時流を探る~高井伸夫の一問一答(第6回)遠藤拓郎先生、大野裕先生、山岡昌之先生(50音順)

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  • 今、話題のテーマについて各界で活躍している方々と対談をする一問一答形式のブログの第6回目です。
  • 第6回目は 遠藤拓郎先生、大野裕先生、山岡昌之先生(50音順)です。

 

■ ■ ■ 時流を探る~高井伸夫の一問一答 (第6回) ■ ■ ■

 

  • スリープクリニック調布 院長 遠藤拓郎先生
  • 一般社団法人 認知行動療法研修開発センター
    理事長 ストレスマネジメントネットワーク 代表 大野裕先生
  • 日本摂食障害治療研究所 所長 山岡昌之先生


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

先生方と高井のお写真

左より、大野裕先生、高井伸夫(列後ろ)、遠藤拓郎先生、山岡昌之先生
取材日 2016年7月24日京懐石みのきち新宿住友ビル店


[先生方のご紹介] (50音順)

(スリープクリニック調布 院長 遠藤拓郎先生)

東京慈恵会医科大学卒業、医学博士 睡眠学会認定医師 日本精神神経学会 精神科専門医

スリープクリニック調布、スリープクリニック銀座、スリープクリニック青山を開院し、現在は調布院長。祖父は小説「楡家の人びと」のモデルとなった青山脳病院で不眠症の治療を開始し、父は日本で初めて時差ぼけの研究を行った。祖父の代から三代で、九十年以上睡眠研究を続ける睡眠医療の専門家。

 

(一般社団法人 認知行動療法研修開発センター 理事長 ストレスマネジメントネットワーク 代表 大野裕先生) 

1978年慶應義塾大学医学部卒、2011年6月より国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター所長。日本認知療法学会理事長。日本ストレス学会副理事長。うつ病などに対する認知療法の権威であり、専門書や一般向けの著書を多く執筆している。

 

(日本摂食障害治療研究所  所長 山岡昌之先生)

1973年東京医科歯科大学医学部医学科卒。1977年より、国家公務員共済組合連合会九段坂病院内科に勤務。

日本心身医学会や日本摂食障害学会の理事、日本心療内科学会の副理事長などを務め、摂食障害治療をリードしてきました。診療の際には全人的医療を心がけ、特に母子の信頼関係の確立を目指す再養育療法(注1)に力を入れている。2013年3月で九段坂病院を定年退職し、日本摂食障害治療研究所所長に就任。専門機関での研究と診療に従事する。

また、摂食障害の支援・啓発・予防を目指して、2016年3月に設立された、日本摂食障害協会の理事も務めている。

注1 再養育療法:摂食障害の患者さんには、しばしば「退行」(子供・幼児返り)現象が見られる。退行する心を受け止め、親子関係(特に母子関係)をもう一度構築しなおし、育てなおす治療法を「再養育療法」という。

 

【今回のインタビュアーは以下の通りです】

  • 弁護士 髙井伸夫

 

 


 

高井

本日はお集まりいただきありがとうございました。先生方の近況をお伺いしたいと思います。まずは大野先生、近況を教えてください。

 

大野先生

私は5年前に、国立精神・神経医療研究センターにできた認知行動療法センターへ慶應大学病院から移りました。去年の3月に定年になり飯田橋に事務所(ストレスマネジメントネットワーク、大野研究所)を作りました。現在は、基本的には研修や講演が中心で、企業内診療所での診療なども行っています。ストレスチェックが始まったので、その関係の講演もよくあります。

 

高井

ストレスチェック制度の導入には企業の研修が必要ですか。

 

大野先生

研修は必要ありませんが、現在のストレスチェック制度には3つの課題があると私は考えています。それは、高ストレス者でも手を挙げる人がほとんどいないという課題、高ストレス者の面談が1回では終わらず継続的なフォローが必要になるという問題、そして、手を挙げなかった高ストレス者に対する保健指導をきちんと行うという課題の3つです。

高ストレス者の医師面談をEAP(注2)などの外部機関に委託する企業も少なくありませんが、外部の医師では企業の実状がわからず、現実に即さないアドバイスをされるリスクもあります。そうしたリスクを避けるためには、企業の中で実施できる人材を育てる必要があります。私が事務所を立ち上げたのは、そうした人材を育てるための研修を実施するためです。最近は、(株)リクルートスタッフィングと一緒に、保健師さんや看護師さんにストレスチェック後の相談に乗れる「ウェルネスアドバイザー」の研修をして派遣するという事業に取り組んでいます。私が監修しているウェブサイト『こころのスキルアップトレーニング』を企業でのメンタルヘルス不調の予防に活用する実証研究にも取り組んでいます。

注2:EAPとは Employee Assistance Program の略であり、従業員支援プログラムのこと

 

遠藤先生

ストレスチェックは労働者のためですか。それとも企業のためですか。

 

大野先生

もともとは労働者のためですが、メンタルヘルス不調による経済損失の大きさを考えると企業のためでもあります。

 

高井

次に遠藤先生の近況を教えて下さい。

 

