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2015年10月3日(土)7:23 目黒区青葉台1にてマリーゴールドを撮影
花言葉:「嫉妬、悲しみ」 

 

 

7月24日(金)から、2011年5月~2012年4月にかけて、計12回、『月刊公論』(財界通信社)にて私が連載いたしました「高井伸夫のリーダーの条件」を転載しています。 

私の半世紀にわたる経営側の人事・労務問題の専門弁護士としての経験もふまえ、リーダーのあり方について述べた連載です。 

これからは、自分一人の信念で周囲をひっぱっていくというリーダーの時代ではありません。優れたリーダーには必ず、”股肱(ここう)の臣、頼れる参謀”が付いているものです。もはや”孤高の人”では、リーダーにはなり得ないのです。 

ブログ読者の皆さまに、現代におけるリーダーシップ論を考えていただく一助となれば幸いです。

 

 

いまの時代にふさわしい「コンプライアンス」「危機管理」の要諦はなにか
経営者の志を守るために― 
(『月刊公論』2012年2月号より転載) 

 

企業の不祥事が起こるたびに、法令遵守・コンプライアンスの重要性が声高に叫ばれます。これは経営者にとって確かにいろはの「い」です。しかし、事業体にとっての一番の価値や、経営者の志が何かということが明確になっていないのにコンプライアンスに取り組んでも、それは、「仏作って魂入れず」にほかならないのです。

 

「高収益の確保による危機管理」

日本最高の経営力を誇り、日本の製造業の最後の大物経営者とも言われている日本電産・永守重信社長は、インタビューやご自身のブログで、「築城3年、落城3時間」という刺激的な警句を紹介されています(『ウエッジ』2011年10月号、日本経済新聞社「永守重信氏の経営者ブログ」等)。これは、危機管理の重要性を訴える言葉に違いありません。

リーマンショックで世界が経済不況に陥った2008年秋、日本電産は、2007年度実績で770億円を超える営業利益を上げていたにも拘わらず、永守社長のリーダーシップのもと、社内で十分な合意形成をおこない、迅速に賃金ダウンを実施したのは有名な話です。私は、予て永守社長のこうした素晴らしい経営力に感銘を受けていましたので、雑誌『ウエッジ』で永守社長の「築城3年落城3時間」という言葉を拝見して、打たれたのです。

経営者は危機管理に鋭くなければなりませんが、その基本は平素から法令遵守=コンプライアンスを心掛けることです。しかし、危機管理のさらなる原点は、なんと言っても経営力の強さであることを知らなければなりません。そして、経営力の原点は、強い経営体であるということです。強い経営体であってはじめて、危機管理を十分におこなえるのです。永守社長は、「高収入を維持しておかないと、会社は持続できない」(12月7日付ブログ)という発言もされていますが、高収入こそ、強い経営体による最上の危機管理です。

 

「良心経営の時代」

私はこれまでいろいろなところで書き、発言していますが、いまは良心経営の時代です。ITの発達という点からも、また内部告発が一般的になったことからいっても、企業や経営者の邪悪な活動はすぐに社会に知れわたります。経営者が良心に基づく生き方をして、さらに良心に基づく経営を行わなければ、よい人材は決して集まらない時代なのです。そして、良心経営になればなるほど、危機管理は繊細かつ緻密でなければなりません。この場合の良心の内容を私なりに分析すれば、「真・善・美」を求め、「夢・愛・誠」を追い続け、「道理・道義・道徳」を旨として、これらの頂点に「志」を高く掲げるということです。ですから、あえて言えば、「真・善・美」「夢・愛・誠」「道義・道理・道徳」そして「志」という10要素を満足する経営が、良心経営なのです。

永守社長の志は「100万人の雇用」がテーマであると、人ずてに聞いたことがあります。日本電産の雇用数は現在およそ10万人ほどであるとのことですので、永守社長はこれを10倍にすることを目標にしていることになります。この不況下では、人員削減・リストラが激しく断行されますが、それに逆行するかのように、永守社長は雇用量の増大を旨として経営を引っ張っているのです。

これは、永守社長が、経営力の基盤として極めて強靱な思想・信条を持っていることを示しています。そうした基盤があってこそ、大きな利益をあげながらもなお果敢に賃金ダウンを図る力を発揮できたのです。

