30年ほどかかりますので、キャリア権も唱え始めてからまだ20年ほどですから、あと10年ぐらいはかかるかなと思っています(笑)。

 

高井

キャリア権を法制化するには、どういった方法があるのか、先生のお考えを教えてください。

 

諏訪先生

キャリア基本法というような形だったら超党派的にやれる可能性があるのではないかという気がしております。その中に、スポーツ基本法の前文でのスポーツ権と同じように、あるいは別建ての理念規定の条文として、キャリア権の理念を書き入れる方向が考えられます。そうなりますと、もう一段先へ行けるかなと思っています。

平成13年職業能力開発促進法改正により「職業生活」にキャリアの意味が明確に盛り込まれてから、厚生労働省系の法令では、多くの法令に「職業生活」という言葉が入ってきました。女性活躍推進法の場合は、「女性の職業生活」という言い方で女性のキャリアに関連する言葉がついに法律のタイトルにも入りました。「職業生活」に何らかの形で言及する法令は、はや49本になりました。

ところが、厚生労働省とほぼ同時期にキャリアの問題(キャリア教育)に着手した文部科学省は、その根拠になる特段の法を作っていないようです。教育基本法の諸規定を読み込むことで導き出せるとの考えでしょうが、免許状更新講習規則で「キャリア教育」の語が出てくる程度です。私は文部科学省系のキャリアの定義と厚生労働省系のキャリアの定義が大きくかい離することはよろしくないと懸念していますし、キャリア教育の基礎にキャリア権を置くことが望ましいと思っています。

よく知られているように、こういった省庁間の調整は極めて難しいので、議員立法で解決をはかる。議員立法で、キャリアの尊重と形成というところだったら、おそらく総論ではまとまると思っています。

 

高井

議員立法は可能性がありそうですね。

 

諏訪先生

漠としているにせよ、ともかくこれからの時代は個々人のキャリアを尊重し、伸ばすようにしていかないと、個人も、企業も、社会もきわめて難しい事態に遭遇すると懸念されます。それだけに、子ども、若者、さらには若手社員、中年、中高年へのキャリア教育・学習は、どれも不可欠です。

いずれにしても、文部科学省が生涯学習政策局を有し、また、学校でのキャリア教育を担っているのですが、キャリア教育はキャリア権を踏まえたものであるべきだと考えます。個々人のキャリア権を実現する基礎、前提としてキャリア教育があると考えています。また、経済産業省も産業人材という観点からキャリアの問題にやはり関心を示しています。とはいえ、経済産業省と文部科学省と厚生労働省の間で調整をさせて、キャリア権に関する基本法の制定をしようなんていったら、これはもう大変な時間と手間がかかるのではないかと想像します。そこで結論として、議員立法のほうがいいかなと考えています。

そのようにして成立する基本法や関係諸立法を踏まえ、実務の現場がそれぞれに工夫して、キャリア尊重と支援により、労使にも社会にもウィンウィン関係が成立するような時代が来ることを切に願っています。

 

以上

 

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20170802IMG_3762.JPG

2017年7月29日(土)7:26 中目黒公園にてアフリカンマリーゴールドを撮影
花言葉:「信頼、逆境を乗り越えて生きる」

 

 

<働き方改革> 第3回 日本航空株式会社

 

働き方改革第3回では、天王洲アイルの日本航空株式会社(以下、「JAL」)本社に伺って、執行役員兼人財本部長の小田卓也様と人財本部人財戦略部部長の福家智様にお話を聞きました。お2人ともJAL内での働き方改革に尽力され、大西賢取締役会長が「実務派」と太鼓判を押す方々です。

2010年の経営破綻から7年。社員が心身ともに健康的に働ける環境を築き、見事に復活を遂げたJALの働き方改革に迫ります。

 

1 社員を大切にするための働き方改革

(1)社員の意識改革

①トップからのメッセージの発信

2010年の経営破たん後、組織改編や仕事のやり方の見直しに伴い、多くの社員が遅くまで残業する状態が恒常化していたそうです。

その中でも特に多忙であった調達本部が、「社員を疲弊させてはいけない」という思いから、ワークスタイル変革に先陣を切って取り組んだことから、JAL社内での働き方改革は始まったといいます。

この変革について、今回お話を伺った小田様と福家様のお二人が口を揃えて仰られたのは、経営トップである社長から発せられるメッセージの大切さです。

これは社内に発信される社長メッセージにより全社員に告知されるそうですが、2011年から発信を始め、過去にはダイバーシティや女性の活躍推進なども取り上げ、今年はワークスタイル変革の第二段階への取組みを明言されたそうです。

組織のトップからのメッセージには、当然強さがあります。お二人の言葉通り、このメッセージにより、社員が働き方に対する意識を変えて、JAL社内でのワークスタイル変革の推進はよりスムーズになったと言えるでしょう。

 