遠藤先生

実は僕のキャリアの半分くらいは基礎医学です。北大の講師をしていましたが、実家の病院へ戻りまして、実家が古くからの精神病院だったのですが、自身のキャリアを拡げようと思いまして、スリープクリニックというのを作りました。そうしたらありがたいことに全国から患者さんが来て、銀座と青山にもスリープクリニックを作りました。北大から東京へ帰ってきた時に、もう学問はやめようと思い全部投げ捨てて帰って来たのですが、縁あって最近は女子栄養大学の客員教授になり、慶應大学でも睡眠外来をやるということになりました。どんどん睡眠のフィールドが広がってきているというのが現状です。

 

高井

具体的にはどういった治療を行うのですか。

 

遠藤先生

実際には僕らは患者さんが眠れないといってもその人の話を聞くことはありません。睡眠計を患者さんに付けてもらいます。昼も夜もずっとつけてもらいます。この睡眠計は昔は100万円くらいしましたが、今はおそらく数千円です。腰につけてもらいます。

 

高井

それはどうやって分析するのですか。

 

遠藤先生

コンピューターで一瞬で分析できます。JRの運転手さんがちゃんと寝ているのかとか、眠れないと言う不眠症の患者さんが実は昼間に5時間寝ていることも分かります。実際に本当に眠れていないと言う人はほとんどいません。どこかで眠れています。診察で、眠れる、眠れないという押し問答のような患者さんとのやり取りは一切しません。データではこうですよと言って、治療の方針を決めます。

 

高井

山岡先生の近況を教えて下さい。

 

山岡先生

2013年3月まで九段坂病院で副院長をしておりました。65歳になり九段坂病院を辞めて、私の孫弟子が池袋で開業したので、同年4月より、私はそこを助ける形でやっています。私は摂食障害をずっと専門にしていますから、九段から200名くらい摂食障害の患者さんを連れてきて、原則新患を取らない形で診ています。

母校では今でも医学部学生に対し、「心身症と摂食障害」の講義を頼まれてやっております。その他心療内科医として、いろんなことをやっています。

摂食障害の治療との関係で、最近はオキシトシンにはまっています。近年オキシトシンに関する研究は活発で、すごい勢いで世界中から論文が出ています。摂食障害に関しては、オーストラリアと韓国で拒食症に対し、オキシトシンの鼻粘膜投与に関する治験が始まっています。

摂食障害の治療に携わっているなかで再養育療法という治療法を開発して母子関係のところにどんどん入りこんでいきました。ピュアな摂食障害というのは母親を強く求めます。他の障害との併存がないようなケースでは、再養育するだけで、ほとんどがよくなってしまいます。再養育療法でどうしてよくなっていくのか理由がわからなかったのです。そこで、はたと気が付いたのがオキシトシンでした。

オキシトシンの研究者によると、オキシトシンは母子間に相互的な強い絆を形成する、すなわち愛着を引き起こすホルモンということで脚光を浴びましたが、もともとは、分娩や、乳汁分泌の場面で見つかった物質です。今は心の領域にも非常に関係しているということが分かってきて、アメリカでは統合失調症とか、自閉症に投与が始まっています。

他のホルモンはネガティブフィードバックでコントロールされるのに対し、オキシトシンはポジティブフィードバックで分泌されており、オキシトシンの分泌は、更なる分泌に通じる面白い機序(注3)でコントロールされているホルモンです。

注3 機序:しくみ、機構、メカニズム

だいたい2歳、いわゆる臨界期と言われている1歳半から2歳くらいまでの間に、人間の心の基盤は作られるようです。このオキシトシンを分泌するシステムが十分に機能するようなものを持っている人は、ストレス耐性があるということがわかってきました。

オキシトシンはどういう仕組みで分泌されるかというと、皮膚への適度な圧によるマッサージや、関節や筋肉が動かされることによって感覚神経が活性化されると、オキシトシンが脳内で分泌されるということが全ての哺乳動物で分かっています。したがって理学療法の効果の一部はオキシトシンの効果だと言われています。論文も多く出ています。オキシトシンとエンドルフィンが関係するというのも分かってきました。今までエクセサイズでランナーズハイというとエンドルフィンしか分かっていなかったですが、実は運動することによって関節・筋肉が動かされてオキシトシンが分泌されて、さらにエンドルフィンが分泌される。これが1つのサイクルになっているというのが分かってきました。

つまり、このオキシトシンがエンドルフィンの放出を促すので、オキシトシンは運動とエンドルフィンをつなぐ生理学的なリンクのひとつと言えましょう。

 

高井

山岡先生もおっしゃいましたが言葉で語るより体を触った方がよいということがあります。古代医学、原始医学では、三つの方法で治したといいます。1つ目は愉気、祈り、2つ目は手当、3つ目は看護。ある動物は、病気になった個体の周りに座るんだそうです。そしてじっと病気の個体を見つめ、病気になった個体は見つめられていると治っていくと聞いたことがあります。看護の世界、愉気というのは祈りをささげることです。これは脳が一定レベルに発達した動物にみられる現象と何かの本で読んだことがあります。

