『労働新聞』高井伸夫弁護士の四時評論<第17回 人材グローバル化(3)>

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2016年11月12日(土)7:26 目黒区青葉台3にてプリンセス・ドゥ・モナコを撮影
花言葉:「淑やか、温かい心」 


 

第17回人材グローバル化(3)
(2008年10月20日) 

 

 

孫文(1866~1925)は著作『三民主義』の中で「中国人はひとにぎりの砂である」との論説を紹介している。つまり、乾いた砂粒は独立していて決してくっつかず、石にも、まして岩にもなり得ない。

一方、わが国では聖徳太子の「十七条憲法」(604年伝)1条が「以和爲貴(和を以って貴しとなす)」とし、国家君が代が「さざれ石の岩の巌となりて苔のむすまで」と謳うように、「和」「協調」が何より重んじられてきた。これらは国民性・民族性の違いと言うほかはなく、互いの特徴として認め合うしかない。日本人の中にはとかく「中国人に騙された、裏切られた」と嘆きあるいは怒る者もいるが、それは違う。基本的に、個人主義と集団主義の相克に過ぎないのである。そして、残念ながら世界では日本だけが集団主義であると言っても過言ではなく、個人主義は中国のみならず諸外国にほぼ共通する文化である。即ち、日本は万世一系の天皇のもとに「和」や「集団」を重んじる風土が形成されたが、諸外国の王朝・政府は革命で覆ることが半ば当然であり、人民は「公」を信頼し得ないとして個人主義とならざるを得なかったのである。そのため、日本は自らを変質させなければ、グローバル化対応を果たせないという宿命を負っている。

個人主義の内容を分かりやすくいえば、「権利の極大化・義務の極小化・責任転嫁」と表現できる。個人主義の国では、誰もが自らの利益を絶えず追求する“常在戦場”の精神に基づき、権利を可能な限り小さくし、いかに責任を負わないようにするかが行動基準になる。したがって、日常的買い物でも値段を高めに吹っかけ(権利の極大化)、買い手はそれを値切ることが義務なのである(義務の極小化)。

また、日本の契約書は「この契約に定めのない事項が生じたとき、又は、この契約各条項の解釈につき疑義の生じたときは、信義誠実の原則に基づいて協議・解決する」旨の条項を置いているが、中国ではこうした曖昧な文言は意味をなさない。中国人・中国企業との契約は、アメリカ的に細大漏らさず規定しなければ、彼らにとって信義誠実の原則=「権利の極大化・義務の極小化・責任転嫁」の行動原理に基づき対応され、当方は想定外の損害を受ける。

 

書面が必要な労働契約

これらを、日本人の感覚のみをもって中国を「とんでもない国!」と批判すること自体が、世界を知らない平和ボケ以外のなにものでもない。「衣食住足りて礼節を知る」(管子)というが、新興国の礼節に関する部分は、国民の一人ひとりが豊かになり国際的地位が高まることによって初めて備わっていくものなのである。それを興隆期に求めても、ないものねだりというほかはない。現地人のいささか気になる行為等をも包容する姿勢こそ大切である。

労働契約の面でも、中国の労働契約法10条は、労働契約締結の際に書面を取り交わさなければならない旨定めているが、これは前述の民族性に基礎を置くものである。日本では徐々に書面化が進んでいるとはいえ、口頭でも労働契約は成立し得る。

また、人事労務との関連で言うと、集団主義である日本は基本的には集団管理でよいが、個人主義である中国では大衆の統御が極めて困難であり、個人管理を徹底しなければならない。これが中国の人事労務の一番のコツである。それゆえ、中国人の就業規則が日本のような曖昧な文言では実効性がなく、微細に亘り規定する必要がある。例えば、規律違反に対する罰金規定では、対象となる行為と金額が具体的かつ詳細に列挙されているのが一般なのである。

なお、個人主義の人事管理の弊害の一つは、部下に自分より能力のある者を迎えたがらず、迎えたとなると功績を貶め、“足を引っ張る”傾向がある。このことを念頭に置いて人事管理を進めなければならないこともまた、個人主義の国民に対する態度として極めて肝要である。

 

国外追放や入国拒否も

こうした彼我の様々な差異を理解し、現地でも日本国内でも国籍に拘らない働きのできる人材を得るためには、①ダイバーシティの理解、②柔軟な価値観、③人権を重んじる振る舞いを念頭においたグローバル教育が重要となる。異なった考え方・思い方・感じ方・価値観を持つ多様な人材が交流する中で、発展的かつ創造的な成果が生み出されるのである。多様性の概念=ダイバーシティ(diversity)は、企業の現場でも業績の向上につながるものとして評価されている。

香港の地下鉄工事(1975年)を請け負った日本の建設会社担当者の当時の経験談を紹介しよう。この工事は英国人・広東人・韓国人・日本人の4つの異なる民族が協力して完成した。始めはお互いの言葉が通じなかったため摩擦もなかったが、少しずつ言葉が分かりはじめコミュニケーションが可能になってくるとケンカがみられるようになり、人間関係上の葛藤が凄まじかったという。しかし、彼らはケンカや衝突を経ることによって相互理解を深め工事は安全に進んだ。

①日本企業は人を見抜く目利きとなることを心掛け、ダイバーシティ概念を理解できる人材を見出し、教育・評価し、海外に派遣することが第一に肝要である。②そしてそれには、価値観において硬直的な人物は不適であり、フレキシブルな思考を展開できる人材が必要である。特に、日本から派遣するトップおよびナンバー2には、国内で成功した人よりも、多様な文化に喜んで対応できる人を選ぶべきである。

さらに、これらの大前提とも言えるのが、③現地の国民の人権を重んじる日本人派遣員の意識・姿勢・振る舞い、つまり人間としての真摯さである。例えば、中国の日本人派遣員の中には、国外追放を命じられる者や再入国を拒否される者もいる。それは現地の反政府的団体に関与した等の政治的理由だけでなく、現地女性とふしだらな行為に及んだことを理由とするビジネスマンの例も非常に多い。そのような人物を擁する企業に属する者が、中国の人権問題を云々すること自体、論外である。

グローバル化の意義を深く理解し、人権を尊重する所作・振る舞いを身に付けさせることは、グローバル化対応教育の重要な一章なのである。

また、グローバル化教育は日本人だけでなく現地人に対しても重要であり、上記①~③は彼らにも同様に求められる。そして、日本での定期的・継続的な研修や、日本と現地で人材交流(転勤・出向・出張等)を行い、人の往来を実行することも教育効果が大きい。さらに、日本本社で海外子会社などを統括する部門の長やスタッフ・サポート部隊に、海外から優秀なスタッフを招致し実をあげるとともに、将来の海外子会社の幹部候補として育成することも取り組むべき課題であろう。

グローバル化を図るには、尖兵としての日本人派遣員は、現地人に対する教育的役割を一層強調しなければならないのである。

 

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