②ワークショップの開催

また、その他に、社員の意識を変える方法として、JALではワークショップを開催して、ワークスタイル変革について社員が学ぶ場を作り、意識の浸透に努めているそうです。

このワークショップは、収容人数300人ほどのホールを、6つくらいのテーマで分割し、各々のブースで「業務プロセス改革とは」、「テレワークとはどのようなものか」といったテーマを取り上げで講演を行うそうです。参加した社員は、大体1時間で3つ程度のテーマを聴講し、ワークスタイル変革への理解を深めることができます。

これまでに30回程開催されたということで、従業員数1万人を超える大企業ながら地道に取り組んでいく姿勢からは、ワークスタイル変革達成への強い意志が感じられます。

 

(2)ワークスタイル変革の中身

①残業時間の削減

社員の意識の変革については上で述べた通りですが、肝心のワークスタイル変革そのものとしては具体的にどういったことに取り組んでいるのか伺ったところ、まず出てきたのが「徹底した残業時間の削減」といった答えでした。

具体的には、年間就業時間を1,850時間とすることが最終目標ということで、そのためには、年休取得日数20日と、月の残業時間5時間というのが、条件となるそうです。

現在、JALでは部署でバラつきはあるものの、徹底した変革への取組みのおかげで、年休の平均取得日数は17日、月の平均残業時間は11時間になっているそうですが、目標達成のためには、これを更に超える年休の取得と残業時間の削減が必要になってきます。

 

②仕事の効率化

上記の目標を達成するための方策として、小田様と福家様ともに、「業務を見直して、効率の良い働き方、業務プロセスを作成する」ということを、まず検討しているとのことでした。

これについては、オフィスのレイアウトを変更して、無駄な資料を処分し、フリーアドレス化することで打合せの場として使用するスペースの割合を増やす、また、どうしても集中したいときに2時間限定で使用できる席をオフィスの端に設けるなどして、生産性の向上に努めているそうです。

オフィスの写真を見せていただきましたが、確かにすっきりとしていて使い勝手が良さそうです。また、集中するための席も、窓際に設置されているため、周囲を気にせず仕事に没頭できることが想像できます。

この席は実際に人気が高く、常に誰かが使用しているとのことでした。

 

③新しい制度の取り入れ

その他にJALが新しく取り入れた制度として、在宅勤務や不妊治療受診のための休職制度、配偶者の転勤同行休職制度、といったものがあるそうです。

週1回まで認められている在宅勤務は、メールでの申告を認めるなど、申告プロセスを簡易化することで利用しやすくなるよう努めたとのことで、利用延べ人数が直近12ヶ月では延べ人数5,000人超となり、昨年に比べて倍近くと

大幅に増えたそうです。

また、社員のニーズを捉えた休職制度について伺うと、「JALでは、働くためのサポートと休むためのサポート両面から両立支援の取組みを行っている。基本的には、働くためのサポートを主題として進めているが、セーフティーネットとして休むためのサポートには何が必要かという観点から社員のヒアリングを進めた結果、生まれた制度である」旨の説明をしていただき、前回の開倫塾と同様、健全な企業経営のためには、社員の声に耳を傾けることが大事であることを実感しました。


④健康推進企画 JAL Wellness活動

JALではまた、社員の健康管理をどう考えるか、という切り口から、産業医の力を借りて「健康推進企画 JAL Wellness」を2012年から継続して続けているとのことです。

当初は、ウェルネスリーダーを始めとした一部の社員の中での「健康推進のために階段を利用しましょう」、「運動会を開催しましょう」といった自主的な取組みだったそうですが、経済産業省と東京証券取引所が日本再興戦略の一環である「国民の健康寿命の延伸」に対する取組として主催する「健康経営銘柄」を獲得してから、徐々に社内でも注目され始め、今ではJALの目玉と言って良い企画となっています。

「健康経営銘柄」は、従業員の健康に関する取組についての調査を行い、その分析・評価結果を基準として選定する企業を決定するというものですが、応募をすると、健康経営銘柄に選ばれなかった場合でも、他企業と比較して優れている点や劣っている点、日本の企業の中でどれくらいのレベルに位置するのか、といったフィードバックを得ることができるので非常に有用な制度であるとのことです。

JALは2017年には3年連続での健康経営銘柄を獲得するまでとなりましたが、健康経営銘柄は毎年審査により入れ替わり、各業界につき1社しか選ばれないため、3年連続というのは実は非常に大変なことだといいます。

 

2 まとめ

今回、小田様と福家様のお話を伺い、最も印象に残ったのは、JALという企業がそこで働く社員を非常に大切にしている、ということです。

戦後必死に働くことで経済成長を果たした日本ですが、現代においては、企業で働く社員が心身ともに健康であることが、企業がさらに成長し、長く存続していくために必要不可欠な要素であると言っても過言ではないでしょう。

企業における働き方改革が形だけのものにならないためにも、「社員が健康に働くことができる環境を作る。ひいてはそれを企業の成長に繋げる」といった根底にあるべき意識を明確にし、動機付けを行うことは、極めて肝要だと思います。

 

以上

 

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