『労働新聞』高井伸夫弁護士の四時評論<第16回 人材グローバル化(2)>

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2016年10月29日(土)10:51 白浜野島崎にて撮影

 

 

第16回人材グローバル化(2)
(2008年10月13日) 

 


今回は小生が中国での実体験に基づいて、現地の情報収集の重要性を指摘する観点から感じていることを述べてみたい。

 

まず群れから飛び出す

前回、日本人の群れたがる習性を批判的に紹介したが、日本人には「群れざるを得ない」事情がある事も否めない。なぜなら、日本人は欧米では人種的に差別され、中国等アジアでは対抗意識を抱かれるため、それらに伍していくためには自己防衛的な意味で集団の力で活動せざるを得ないのである。この点、米国に「日本人村」がなくなったのは、ひとつの進化であるといってよい。日本人は個々が切磋琢磨した結果、有能であると認知されてきたからこそ、集団になる意味が薄れ、「村」がなくなった。一方、韓国人村や中国人村はまだ存在するのであり、彼らは未だ日本人ほど認知されていないということになる。

しかし、いかに自らを守るために「群れざるを得ない」側面があったとしても、勇気をもってそこから飛び出し現地の人々と積極的に交わらなければ、更なる成長を遂げることはできない。例えば中国で日本人幹部だけで経営方針を決めたり、人事労務問題を処理すること自体、現地の人々に違和感・不信の念を持たれ信頼を得られない。その結果、士気の低下や労働生産性の低下をもたらすのである。

私が上海で主催している勉強会「上海高井倶楽部」は、非営利の相互扶助組織で、日中のビジネスの架け橋たらんとして2002年11月に立ち上げたものである。会員は在上海の日本企業百数十社だけでなく、多くの中国人にも会員や理事としてご参加いただいている。日本人が中国人との真の信頼関係を作り上げるためには、おごりや慢心を捨て、謙虚に中国人に学ぶ姿勢を持つことが重要であるし、また、日本人だけでは結局「群れる」ことになり会の発展性がないからである。こうした交流の仕組みを作り、現地の人々との交わりを日本人に体験してもらう「場」を提供することも、この会の趣旨である。会の費用は私の事務所がいくらか負担するボランティア組織であるが、日本人が「群れる」ことを回避するための、現地社会に対する貢献活動のひとつである。

現地の人々と交流すると彼らから大いに尊敬され、いろいろな重要な情報を得ることが可能となるものだが、これは実際に体験してみなければ分からない。現地の人との交流は心掛けひとつで容易に実行できるグローバル化の第一歩なのである。

コミュニケーション能力というと、「TOEFLのスコア××点以上」という話になりがちであるが、人間同士の交流は、まずは相手に好意好感を持ってもらう人間性を表現することから始まることを忘れてはならない。

相手に好感を持ってもらえるほどの語学力とは、単なる挨拶や日常会話レベルでは不十分で、電話で当意即妙の会話をして笑いを誘うことができる程度の能力をいう。中国人と自然に交わり、冗談をいい合い、雑談・歓談することによって互いの心の絆は強くなっていくのである。現地の企業内で日本人だけで固まっていては、どうしても現地の人とコミュニケーションの本質である意思疎通を欠き、全社一体となって企業活動を展開するような経営の一体感の形成ができなくなってしまう。

中国人は個人主義であるがゆえにとかく情報を公開せず、社会的には透明性が低い。こうした、事実を隠し正確に伝えないという中国社会の傾向からすると、情報の希薄化・途絶化は企業活動にとって極めてリスキーな状態をもたらすことになる。

 

日本総領事館に足運ぶ

さて、内販を進めるに当たってはクライアントに好意好感を持ってもらうことが必要だが、とりわけ政府の要職の方にそうした感情を抱いてもらうことが肝要であり、そのことが従業員や企業を取り巻く利害関係者に、安心感・安堵感を与えることにつながる。十分なコミュニケーション能力が必要となる。

現地の人々との交流を深めて現地に溶け込むことに加え、さらには政治的背景を築くことは、日本人企業として非常に重要なことである。特に新興国には民主主義が十分に発達していないところがあるから、現地政府の人と親しくなって交際し、こちらを理解してもらい、政治的背景を築くことが重要である。

それは何も難しいことではなく、例えば現地政府の行う講演会等に出席し、名刺を交換し、御礼状を出すというささやかなことが端緒となる。より効果的なのは、質問をして適切な回答を得た場合に感謝の意を表すべく御礼状を出すことである。さらに折に触れ懇談会の席を設けてごく少人数でお話を聞くことになれば、現地政府との間で理解が深まり好感を持ってもらえるようになる。中国で日本企業が日本人だけで経営し、中国人や地方政府と交流する機会を得ようと努力しないならば、結局は中国人従業員の信頼を得られない。

また、情報という観点からいえば、現地の日本総領事館等政府機関の重要性も見逃してはならない。実際に足を運ぶ人はなぜか少ない。前述の「上海高井倶楽部」では、総領事館等の方にも折りに触れ勉強会にご出講いただく等の活動も行っており、会員から好評を博している。

以上のように、私がグローバル化のための留意点として現地で特に実感している①日本人同士で群れないこと、②真の意味でのコミュニケーション能力を磨く、③現地における政府関係者との交流の重要性、という3テーマを中国において日本企業が疎かにしていると、次の3つのリスクが発生するだろう。

 

人事労務情報が途絶も

第1に、中国人からの人事労務上・経営上の肝心な情報が希薄化ないし途絶化する。その結果、経営が日常的に様々な危険にさらされ脆弱になる。第2に現地の人の積極的な協力が得られず、企業内で一体感の形成ができない。経営者にコミュニケーション能力がなく、現地政府の理解を得ていないということ自体が、中国人のビジネスマン・労働者に潜在的不安感を抱かせることに繋がるからである。第3にその結果として労働者の定着率が悪くなり、積極的な協力が得られず、結局は生産性が上がらないという結果を招く。

(社)日本能率協会(JMA)の報告書「中国における日系企業の経営のあり方」(2008年4月)の調査結果によれば、上海の日経企業にとって現在の最も重要な経営課題は「優秀な中国人幹部の採用、定着と育成」(100%)であり、人材マネジメントの最も重要な課題は「優秀な人材の採用・定着」(80%)であるという。つまり中国における企業経営はリーダーシップ・マネジメントにかかっているということである。

何はともあれ、日本企業が海外に進出し、現地化に成功して現地で確かな経営を行うためには、現地の正確な情報収集が何よりも必要である。要するに、彼を知って初めて、市場・ビジネス戦場でフルに企業の能力を発揮できるからである。

 

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