ちなみに、永守社長は、M&Aにより譲り受けた企業を再建するときも、社長以下の経営陣を原則として交代させず経営のやり方を学んでもらい、赤字から黒字に大転換する経験を積んでもらうといいます。これはもう経営の域をはるかに超越して、社会貢献、否、社会還元活動ともいうべき高い志であると私には思えます。そして、経営者・経営陣に対するこうした指導・教育を可能にしている根源は、グループが高い収益性を保持していることにあるのです。

 

「経営者にとって志の重要性」

志を高く揚げる経営体であるということは、自分を取り巻く従業員の幸せを願うだけでなく、日本の雇用のあり方、世界の雇用のあり方に対する影響力をなにがしか持つという事実と気構えが必要です。自分の経営体を単に活かすだけでなく、積極的に活かす方向での社会寄与を意識してこそ、良心経営下の志として評価されるのではないでしょうか。

永守社長のほかにも、良心経営を実行されている経営者は多くいます。たとえば、楽天・三木谷浩史社長の「世界一のインターネット・サービス企業」を作ろうという意気込みや、武田薬品工業・長谷川閑史社長の「持続的成長」というテーマもまた立派な志でしょう。

要するに、良心経営とは、「真・善美」等々の細かい話はもちろんのこと、志をたてること自体がもっとも重要なのです。コンプライアンスは、あくまでも志を守るための方途ですから、志がないのにコンプライアンスの遵守のみに忠実でそのことが目的化してしまっては、本末転倒です。

 

「経営に改革・革新・変化を」

「さらばガラパゴス統治 たゆまぬ改革が信認生む」(2011年12月4日付日本経済新聞)という新聞の見出しがありましたが、この言葉は、柔軟な思考で経営に臨まなければならない経営者の姿勢にもあてはまります。自身の成功体験に酔ったり、固定観念にとらわれたりしては進歩がありません。時代の絶えざる変化の半歩先を読んで、経営革新をはかり続けることこそが企業存続のための最重要ポイントなのです。まさに、「いち早く変わらなければ、後退あるのみ」(柳井正氏コメント/森山進『英語社内公用語化の傾向と対策』研究社2011年4月)なのです。いま、日本を取り巻く環境は険しいものですが、「日本にいつまでも残る『リスク』のほうが、成長市場である中国など新興国に進出する『リスク』より大きくなってきた」(永守社長)という事実を直視して、覚悟を決めて国際化を断行せざるを得ないのです。

この原稿を書いている2011年12月10日現在では、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加に反対する勢力がかなりあります。そして、彼らの主張にも頷ける部分が多いことも十分に承知しています。なぜなら、TPPに参加すれば、日本が寒風にさらされることは必然だからです。しかし、このことに怖じ気づいていては、日本は退歩するのみです。寒風を覚悟でこれに耐え、鍛えてこそ、日本は生き残ることができるのです。

コンプライアンスは、時代の変化に伴い変容するものであり、新しい時代を旨とした経営の土台たり得るものでなければならないと思います。すなわち、新しい酒を古い革袋に入れるようなことがあってはなりません。企業は、事業革新のために新しい困難に挑戦することになりますから、当然、コンプライアンスについても、世界に羽ばたくにふさわしい企業として、絶えず意識改革して臨まなければならないのです。

 

「ソフト化時代の危機管理の要諦」

さて、コンプライアンスも危機管理も、多方面にわたって際限なくありますが、何を中心にして危機管理を進めるかが経営者の腕の見せどころです。企業が進展をはかるためには、経営者自らが新しい事業地域に赴いて、そこで深呼吸して体感し、食事をし、知人友人と話し、現地の話題を接収することが必要となります。東京の丸ノ内のオフィスにいては、危機管理はできません。そして、前述のとおり、いまは「真・善・美」「夢・愛・誠」「道義・道理・道徳」「志」という捕捉しがたいテーマを克服しなければならないだけに、コストや売上高などの数字だけを意識してコンプライアンス・危機管理を見定めてはならないのです。言ってみれば、ソフト化の時代には、それにふさわしい抽象的な世界・見えない心を察知することに、企業の危機管理の要諦があるのです。

 

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