 

大野先生

原始的、瞬間的な反応の1つに「パニック発作」があります。何かのきっかけで急に不安が強まり、心臓の鼓動が高まる。顔は青ざめ、手のひらや足の裏にじっとりと汗がしみ出してくる。体の反応にこころが反応してますます不安が強くなり、そのために体の反応も強まっていく。こうしたこころと体の悪循環が急激に起きるのです。原始時代の体の反応だと思います。

私達の祖先は、例えば天敵に襲われそうになって危険を感じるとき、緊張して戦闘態勢に入りますが、こうした心身の変化は、原始時代には必要でしたが、動物と闘う必要のない現代社会ではかえって負担でしかないでしょう。パニック発作が現れたときには、そう考えて冷静になれると不安はやわらぐのではないでしょうか。

 

山岡先生

瞑想はオキシトシンの分泌を高めるというデータもあるようです。

 

遠藤先生

オキシトシンはタブレットで補充するのですか。

 

山岡先生

胃液で消化・分解されてしまうので、ダメです。注射か、鼻粘膜投与、その2つしかありません。

 

高井

話は変わりますが、認知症は、インド医学によると冬瓜を食べるといいそうです。冬瓜を食べると認知症にならないと聞きました。

 

山岡先生

米ぬかも良いと聞きます。実際に使われているようです。すでに栄養食品として売られております。精神科と神経内科の中で認知症を専門にしている先生たちがその知見の広報に努めておられます。ただの米ぬかではありません。それから抽出されたフェルラ酸という成分が有効とされております。

 

高井

ところで遠藤先生は日経によく出ますね。

 

遠藤先生

新聞もラジオも、睡眠というと、根拠がよくわからない内容の発言をする人も多いので、医者、学者がちゃんとしたことを言わなければならないと思い活動しています。睡眠はまだ体系化されていません。でもすごく大事な分野ですし、医学としてもちゃんと確立されるべき分野ですし、商品として、寝具、寝方などはちゃんとしていかなければならない。世の中によくわからないものが多すぎるので、医者である僕が出て行って、たとえば生理学的にいうと、人間にはこういう特性があるので、こういうふうな寝具を選びなさい、こういうふうな寝方をしなさいということをちゃんと言わないと、この業界全体がいかがわしい業界になってしまうという危機感があります。

 

山岡先生

遠藤先生の睡眠ですが、私はよく患者さんに、「治療において睡眠が一番大事」「体の病気も心の病気も睡眠がとれていることが一番自然治癒を促進するとお話しています」これは真実だと思います。

 

遠藤先生

間違いないです。

 

山岡先生

眠りが、一番害がなく一番確実に治せます。

 

遠藤先生

基本的には僕の場合は眠りが定量化できているので、その人がいい睡眠がとれているのかどうかがすごくよくわかります。もともと僕は精神科医です。メンタルとスリープ両方に問題がある場合、私は意図的に、メンタルは治しません、睡眠しか見ません、と言っています。睡眠しか見ないと言うのは、睡眠計しか見ないということです。それは意図的にやっています。睡眠を治すとメンタルも自然に治ってしまう場合があるからです。ですから、患者さんでメンタルに複雑なものを持っているなと思いながらもわざわざ聞きません。

 

山岡先生

ところでアルツハイマー病の治療とオキシトシンのことですが、アルツハイマー病の人は、記憶がなくなってしまう不安の世界にいます。高井先生はユマニチュードをご存知ですか。

 

高井

知りません。

 

山岡先生

ユマニチュードとは、フランス発祥の認知症ケアの方法です。「ちゃんと目を見る」「積極的に話しかける」「優しく触れる」「自分の足で立つ」というコミュニケーションの4つの基本手法があり、フランス、ドイツ、カナダなどで盛んにおこなわれております。要するに、人としてアルツハイマーの人に対応すると不安が取れる。NHKテレビでも取り上げられていました。このユマニチュードの効果はオキシトシンによるものだと私は考えております。要するに、アルツハイマー型認知症の患者さんにきちんと対応すること。認知症のせいで他の人から、なかなかきちんと対応された経験がなくなっている人に、動物的にはおそらく、自分は大切にされているとか、この人は危害を加えない人だとか、そういう安心感が与えられると、そこに、心の交流を含めた安心感ができてオキシトシンがさらに分泌されると思います。理学療法では、患者さんばかりでなく施術者もオキシトシンが分泌されることが分かっています。ユマニチュードでも同様の現象がアルツハイマー病の患者さんと治療者に起きていると思われます。ユマニチュードを行うと、うつ状態や暴力的になったりする人も、穏やかになり、「魔法のよう」とその効果が紹介されることもあります。

 

高井

アルツハイマーが治るの?

 

山岡先生

治るわけではありません。ただドタバタしている症状が起こらなくなる。ユマニチュードは国際的にも有名です。ユマニチュードを実施している人たちは、オキシトシンが関与しているとは話されておりませんが、私はオキシトシンが深く関わっていると思っております。

 

高井

今日は色々なお話をありがとうございました。

 

以上

 

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